アンチエイジングが期待できる温泉ってどんな温泉? (写真はイメージ)

"効く"温泉とそうでもない温泉があることは、いくつか温泉を入り比べたことがある人ならなんとなく実感したことがあるかもしれません。硫黄分を含んでいるとか鉄分を含んでいるとか、温泉に含まれる成分に関わらず、その温泉自体がもっている力、すなわち"温泉力"です。

この、温泉が本来持っている力は、時間の経過とともに衰えていきます。そのため、「ORP(酸化還元電位)」を測定することによって温泉の還元力を測り、分析結果を表示している温泉地・宿があります。今回はそんな温泉の還元力が期待できる、いわゆる"足元湧出""足元自噴"と言われる温泉を紹介します。

還元力のある温泉が錆びた細胞を修復

"還元力"とは、酸化した身体を元に戻す力のこと。私たちの身体は日々、酸化(=老化)を続けているわけですが、身体に摂取する水や食べ物を還元性の高い食品に変えることで、酸化が抑制され、病気になりにくくなり、アンチエイジング効果も高まります。全身で、湯に浸かる温泉ともあれば、その効果は絶大でしょう。

奈良時代、『出雲国風土記』に「一たび濯(すす)げば形容端正(かたちきらきら)しく、再び沐(ゆあみ)すれば万病悉(ことごと)く除(い)ゆ」と記された玉造温泉などは、そんな温泉の抗酸化力を謳った記述と言えるかもしれません。

古くから「霊泉」とか「神の湯」と呼ばれてきた温泉は何の変哲もないように見える無色透明の湯であっても、還元力の高いお湯であることが多いようです。しかし、温泉の還元力は循環ろ過や塩素消毒によって失われます。すなわち、手を加えられていない湧き出したままの源泉で、入浴客に見合った湧出量をもつ温泉であれば、錆びた細胞を修復してくれる、若返りの湯である可能性は大きいでしょう。

中でも、源泉が湧き出すちょうどその上に湯船がつくられている"足元湧出"の温泉は、新鮮そのもの。なんといっても、引湯されていない分、空気に触れる時間が少ないので、温泉そのものの酸化・劣化が進んでいないわけです。

お殿さまもアンチエイジング!?

以前、訪れた岡山県・奥津温泉の「名泉鍵湯 奥津荘」には、かつてこの辺りを治めていた津山藩のお殿さまが鍵をかけて入ったとされる「鍵湯」と言われる、足元から自噴する湯船があります。

お殿さま専用の湯に入れるなんて! 「奥津荘」の鍵湯は流れるようなフォルムの花崗岩の湯船。足元の岩の間からやわらかな源泉が湧き出ています

古くからの宿は地下一階に湯船が設けられているところがありますが、奥津荘の湯船も玄関から入って階段を降りた地下一階にあります。川底にあった岩をそのまま利用した浴槽で、入り組んだ岩の割れ目から源泉が湧きだす神秘の湯。源泉温度は42度なので、そのまま加水・加温することなくかけ流しで注がれています。

その時同行した仕事仲間は、温泉の泉質や使われ方には頓着しない人であったにも関わらず、湯の威力の虜になったようで、いつまでも湯船から出てきませんでした。それ以降、「"足元自噴"の湯は違う」が口癖に。運命の湯との出合いはいつ訪れるか分かりません(笑)。

うれし恥ずかし、混浴で若返り

最近は、超有名になった"秘湯"、秋田県の乳頭温泉郷・鶴の湯温泉もまた、足元から湯が湧いている足元湧出の温泉。ぷくり、ぷくりと足元の玉石の間から湯玉があがり、ミルク色のにごり湯に浸かりながら里山の風に吹かれる……。こんなぜいたくな時を過ごしたくて、日本全国、いや世界中から多くの人が押し寄せます。

あの有名な、「鶴の湯温泉」の混浴露天風呂。硫黄分を含んだ白濁の湯。この日は朝湯でお邪魔しました

この温泉はお湯も上質ですが、開放感がある露天風呂にも関わらず、男女一緒に入る混浴。そう、足元湧出&混浴の、ダブルの希少な体験ができるわけです。混浴ということで、ドキドキしながら入ることで、若返り効果もUPすること請け合い。とは言え、温泉は白く濁っているし、入口は階段状になっていますので、女性も人目を気にせず、入ることができます。

ところで、足元から自噴する温泉がどこにでもあるかといえば、そんなことはありません。先日、訪れたとある露天風呂でのこと。

「下からお湯が湧いています」という説明を受けて、てっきり足元湧出の温泉だとばかり思っていたら、脱衣所の温泉分析書には、「循環ろ過、塩素消毒あり」。足元からお湯が出てはいるものの、それは人工で、循環されていました。

それでも十分にダイナミックな自然と白濁のお湯に、海外からの利用者は「温泉、大好き」と喜んでいらっしゃったので、全ての利用者が足元湧出やかけ流しを求めているのではないのだなと思いつつ、その湯を後にしたのでした。

筆者個人としては、いい湯の見分け方は、「入った後、眠くなるか、ならないか」(笑)。温泉力のある湯に入った後は、必ずといっていいほど眠くなって、目覚めた後は気分爽快! そんなお湯を見つけられた時には、小躍りするほどうれしくなります。

筆者プロフィール: 野添ちかこ

全国の温泉地を旅する温泉と宿のライター。「宿のミカタプロジェクト」チーフアドバイザー。BIGLOBE温泉のほか、「すこやか健保」(健康保険組合連合会)で「温泉de健康に」連載中。著書に『千葉の湯めぐり』(幹書房)がある。日本温泉協会理事、3つ星温泉ソムリエ、温泉入浴指導員、温泉利用指導者(厚生労働省認定)、温泉カリスマ(大阪観光大学)、温泉指南役(岡山・湯原温泉)。公式HP「野添ちかこのVia-spa」