【連載】

プロービングで失敗しないためのオシロスコープ応用講座

3 グラウンドリードの罠

    稲垣正一郎  [2008/08/26]

    グラウンドリードによる失敗

    測定点へのプロービングにおいて、多くの場合は付属のグラウンドリードのワニ口クリップとプローブ先端針を接続することでしょう(写真1)。

    写真1:プロービングの例 - グラウンドリードのワニ口クリップとプローブ先端針を接続

    ところが周波数が高くなると、この接続は問題を生じます。実例をご覧ください(図1)。

    図1:グラウンドリードを使ったプロービングの失敗例

    プローブのグラウンドリードを使ってサイン波信号発生器につなぎ、オシロスコープで波形振幅を観測しました。信号発生器の信号振幅は1Vに保ちながら、その周波数だけを変化させてみました。信号発生器からの振幅は一定なのに、プローブを通過した振幅は大きく変化していることが分かります。50MHzを超えると振幅が変化を始め、59.9MHzと100.1MHzではサイン波が極小値と極大値をとっています。この周波数の振幅を測定したら、その結果は-20%、+50%もの誤差を生じます。ちなみに理想的なプロービングをした場合のプローブ通過波形は図2のようになります。

    図2:理想的なプロービングの例

    周波数が変わっても、振幅はほとんど変わりません。パルス波の形の変化でもグラウンドリードの影響を見ることができます。理想的な接続を行った黒の波形に比べ、グラウンドリードを使った茶色の波形は大きく振動しています(図3)。

    図3:グラウンドリードを使用した際のパルス波(茶色の波形)

    この状態でマスクテストをしても、テストはパスしないでしょう。グラウンドリードによる影響は周波数特性でも見ることができます。理想的なプローブ接続における特性はほとんど平坦なはずですが、50MHzあたりから振幅に変化が表れ、60MHz付近において大きな谷を生じ、100MHzを越えると激しく特性が変動しています(図4)。

    図4:グラウンドリードを使用した際の周波数特性

    ここで示した例は出力インピーダンスが50Ωの信号発生器を使った場合の波形ですが、グラウンドリードの使用が測定結果に深刻な影響を与えることは事実です。一概には言えませんが、数10MHzを超える周波数成分を持つ信号のプロービングにおいては、付属のグラウンドリードは要注意です。

    特性悪化の理由

    ここで「グラウンドリードを標準付属しておきながら、何を言う!」とお怒りにならず、その原理を知ってください。原理を知れば取るべき対応策が見えてきます。プロービングにおいて、被測定回路とプローブの作る等価回路の一例を示します(図5)。

    図5:被測定回路とプローブの作る等価回路の一例

    Lgは受動プローブのグラウンドリードの誘導成分(インダクタンス)、Cpは受動プローブの入力容量成分(キャパシタンス)です。これらのLgとCpが共振(固有の周波数において大きなエネルギーの流入出現象)を起こし、元信号Esとは異なる波形Eoを作り上げてしまうのです。そこで、この共振を防ぐことが肝心です。プロービングにおける共振を防げば、元波形に忠実な波形が得られ、正しい測定ができます。

    なお、共振はLgとCpとの直列共振です。共振周波数は式1により求められます。

    式1:共振周波数

    Lgを小さくするか、Cpを小さくすれば改善されます(固有の共振周波数を高くし、測定機器の周波数帯域の帯域外へ押し出してしまう)。入力容量の小さな受動プローブを選ぶことにより、Cpは幾分小さくできますが、だいたい10pF程度の値です。10倍も改善するのは困難です。ところがLgはグラウンドリードの長さに直結し(1mm当たり数nHくらい)、短くしさえすれば、10倍くらいの改善が容易です。

    受動プローブ特性改善アダプタ

    写真2写真3の先端アダプタをごらんください。これは短いグラウンドリードアダプタです。

    写真2

    写真3

    通常のグラウンドリード(写真4)と比べればその短さは明らかです。これらを使った測定では大きな改善が見られ、サイン波の振幅誤差は小さく、パルス波の変形も極小になります。

    写真4

    受動プローブ接続ポイントをあらかじめボードに設けておけば、理想的なプロービングとなります(写真5)。つまり、グラウンドリードによる失敗は、受動プローブのグラウンドリード長を短くすることで防げます。

    写真5:理想的なプロービング

    受動プローブの2つの限界

    しかし、受動プローブには逃れられない問題が2つ残ります。1つ目は周波数帯域です。およそすべての受動プローブの周波数帯域は500MHz止まりなので、それより高い周波数は観測できません。2つ目は10pFもある受動プローブ自体の入力容量です。受動プローブの入力容量が波形を変形させる場合があります。これらが受動プローブの限界です。そこで、さらに高い周波数の測定や軽い負荷を実現できる新たなプローブが求められます。

    次回は、そのプローブについて述べていきます。お楽しみに。

    ※ 本連載記事は、毎週火曜日と金曜日に掲載いたします。

    著者
    稲垣 正一郎(いながき・しょういちろう)
    日本テクトロニクス テクニカルサポートセンター センター長

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