アイリッジ 代表取締役社長 小田健太郎氏(左)とマネーフォワード 代表取締役社長 CEO 辻庸介氏(右)

現在、盛り上がりつつあるFinTech分野。そこで、O2Oのリーディングカンパニーであるアイリッジ 代表取締役社長の小田健太郎氏と、自動家計簿・資産管理サービスやクラウド会計サービスなどを提供するマネーフォワード 代表取締役社長 CEOの辻庸介氏に、FinTechの今後について語ってもらった。

FinTech分野では、これからどのようなことが起こっていくと考えていますか?

辻:ショッピングでは、これまで店舗で購入していたものが、今ではスマホでAmazonや楽天を使えば注文し最短だと数時間で手元に届くようになりました。金融サービスにもこういった変化が起こるのは当たり前で、FinTechによって便利になる金融サービスは大きく変化していくと思います。

私たちは、今年中にはクラウドファイナンスサービスの開始を予定していますが、これは中小企業向けのクラウド会計サービスである「MFクラウド会計」や「MFクラウド請求書」のユーザーに対して、ユーザーの同意をもとにクラウド上の会計データ等の収集を自動化して金融機関等に渡し、融資審査に利用することで迅速な融資を実現するサービスです。最短だと2日で融資判断が行われ、お金が振り込まれるスキームを想定しています。

辻 庸介 マネーフォワード 代表取締役社長 CEO

京都大学農学部を卒業後、ソニーに入社。その後、マネックス証券へ出向してネット証券ビジネスに携わった。同氏はまだインターネットバンキングもあまり普及していない頃、日本の金融サービスの不便さを実感。留学経験の中で、もっとユーザーフレンドリーな金融サービスを提供したいと考えたという。そして、留学から帰国後1年半ほどして起業を決意し、得意分野である「お金xIT」のサービスを提供するため、インターネットサービス開発を行うマネーフォワード 代表取締役社長 CEOに就任した。

小田:会計データを使えば、精度の高い審査ができますね。金融機関もスコアリングに当てはめて審査しているので、そこが明確なら迅速に対応できそうですね。

辻:そうなんです。それに、今までは銀行の営業の方が動く必要があり、どうしても一定のコストが発生したので、融資を受ける企業もある程度の規模でないと費用対効果が合わず対応できませんでしたが、インターネット経由ならコストを下げることができます。これによって、今までリーチできなかった中小企業にも届くわけです。大企業と比較すると、金融機関からの借り入れが比較的難しかった中小企業でも融資が受けやすくなりますから、日本の中小企業のお金の流れも活性化するのではないでしょうか。

小田:それは本当のFinTechですね!

辻:ほかにも、当社の「MFクラウドシリーズ」を通じて、様々なクラウドサービスが繋がり、便利なエコシステムができていくイメージで、業務のサポートができると考えています。POSレジや仕入れ情報、会計ソフト、請求書、給与などがすべてつながって、今まで手打ちしていた部分が自動化・機械化されて楽になり生産性が上がる。さらに、経営情報がリアルタイムで見える化されることにより経営判断が加速し、ひいては企業成長につながっていく。そういう世界がやってくると考えています。

個人向けサービスに関しては、お金の不安を解決するという方向で、これからは老後や保険、家族、教育といったお金がかかることについて、お金についての深い知識がなくてもわかるような、窓口になるようなサービスにしたいですね。ユーザーサイドに立ったサービスを作りたいと考えています。今は業務提携先のお金のデザインさんが提供するロボアドバイザーと呼ばれる資産運用サービス「THEO」を紹介するなどしていますが、様々な金融機関様と連携して新しい価値を届けていきたいと思っています。

O2Oの分野は、どのような方向へいくのでしょうか?

小田:アイリッジは「popinfo」を使って企業とユーザーのコミュニケーションを最適化することを目指しているのが現状ですが、今後はそれをより推進していきたいですね。今はスマートフォンを利用してショッピング情報のほかに、為替や株価の情報、電車の現在位置といったものを配信していますが、将来はウェアラブルデバイスを利用したり、企業からユーザーだけでなく、ユーザーから企業への情報発信も行えるようになるかもしれません。

もう1つの広がりは、アプリ内決済サービスの提供です。情報を配信して集客するだけでなく、そこから実際に購買するまでのプロセスをアプリに取り込み、より手軽に利用できるようにするとともに、ログも分析できるようにする。そのログを利用して、より最適な情報配信を行うといった具合です。

