オバマ大統領の演説は、英語がわからない人間が聞いても感動する……という類のことをどこかのタレントが言っていたが、実はその手の「わかった気」は英語力を上達させたいという人にとっては大敵だったりする。なんとなくわかる(気がする)、じゃなく、1フレーズだけでもきちんと理解する、という姿勢で今日のQUATATIONを見てみたい。

I will not spend a single penny for the purpose of rewarding a single Wall Street exective, but I will do whatever it takes to help the small business that can't pay its workers or the family that has saved and still can't get a mortgage.

--President Obama

私は、誰一人であろうとウォールストリートのエグゼクティブに見返りを与えるようなことのためには一銭たりとも払う気はないが、従業員に給料を払えないような小さな会社や、節約しているのに住宅ローンを借りられない家族を助けるために必要なことなら、何でもしよう

オリジナルはこちら → Obama Assures Nation: 'We Will Rebuild'

2月24日(現地時間)、オバマ大統領は上下院の全議員がそろう連邦議会(Congress)にて初の議会演説を行った。演説の内容については、上記の記事を含め、日本語でもさまざまな報道がなされているのでここでは割愛する。演説の動画やスクリプトもあちこちに置かれているが、上に示したオリジナル記事にも動画が貼り付けられている(ただし1時間近くある)。スクリプトはこちらに。ちなみに今回紹介したフレーズはオリジナルの記事中では引用されていない。

上の動画の場合だと、だいたい16分10秒あたりでこのフレーズが出てくる。できれば実際に聞いて、どこを強調しているのか、どこで息継ぎしているのか、どこを一気に言っているか、などを確かめ、実際に口に出してみることを勧めたい。このフレーズの力強さ、オバマの意志の強さがじかに伝わってくるはずだ。

より強調するための同意語の重ね使い - a single

「誰一人たりとも」「一銭(1ペニー)たりとも」と強調するために、aとsingleという、どちらも「ひとつの」という意味の語を重ねている。ビジネスでも日常会話でも非常によく使われる。似たような表現に、every single day(毎日毎日)、a single one night(たったのひと晩)などがある。

大統領は1つのフレーズの中に2回もa singleを使っている。「ウォールストリートのヤツになんか、誰ひとりにだって、ビタ一文払わないからな!」という感じ。

あらためて確認しておきたい英文法 - will

ほとんどの人が中学高校で、willは「未来形」と習ったはずだ。だが、willはむしろ未来よりも話し手の意志や推測を表すときに使われることのほうが多い。

日本語で「未来」というとぼんやりしているというか、けっこう遠い先のあやふやなことをイメージしがちだが、willはわりと起こる確率が高い、もしくはコトを起こそうという意志があるときに使う。

すこし昔の映画だが、現カリフォルニア州知事のアーノルド・シュワルツネガーが主演した映画"The Terminator"での名セリフ、I'll be back.がわかりやすい例だ。このwillには「必ず戻ってくるからな」という話者の強い強い意志がこめられている。Willは未来形だから、と「私は戻ってくるでしょう」なんて訳したら拍子抜けである。

そういう視点でI will not pay … を眺めると、上のa single2回使いの効果もあって「オレはぜーったい払わないから!」というオバマの決意に近い強い意志が示されていることがわかる。

ビジネス英語必須の単語 - mortgage

本稿を読むような人ならこの単語を知らないはずはないとは思うが、知っているだけではなく、できれば積極的に使ってみたい。「住宅ローンを借りる」「住宅ローンを払う」「住宅ローンに申し込む」「住宅ローンの月々の支払い」…それぞれ英語ではどう表現するだろうか。

ちなみにmortgageは可算名詞であることに注意。他動詞として使うときは「…を抵当に入れる、担保にする」という意味になる。

番外編: オバマの文法力はあやしい!?

大統領礼賛の報道が多い中、なかなか興味深い記事が23日付のNYTに載っていたので、さわりだけ紹介しておく。どうもオバマは話すとき、目的語にmeではなくIをもってくる癖があるらしい。またmeを使わずにmyselfを多用する傾向もあるようで、一部から批判の声が上がっている。大統領ともなれば、やはり正しい英語を話してもらわないと! という気持ちもわかるが、chirdrenを"childs"といったり、某映画評論家のように"more better"といったり、とても教養あるネイティブとは思えない発言が多かった前大統領に比べればかわいいものなのでは……。記事はこちら → The I's Have It