口臭を隠すグッズじゃダメ?

1995年に九州歯科大学が発表した論文(※1)では、「社会的容認限度を超える強さの口臭を持つ成人は測定時間帯により6~23%存在する」ことや「口臭の原因物質に有意な男女差は認められない」ことがわかりました。つまり、男女を問わず成人の1~2割程度にきつい口臭があるということです。

先日も、きつい口臭がある方が診療に来ました。本人は気づいていないようでした。

きつい口臭があるのに、自分では気づかない。でもこれは、珍しいことではありません。自分の臭いに慣れてしまい、嗅覚(きゅうかく)が鈍くなってしまうからです。一方、口臭がないのに、口臭があるのではないかと不安に思う方もいます。これは「口臭恐怖症」(※2)といい、精神的なストレスなどが影響していることがあります。

今回は、自分では気づきにくい口臭の原因と根本的な解決法についてお話しします。

口が臭う4つの原因

口臭の80%以上は、口の中に原因があると言われています。主な原因を見ていきましょう。

1.だ液が少ない

ビジネスパーソンの皆さん、大事な商談でしゃべり続けたときや、プレゼンや会議の前で緊張状態にあるとき、口の中が渇いていることに気づきませんか? 水分を摂(と)らずに話し続けたり、極度の緊張状態が続いたりすると、だ液が少なくなり、口臭が出る可能性があります。

なぜなら、だ液には食べ物を洗い流す作用や抗菌作用があるからです。食事をすると、だ液が出て、口の中の細菌数が減ります。また、高血圧や睡眠薬、抗不安薬などの副作用によって、だ液が少なくなる方もいます。

2.むし歯(う蝕)、歯肉炎、歯槽膿漏(歯周炎)

むし歯が進むと、歯の穴に汚れがたまりやすくなりますし、歯肉が腫れているとうまく磨けず汚れが隠されてしまいます。取りきれなかった汚れ(プラーク)は臭いの原因になります。このような時期は、膿もたまりやすく最も口の臭いがきつくなりやすい状態であると言えるでしょう。

プラークの臭いは、奥歯にフロスをかけてみて、ついたプラークの臭いを嗅いでみるとわかります。朝食や昼食の後、歯磨きの時間が十分取れない人は要注意です。ブラッシングが不十分になり、放っておいたプラークが口臭の原因になります。

3.舌苔

舌苔とは舌の凹凸部分につく汚れのことで、これも口臭の原因になります。舌の奥に触れるとオエッとなりやすい嘔吐反射のある方や、だ液が減っている方、舌磨きをされていない方は、舌の上に白い舌苔がつきやすいようです。舌苔があると食べ物や汚れがつきやすかったり、それを栄養にする細菌やカビが増えやすかったりします。

4.義歯

入れ歯を食後も洗わず、清潔に保たれていない方がいます。口の中にもともといる口腔常在菌のカビが増えてカンジダ症になったり、入れ歯についた汚れが腐敗したりして口臭の原因になることがあります。

このほか、アルコールを多量に飲むと、アルコール臭が気になることがあります。また、タバコを吸う方の息は、非喫煙者にはつらいこともあるので配慮が必要かもしれません。

また、全身の病気で口臭が出る可能性もあります。例えば、アレルギー性鼻炎や蓄膿症(副鼻腔炎)などで鼻、のど、気管に慢性の炎症があれば、口臭につながります。ほかにも糖尿病が悪化したときや(アセトン臭)、じん臓や肝臓の機能が著しく障害されたときに口臭が出ることがあります(※3)。きつい臭いを他人から指摘されたら近くの歯科医院や病院を受診し、問題がないかどうかを診てもらってもいいのかもしれません。

口の中をきれいにしよう

口臭を隠すグッズやサプリメントがありますが、根本的な原因を取り除かなくては解決にはなりません。汚れた服にいくら消臭剤をしてもダメですよね。

口臭予防の基本は、口の中をきれいにすることです。診療で「歯磨きをしましたか? 」と聞くと、ほとんどの方が「しました! 」とおっしゃります。ぜひ一度、汚れ(プラーク)がきちんと取れているかを意識してみてくだい。歯ブラシだけでは磨けないような場所もあり、案外汚れは残っているものです。

いつもより少しだけ歯ブラシの時間を長くして、丁寧に磨いてみてください。舌を磨くときは、ゴシゴシこすりすぎると逆効果なので、マッサージをするように後ろから前にやさしくブラシを当てましょう。また、洗口液によるうがいも効果的です。細菌の塊であるプラークを除去することで、口臭が減るだけでなく、むし歯や歯周病の予防にもなります。

朝食で細菌は減らせる!

だ液の減少による口臭を防ぐには、ガムをかんだり、だ液腺(耳の前の耳下腺や、顎の下の顎下腺)をマッサージしたりして、だ液を増やすことが効果的です。前述のとおり、緊張するとだ液が減るので、忙しいビジネスパーソンの方は、リラックスする時間も意識的につくってみてください。

なお就寝中は、だ液の分泌がほぼ停止しているため、誰でも起き抜けの口臭はあるので心配はいりません。ただ、朝食を抜くと細菌が増えて口臭が出やすくなるという報告(※4)があります。朝食を食べるだけでも細菌数は減りますので、できれば朝食はしっかり食べましょう。朝食を抜かなければならないときも、歯磨きは忘れないでくださいね。

最後に、たくさんの人と関わるビジネスパーソンにとって、口臭対策も身だしなみの一つです。相手への配慮として、人に会う前にはブラッシングとフロスによるフロッシングをしてみてくださいね。

※画像は本文と関係ありません


注釈

※1 18~64歳の2,672名が対象。Miyazaki H, Sakao S, Katoh Y, Takehara T. Correlation between volatile sulphur compounds and certain oral health measurements in the general population. J Periodontol. 66(8): 679-84, 1995より。

※2 『口腔内科学』5歯科(口腔)心身症 P526 永末書店(山根源之、草間幹夫、久保田英朗【編集主幹】)より。

※3 『内科診断学』改訂17版 第11章口の診察 P131 南江堂(武内重五郎【著】、谷口興一【改訂】)より。

※4 Rani H, Ueno M1, Zaitsu T, Kawaguchi Y. Oral malodour among adolescents and its association with health behaviour and oral healthstatus. Int J Dent Hyg. 14(2): 135-41, 2016 より。


著者: 古舘健(フルダテ・ケン)

健「口」長生き習慣の研究家。口腔外科医(歯科医師)。
1985年青森県十和田市出身。北海道大学卒業後、日本一短命の青森県に戻り、弘前大学医学部附属病院、脳卒中センター、腎研究所など地域医療に従事。バルセロナ・メルボルン・香港など国際学会でも研究成果を発表。口と身体を健康に保つ方法を体系化、啓蒙に尽力している。「マイナビニュース」の悩みを解決する「最強ドクター」コラムニスト。つがる総合病院歯科口腔外科医長。医学博士。趣味は読書(Amazon100万位中のトップ100レビュアー)と筋トレ(とくに大腿四頭筋)。KEN's blogはこちら。