第2回となる今回は、ケータイ端末における決済の歴史とそれに伴う決済のオムニチャネル化について紹介します。

キャリア決済の誕生(オンライン決済)

日本でまず、ケータイを使った決済手段として思いつくのは、オンラインコンテンツを購入するために生まれたキャリア決済ではないかと思います。2000年に入りケータイの人口普及率が50%を超えてくると、様々なコンテンツが提供されるようになりました。

ケータイの人工普及率と契約数の推移(総務省「移動体通信(携帯電話・PHS)の年度別人口普及率と契約数の推移」をもとに筆者が作成)

NTTドコモの「iモード」に代表されるように、ケータイのインターネット回線を利用したオンラインコンテンツが生まれ、占いやゲームなどの有料コンテンツが登場しました。これらが普及した背景には、キャリア決済の存在があります。

キャリア決済は、ユーザー側は追加的な手間なくコンテンツを購入することができ、コンテンツ提供側はキャリアを通じてユーザーへの請求を確実に行えます。数百円のコンテンツ料金をわざわざ別の方法で支払わなければならないとなると、ユーザー側の心理的ハードルも高く、有料コンテンツはこれほど広がりを見せなかったと思います。決済インフラは、ビジネス展開の成否を握るといっても過言ではない、重要な要素と言えます。

電子マネーの誕生(店頭決済)

一方、ケータイ端末の中にNFC(近距離無線通信技術)の機能をもつモデルがでてくると、実店舗で「おサイフケータイ」や「モバイルSuica」に代表されるような電子マネーによる決済が始まりました。「Suica」はもともとプリペイドカード式として始まりましたが、ケータイの中に組み込まれ、ケータイ端末を通じた決済も可能になりました。キャリア決済同様、小銭のやり取りやお釣りの受け渡しのような煩雑なやり取りが要らない便利なサービスとして普及してきました。

ネットとリアルの融合(支払い方法の多チャンネル化)

キャリア決済はオンライン上の決済手段として、電子マネーによる決済は店頭での決済手段としてそれぞれ普及してきました。いずれも一つの販売チャネルに対し一つの決済方法でしたが、後にスマートフォンの普及に伴い、アプリによる決済が台頭し始めます。これが、オンライン決済と店頭での決済を一つのケータイで実現する、決済のオムニチャネル化です。

エスクロー決済(第三者を介した決済)

一人の顧客がオンライン上でも店頭でも買い物をするようになると、顧客は店舗の会員IDとオンライン上の会員IDを統合したいと思うようになります。企業はそれらを紐付ける過程で、それぞれのチャネルのいずれにも決済手段を提供したいというニーズが生まれます。それを実現する方法の一つがエスクロー決済です。

エスクロー決済とは、第三者を介した決済方法です。購入者はお店から商品を購入し、代金を決済代行会社に支払います。決済代行会社から連絡を受けたお店は、購入者に商品を発送します。購入者が商品を受け取ったことを確認し、決済代行会社はお店に代金を支払うという仕組みです。支払いをしたが商品が届かない、というリスクを軽減する手段として普及しました。

エスクローサービス(payment naviより引用)

代表的なのは中国で広がっている「Alipay」です。「Alibaba」や「Taobao」といったオンラインサービスの支払い方法として誕生したものですが、現在ではコンビニやレストランなど、店頭での利用も可能になっています。ユーザーは店頭で表示されるQRコードを読み取ると、決済を行うことができます。これは登録されている口座情報に対し、QRコードで読み取った金額を店舗が請求できるという仕組みです。

他にもテンセントが運営する「WechatPayment」などがあり、中国ではQRコードを活用した支払い方法が広く浸透しています。現地で暮らす日本人に聞くと、日常生活の中で財布を持ち歩くことが少なくなったという話です。

独自のモバイル決済(Walmart Pay)

アメリカのウォルマートでは、2015年に独自のモバイル決済サービス「Walmart Pay」を始めました。このアプリにクレジットカードなどの情報を事前に登録しておくと、ユーザーは店頭でQRコードを読み取るだけで決済を行うことができます。「Walmart Pay」がユニークなところは、割引サービスのセービングス・キャッチャー機能を組み込んでいるところです。

セービングス・キャッチャーとは、近隣競合店の特売価格と比較して、ウォルマートの価格が高ければ、その差額分が還元されるという仕組みです。商品を購入後にレシートのバーコードをスキャンすると、購買情報がeレシートとしてアプリ内で管理できるもので、差額分はこのeレシートに還元されます。貯まった還元金額をeギフトカードに交換すれば、次回店頭で割引を受けることができます。これは、顧客を囲い込むための一種のロイヤリティプログラムで、今後も同様のサービスが増えてくると思われます。流通・小売店がリリースするアプリは、クーポンを提供することが主な目的である場合が多かったのですが、決済時に自動的に値引きをするという連携は、近い将来どのアプリでも起こってくるのではないかと思います。

「Walmart Pay」(Walmart.comより引用)

日本ではまだ、ここまで決済機能が充実したアプリはありませんが、中国やアメリカで進んでいる事例は、今後日本でも広まる可能性を十分にあると言えます。一方、日本ではポイントサービスのアプリ化が進化しているので、次回はこちらを紹介しようと思います。

著者略歴

渡辺智也
株式会社アイリッジ セールス&マーケティンググループ シニアマネージャー。慶應義塾大学卒業後、楽天株式会社に入社。オークション事業で営業、マーケティング、経営企画、トラベル事業にて事業開発を担当。2013年9月に当社に入社。大手企業を中心として多数O2Oアプリのコンサルティングやマーケティング支援を行う。University of MichiganでMBAを取得。