小田 健太郎 アイリッジ 代表取締役社長

慶応義塾大学卒業後はNTTデータに就職。その後、ボストンコンサルティングに移り、当時盛り上がりつつあったモバイルインターネット事業を手がける。そして、この分野で何かをやりたいという決意を持って、2008年にO2Oソリューションの提供を中心としたインターネットサービスの企画・開発・運営するアイリッジを創業し、代表取締役社長に就任。

辻:例えば、スーパーに行った時、私が欲しい商品を自動で提案してくれて、さらにそのクーポンが表示されるようになるわけですね。よくショッピング分野の取り組みというとオムニチャネルが取り上げられますが、また違ったアプローチですね。

小田:オムニチャネルは今のところ企業側視点では、実店舗とECが乖離していたものを接続して接客に利用しようという手法ですね。ECでTシャツばかり買っている人がショップに来た時にはどういう接客をすればいいのか、というような話です。

オムニチャネルも我々の取り組みも、買い物の最適化という意味では同じ方向を向いています。たとえば位置情報と決済を組み合わせると、洗濯機売り場に何度も足を運んでいるのに購入していないということがわかって、もっと洗濯機が安く買える店を案内しようという判断ができたりするわけです。

辻:Webで行われているターゲティングを、リアル店舗でも行うわけですね。

小田:行動データを解析するビッグデータ解析です。たとえばスーパーで買い物した時、事前にWebから注文しておいて、夕飯の材料だけは持ち帰り、水や米など重いものは後で配送してもらうというような最適化もあると思います。

辻:買い物する前に、在庫状況やお得状況がわかるのもいいですね。ユーザーにとって必要な情報はプッシュされてもイヤじゃない、自分が欲しい情報なわけですから。

O2O×FinTechで実現する便利で快適な世界はすぐそこに!

辻:位置情報で今いる場所に合わせたクーポンが出てくるのも便利ですが、一歩進んでよく買う商品セットのクーポンとか、それを買うならこちらもどうですかみたいなのが出てきても面白いですよね。たとえば、Amazonのレコメンドのような。

小田:それいいですね! マネーフォワードと組み合わせたらできそうな気がしますが、マネーフォワードでは購入した商品名までは取得していないんですか?

辻:一部はできているんです。レシート撮影で家計簿を付けていただく場合には、店舗によって出てくるレシートが違うので取得できないものもあり、手動で修正していただいています。ただ、商品名が取得ができなかった場合でも品目がわかるものも多いので、いつも買うものの割引とかおすすめをするには、相性が良さそうですね。

小田:前日お酒を飲み過ぎている人には、健康によさそうなものを提案してもおもしろいですね。お金がない時に安い商品とか。2社で組んだら面白いものができるかもしれません。

辻:決済が楽というのは非常に魅力ですね。払うという行為はユーザーにとって大きな負担です。

小田:それは私も感じていて、財布を出して払って、レシートをしまって……けっこう負担ですよね。払うという行動のない決済はぜひやりたいところです。

辻:位置情報を利用したO2OがFinTechになっていくという世界が、すぐ来そうですね。

今後、期待している分野などはありますか?

辻:レンディングのマーケットは面白いですね。海外でも盛り上がっていますし、まさにFinTechが大きく活かせる部分だと思います。ITと金融はいろいろな分野で融合していくと考えています。まず決済が融合し、資産運用、融資と広がってくるわけで、融資の形はさらに色々広がっていくと思います。銀行等の金融機関とテクノロジーのプレイヤーがうまく組んで、ユーザーに価値ある新しいサービスを提供する形が来ると思います。

小田:私はウェアラブルを楽しみにしています。今はスマートフォンでビジネスをしていますが、ポケットから取り出して操作するのは面倒です。コミュニケーションツールが、わざわざ手にとらなくても常備されているという時代が来るのは楽しみで、そこでビジネスをやっていきたいですね。

辻:ウェアラブル端末、私も普段から利用しています。そういう意味では、今、ヘルステックにも注目しています。ウェアラブル端末によって健康データが見える化しました。今まで見えなかったものを見える化して、それをも元に改善して行くというのは、お金の分野で当社、マネーフォワードがやってきたことですが、今後健康の分野も見える化が実現し、今までできなかったような管理や健康改善の方法が生まれてくると思います。