温泉土産の定番、入浴剤や湯の花(湯の華)は、自宅でも温泉気分を味わえるとあって人気です。温泉地の土産物屋で売っている「○○温泉の素」や「日本の名湯 △△温泉」などの入浴剤は、温泉と全く同じ成分ではありませんが、泉質の特徴を再現していて、さら湯に入浴するよりもよく温まります。

湯の花があれば、あの温泉を自宅で再現できる!?(写真は群馬県・草津温泉の湯畑)

草津の湯の花は「恋の病以外」なんでも効く!?

温泉入浴剤のさきがけはバスクリン(以前のツムラ)。各地の温泉地の泉質を研究し、その泉質に近づけて「日本の名湯」シリーズなどができ上がりました。

例えば、炭酸水素塩泉だったら炭酸水素ナトリウム、硫酸塩泉だったら硫酸ナトリウムなどを主成分として配合することでポカポカする保温効果が期待でき、その温泉地のイメージに近い黄緑や白濁などの色付きになっていて、気分も高揚します。ただし、色や香りも含めて成分は人工的に温泉を再現したものですので、せっかく温泉地に行くのなら、天然入浴剤である湯の花を入手したいところです。

湯の花は湯中に溶けずに沈殿、あるいは析出した温泉成分のこと。これらを集めて、天然入浴剤として販売しているところがあります。代表選手は、群馬県・草津温泉のシンボル「湯畑」で採れる湯の花。「恋の病以外、効かないものはない」と言われるあの名湯をご自宅でも味わえます。

土産物屋に並んでいる草津の湯の花は何種類もありますが、町がつくっているのはこの台形のプラスチック容器のもの。2カ月に一度採取し、乾燥後にケースに詰めて商品化されていて、昨年(2015年)は4,300個つくられました。町の温泉課によると「昭和35年(1960)に薬事法が制定される前から商品化されていた」という歴史あるものです。

台形のケースに入っているのが、草津町が製造した湯畑産の「湯の花」。価格は1,500円程度~(店によって異なる)

草津の湯の花と言ってもパッケージは複数あり、量産品の多くは石油系のものでつくられています。「天然」と誤認表記していた商品に対して2006年、公正取引委員会が景品表示法違反(優良誤認)で製造販売した4社に排除命令、6社に排除勧告したこともありましたので、現在は混同されてはいないと思われます。

ちなみに、湯畑で湯の花を採取する「湯の花採取体験」は例年11月下旬~12月上旬の1日行われ、先着30人のみ、現地受付で体験できます(お問い合わせは草津温泉観光協会へ)。

宿オリジナルの湯の花

さて、草津のお宿の中で、オリジナル湯の花を製造しているところがありました。創業140年、白旗源泉を引く「奈良屋」です。この宿は木造りの楕円の浴槽がとっても素敵。高温の源泉を敷地内の貯湯槽に溜めて、1日ほど寝かせて、加水せずに温度を下げてから湯船へと注ぎますが、その間に沈殿したペースト状の湯の花を乾燥させ、パウダー状にしたのがこの商品です。

「貯湯槽は開業当時からありますので、おそらく100年以上はつくっているでしょうね。当初は常連さんにお配りしていたようですが、現在は販売しています」(奈良屋の主人)。

奈良屋の「徳川将軍御汲上の湯」内湯。湯守が源泉を適温にしてから浴槽に注ぐ。奈良屋の湯の花は6月と12月に採取し、1袋(60g入り)1,000円(税別)。年間400袋販売する

また、福島県・高湯温泉の「吾妻屋」は美しいミルキーブルーのにごり湯が特徴。敷地内に湯の花小屋を持ち、湯の花を採取しています。つくり方は、ドロドロの湯華を板の上にのせ、陰干しで乾燥させるだけ。乾燥には2~6カ月もかかります。手間がかかるので現在、高湯温泉で湯の花をつくっているのは吾妻屋だけ。昭和40~50年代には東京・神田の銭湯にも卸していたそうで、白濁の湯が再現できて、 "白湯"という名前で人気だったそう。

吾妻屋では湯樋掃除のたびに、沈殿物を升に溜めて湯の花を採取する。「湯の花小屋」では板の上にのせて陰干しに。そうして作られた湯の花を使えば、自宅でも白濁の温泉が再現できる。1袋(120g入り)540円(税込)

岩手県・八幡平の松川温泉の「松川荘」「松楓荘」「峡雲荘」でも、湯の花を販売しています。つくっているのは「松楓荘」で、岩手山の中腹にある大地獄谷というところから、湯の花を採取するそうです。つくり方はというと、溜まった湯華を洗ってからこし、足で踏んで固め、お餅くらいの硬さになったら団子状に丸めます。

お団子のような形をした松川温泉の「湯の花」。松川温泉の宿のほか、「道の駅 にしね」、「道の駅 石神の丘」でも買える

先祖代々、湯の花をつくり続けてきているそうですが、以前は他の温泉地と同じパウダー状だったものをお団子のような形に変更したのは「今から60年ほど前」(松楓荘の女将)とのこと。袋に詰めた4個入りは500円(税別)、8個入りは1,000円(税別)。しっかりした箱に入っていて高級感があります。

こう見ていくと、自然派の湯の花は硫黄泉が多いでしょうか。硫黄泉は風呂釜を痛めてしまうこともあるので、入浴したらすぐに浴槽を洗い流すことが大切です。

用途いろいろな玉川温泉の「煉り湯華」

最後に、日本一の強酸性泉・効能あらたかな秋田県・玉川温泉で見つけた一品を紹介しましょう。パウダー状でも団子状でもなく、ここのは「煉り湯華」。玉川温泉で採取した湯の花を成分調整など一切行わずに軟こう状にしたものです。使い方も浴槽に入れるのではなく、塗布します。

新玉川温泉の売店で購入した「煉り湯華」。4%と18%がある。1個1,080円(税込)

湯華の含有量が18%の「甲」と4%の「乙」の2種類があり、甲は神経痛やリウマチ、四十肩、五十肩、膝痛の緩和に。臓器付近の体の前面と背面に塗れば内臓疾患にも。乙はアトピー性皮膚炎や水虫にいいようです。お土産として買って帰り、自宅に戻ってから肩や腰につけてみると、その箇所がジワジワと温まってきました。ただし、硫黄臭い……(笑)。玉川温泉水と煉り湯華を組み合わせると、さらに効果を発揮するみたいですよ。

筆者プロフィール: 野添ちかこ

全国の温泉地を旅する温泉と宿のライター。「宿のミカタプロジェクト」チーフアドバイザー。BIGLOBE温泉で「お湯の数だけ抱きしめて」、「すこやか健保」(健康保険組合連合会)で「温泉de健康に」連載中。著書に『千葉の湯めぐり』(幹書房)がある。日本温泉協会理事、3つ星温泉ソムリエ、温泉入浴指導員、温泉利用指導者(厚生労働省認定)、温泉カリスマ(大阪観光大学)、温泉指南役(岡山・湯原温泉)。公式HP「野添ちかこのVia-spa」