コンテンツマーケティングでは、コンテンツへの来訪者を増やすだけでなく、意図する態度変容をユーザーに起こしてもらうため、Webサイト到着後にコンテンツを閲覧し、理解や共感などをしてもらうか(エンゲージしてもらうか)が重要となります。この「エンゲージ度合い」を図る指標として、一般的に「直帰率」と「平均滞在時間」が用いられます。

その理由としては、「トピックに関心があり、コンテンツにエンゲージしたユーザーは、時間をかけてその記事や動画コンテンツを消費し、検討するために関連情報が記載されているページへ読み進む」との想定に基づき、「訪問時にアクセスするページ数は複数となるため直帰率が下がり、平均滞在時間は長くなる」と考えるためです。

この考え方は正論ですが、Google Analytics の場合、いくつか考慮する点があります。本稿では、「直帰率」と「平均滞在時間」の落とし穴と対策に関して紹介したいと思います。

直帰率でコンテンツの質は計れない

最初に直帰率について考えてみましょう。直帰は、英語で「bounce (バウンス)」と言い、これは「跳ね返った」という意味を持ちます。従って、直帰率とは、該当ページのみを開き、次のページに読み進むことなく、Webサイトを去ってしまったセッションの割合(率)を指します。

インターネットが生活の一部になって以来、多数のWebサイトが作られました。これらのサイト運営者が抱える「どれぐらいの人がどのページを読んでくれるのかを知りたい」という要望に応えるため、Web解析ツールは発展してきました。

インターネット黎明期は、名刺や広告にURLを記載し、まずはサイトのトップページに誘導するという手法が一般的でした。1990年代、Web解析ツールの基礎が作られることになるのですが、その当時の一般的なユーザーの行動スタイルが設計思想に反映されています。すなわち、「サイトのトップページはメニューや新着情報を表示し、実際に消費するコンテンツはそこからリンクまたはメニューをクリックして進んで到達するもの」というものです。

そのため、コンテンツを見たユーザーと見なかったユーザーの違いは、セッション中のPVが "1かそれ以上か" によって判断することができました。このことから、「直帰=クオリティの低い訪問」であり、間違い電話のように意味のなかったユーザー行動であるという基準が作られました。

しかし、2015年現在のWeb環境は、1990年当時と比べて大きな変容を遂げました。ユーザーが検索エンジンから直接欲しい情報にアクセスしたり、媒体上のおすすめコンテンツや関連記事リンクをクリックしたりして、サイトのトップページを経由せずに、直接コンテンツページを消費するようになりました。すなわち、セッション中の1PV目が、すでにサイト訪問の目的ページになっており、サイトへの訪問が1ページで終わることは、決してクオリティの低い訪問を示すものではなくなっているのです。

また、直帰率が80%であったとすると、来訪者の10人に8人が何も読まずに帰ったというように解釈しがちですが、その考えは正しいのでしょうか。

冒頭でも説明したように、直帰とは、セッションを開始したページから別のページへ進まなかったことを意味しています。訪問したユーザーが最初のページを5分見ても、5秒見ても、1ページしか見ないで去った場合は直帰となり、エンゲージしたかどうかを判定する指標にはなりません。

繰り返しになりますが、サイトのトップページを経由せず、直接リンクからコンテンツへ集客したトラフィックの効果を図る際には、その直帰率が高いか低いかを見ることに意味はありません。大事なことは、ユーザーがコンテンツとエンゲージしているかどうかを判別することであるはずです (なお、その方法論については、次回ご説明します)。

「滞在時間」は、ユーザーが本当に滞在した時間なのか?

多くのサイト運営者が持っている「コンテンツページおよびWebサイトでの滞在時間が長ければ、エンゲージしている可能性が高い」という仮定も、それ自体は理にかなっています。平均5秒しかページに滞在しなかったキャンペーンより、40秒滞在したキャンペーンの方が、コンテンツを「しっかり時間をかけて消費した」ように見えます。しかし、Web解析においては、ここでも問題があります。

滞在時間を正しく計測する方法は、ない

「えっ、そうなの?!」と、驚かれた読者もいるかもしれません。では、解説していきましょう。

Web解析ツールは、大雑把に言うと、各ページの名前とURL、ページを開いた日時(時刻)を記録しています。「ページ滞在時間」とは、1つのページを開いた時間を起点に、同じサイト内で次のページを開いた時間までの差を算出したものです。したがって、訪問中にアクセスした「各ページの滞在時間」を訪問セッションごとに合計したものが「セッションごとの滞在時間」となります。

さて、ここで問題です。以下のような図で記録された3ページのセッションの場合、その滞在時間は全部で何分何秒になるでしょう。

例1 : 3ページ開いた場合の滞在時間

「ユーザーが3ページを訪問し、それぞれのページで2分滞在した場合、合計6分滞在した」と計算しがちです。しかし、前述の通り、Web解析ツールはその後のページを開いた記録がないページ、つまり「訪問の最後のページ」については時間を計算できません。したがって、Google Analyticsに記録される滞在時間は4分と記録されます。

次に、1ページしか開かなかったセッションの場合はどうでしょう。

例2 : 1ページしか開かなかった場合の滞在時間

たとえ何分滞在していても、このときの滞在時間は「0秒」となります。

これでご理解いただけたと思いますが、Google Analyticsの集客レポートにて「平均セッション時間」を比較しても、コンテンツページへ直接送客しているのかや、購買ファネルのどの位置にあるユーザーへリーチしているのかなど、さまざまな要因によってまるで意味するものが違ってしまいます。少なくとも、コンテンツとエンゲージしたかを判定する基準にはなりません。

では、どうすれば「ユーザーがエンゲージしたか」を測ることができるのでしょうか。それについては次回、ご説明します。

執筆者紹介

アウトブレイン ジャパン 筒井 祐介

世界規模のコンテンツレコメンデーションプラットフォームを活用し、企業のコンテンツマーケティングを支援するアウトブレインジャパンのシニアアカウントストラテジスト。Web解析ツールのエキスパートとして、データを用いたマーケティング施策改善のためのコンサルティングを行う。アウトブレイン入社前は、オーストラリアを拠点に約8年間、デジタルマーケティングの分野でサイト解析や効果分析の業務に携わる。なお、アウトブレインの公式Webサイトは、こちらから。