旅の楽しみといえば食事。旅した地域ならではの食材や料理に出会う楽しみは、全国チェーンのレストランにはない楽しさがある。「乗り鉄」にとって、食事といえば駅弁だ。おいしいおかずを集めた幕の内スタイルや、特産物をあしらった駅弁は、見ても食べても楽しく、旅の気分を盛り上げる。

「駅弁屋 祭」で仕入れた駅弁たち(2013年4月)

駅弁といえば、正月の風物詩のひとつに東京・新宿の京王百貨店で開催される駅弁大会がある。正式名称は「元祖 有名駅弁と全国うまいもの大会」という。2014年は1月9日から21日まで。今年で49回目、京王百貨店新宿店の開店50周年記念として開催されるとのこと。つまり、京王新宿店は開店の翌年から駅弁大会を開催しているわけだ。

一方、東京駅改札内セントラルストリートでは、日本レストランエンタプライズが運営する「駅弁屋 祭」が人気だ。東京駅や都内各駅の駅弁のみならず、全国各地から有名な駅弁が集まる。こちらは年中無休で、つねに「プチ駅弁大会」となっている。

これほど人気の駅弁だけど、大都市の主要駅以外は減少傾向らしい。長距離特急列車がスピードアップして車内で食事をする時間が減ったり、窓が開かなくなって駅弁の立ち売りが減ったりして、駅弁を買うチャンスが減ってしまった。車内のワゴン販売は種類が少ないし、車内販売がない列車も多い。鈍行列車の旅でも、通勤電車のようなロングシートの車両が増え、駅弁を開けづらい雰囲気になっている。そんな事情もあり、地方の駅弁業者は苦戦しているようだ。

駅弁がある駅は時刻表に記載されている

地方では貴重になりつつある「駅弁」は、どの駅で販売されているか? これは簡単に見つけられる。書店で販売されるB5サイズの「JR時刻表」「JTB時刻表」などに掲載されているからだ。各路線の駅名欄を見れば、「弁」というマークが見つかるはず。これが駅弁を販売する駅という目印だ。その駅で売られている駅弁は、時刻表の欄外の下で紹介されている。

JR九州の日豊本線のページを開いてみよう。新幹線が停まる小倉駅は当然として、他にも大分駅、宮崎駅、南宮崎駅、都城駅、西都城駅などに駅弁のマークがある。ページをめくって欄外を見ると、大分駅には「豊後牛めし(1500円)」、都城駅には「かしわめし(720円)」「幕の内弁当(720円)」などと記載されている。鉄道旅行の日程を作るときは、こうした駅弁の情報も参照して、食事のスケジュールを組んでおきたい。

宮崎駅の「しいたけ弁当」。宮崎県は生しいたけ生産量全国4位、乾しいたけ生産量全国2位だそう

注意点としては、乗降客数の少ない駅では駅弁の販売数が少なく、すぐに売り切れてしまうこともある。人気の駅弁を昼ごはんとして買おうと思っても、その日の午前中に売り切れてしまうことはよくある。駅弁はランチ向けが多いため、夕食の時間になると駅弁を売っていない場合も多い。

「どうしても食べたい」という駅弁があったら、あらかじめその駅の到着時刻を伝えて予約したほうが確実だ。駅弁の予約は駅ではなく、駅弁業者に直接依頼したほうがいい。インターネットで駅名と駅弁の名前を検索すれば、ほとんどの駅弁製造業者のウェブサイトを見つけられる。予約のための電話番号が表示されている会社も多い。

駅弁選びで失敗しないために

駅の売店に何種類も駅弁があり、迷ってしまうこともあるだろう。短い停車時間にひとつだけ選ぶなんて難しいし、好みに合わなかったらどうしよう……。そんなときのために、筆者の経験による駅弁選びのコツを紹介しよう。

ひとつは、「新発売」よりも「昔から販売されている定番商品」を選ぶこと。長期にわたって販売されている駅弁は、それだけ親しまれ、リピーターも多い。味も安定している。昔ながらの定番商品の特徴として、「掛紙が地味」なことが挙げられる。「掛紙に文字だけ」「簡単な図案」、これが伝統の証となる。きれいなイラストや写真が入ると、比較的新しい弁当だといえる。

次に、「容器・フタが木製、または陶器」であること。これはごはん系の駅弁の場合だけど、木製や陶器製は余分な蒸気を逃してくれるから、ごはんが冷めてもおいしい。プラスチック製の容器は、ごはんの水分がこもって水っぽくなりがち。購入したらすぐに食べたほうがいいかもしれない。ただし、ごはんの水分を逃す容器は、おかずの汁気が漏れやすいともいえる。なるべく平らな状態で保管したい。筆者は以前、駅弁の「いなりずし」をカバンにしまったとき、斜めになってタレが漏れてしまい、困った思いをしたことがある。いずれにしても、購入したらすぐに食べよう。

折尾駅の名物「かしわめし」の掛紙は意外に地味(写真左)。フタと底が木製だ

続いて、筆者の経験による独断だが、「迷ったら鶏肉系を選ぶ」こと。いままで、鶏めしや鶏そぼろごはんなど、鶏肉系の駅弁を買って失敗したことがない。ただし、これは筆者自身が鶏肉好きだからという理由もあるかもしれない。鶏肉が苦手な人や、他に好みの食材がある人は、他の「ハズレ無し」の食材を見つけておこう。いざというときにすぐ選べて、失敗しない。

最後に、「加熱タイプは避ける」こと。ヒモを引っ張ると加熱が始まり、温かくなる駅弁がある。寒い時期はありがたいけれど、駅弁としては邪道な気がするし、ごはんが湯気でベチャベチャになる場合もある。そもそも駅弁は、「冷めてもおいしい」という前提で開発され、工夫されてきた。コンビニにあるような、「電子レンジで温める」前提の弁当とは違う。駅弁は、「冷めてもおいしいごはん」「冷めてもおいしいおかず」が信条だ。むしろ、「冷めたほうがおいしい」にこだわりがあるといえる。

駅の売店がコンビニ化して、おにぎりやサンドイッチなどの軽食が置かれるようになったせいか、箱に入って掛紙がついた「昔ながらの駅弁」は減っているようだ。「駅弁のにおいが迷惑」という声も聞かれるようになった。なんとも寂しい限りである。駅弁といっても、列車内で食べず、実際はお土産だったり、家で食べたりする人のほうが多いのかもしれない。「駅で売るより、駅弁大会で売るほうが多い」という駅弁もある。

とはいえ、列車内で、移り変わる車窓を眺めながらの食事は楽しい。においで迷惑をかけないように、なるべく空いた車内で駅弁を開くとしようか……。

2013年には、ユネスコの無形文化遺産に「和食」が登録された。農林水産省が提案した和食の特徴は、「多様で新鮮な食材と素材の味わい」「バランスが良く健康的」「自然の美しさの表現」「年中行事との関わり」とのこと。「駅弁」には、「和の食」の文化が凝縮されていると思う。これからもどんどん駅弁を食べて、日本の食文化を支えていきたい。