旅の気分が盛り上がる列車といえば、その筆頭は夜行列車だ。目覚めたら見知らぬ土地にいるという体験はロマンチックだし、人々が寝静まった街を映す車窓も幻想的。日常とはまったく異なる空間に身を置いて、しみじみと旅の想いに浸れる。これぞ旅情だ。

廃止報道が続く夜行列車。いまのうちに乗っておきたい

しかし、そんな旅人の思いを虚しくさせるほど、夜行列車は次々と廃止されていく。鉄道会社にも事情があるだろうから、趣味人としてはあるがままを受け入れるしかない。「乗り鉄」に目覚めたなら、いまのうちに夜行列車に乗っておこう。

2013年12月現在の夜行列車は、寝台特急が6種類、寝台車と座席車を連結した急行が1種類、座席のみの臨時快速列車が3種類ある。特殊な例としては、JR九州で今年デビューした「ななつ星 in 九州」も夜行運行区間がある。これらはすべてJRグループの列車だ。その他の私鉄でも、東武鉄道が夏の尾瀬観光客向けと冬のスキー客向けに夜行列車を運行している。さらに、余剰の寝台車などを使った臨時列車や団体扱いの列車も運行される。

現存するおもな夜行列車(2013年12月現在)

列車名 運行区間 設備・特長
寝台特急「トワイライトエクスプレス」 大阪~札幌間 展望スイート、2人用個室、1人用個室、開放寝台(2段ベッド)、食堂車、ロビーカーを連結、シャワー室あり
寝台特急「カシオペア」 上野~札幌間 すべて2人用のA寝台個室(シャワー・トイレ付)、食堂車、ロビーカーを連結
寝台特急「北斗星」 2人用個室、1人用個室、開放寝台(2段ベッド)、食堂車を連結、ロビー、シャワー室あり
寝台特急「あけぼの」 上野~青森間 1人用個室、開放寝台(2段ベッド)、座席扱い寝台
寝台特急「サンライズ瀬戸」 東京~高松間 2人用個室、1人用個室、座席扱い寝台、ロビー、シャワー室あり
寝台特急「サンライズ出雲」 東京~出雲市間 2人用個室、1人用個室、座席扱い寝台、ロビー、シャワー室あり
急行「はまなす」 青森~札幌間 開放寝台(2段ベッド)、座席、座席扱い寝台
快速「ムーンライトながら」 東京~大垣間 座席
快速「ムーンライトえちご」 新宿~新潟間 座席
快速「ムーンライト信州」 新宿~白馬間 座席
「ななつ星 in 九州」(JR九州) 九州1周ツアー すべて2人用のA寝台個室(シャワー・トイレ付)、食堂車、ロビーカーを連結
「尾瀬夜行2355」(東武鉄道) 浅草~会津高原尾瀬口間 座席
「スノーパル2355」(東武鉄道)

夜行列車の楽しみは「朝」にある

これらの列車のうち、毎日運行される列車は「北斗星」「あけぼの」「サンライズ瀬戸」「サンライズ出雲」「はまなす」だけになった。「カシオペア」は隔日、「トワイライトエクスプレス」も原則は隔日(繁忙期はほぼ毎日運行)で、「ムーンライト」と名の付く3列車や、東武鉄道の夜行列車が運行されるのは夏休み・冬休みなどの繁忙期のみ。「ななつ星 in 九州」はツアー企画によって運行されている。

夜行列車では、「新幹線や飛行機の最終便が終わった後に発車し、それぞれの始発便の前に目的地に到着する」という実用的な使い方もできた。ただし、その役割は夜行バスに移りつつある。料金面を比較して、格安ビジネスホテルの前泊を選択する人も増えた。それでも夜行列車を選ぶ人は、夜行列車の楽しさを知っている人だ。

夜行列車の楽しさは、前述のように、「目覚めたら見知らぬ土地にいる」「深夜の鉄道沿線風景を眺める」といった非日常感にある。「深夜まで働いて帰宅する人々」「朝の通勤通学風景」を横目に、ゆったりと旅行するという、ひそかな優越感もある。食堂車や駅弁で食事、ベッドで晩酌など、移動する空間で生活するという楽しさもある。

こんな景色を、列車から、しかもベッドに寝転びながら見られるなんて!

筆者が最もおすすめしたい夜行列車の楽しみは、「夜明けの車窓」だ。真っ暗な車窓が少しずつ青みを帯びて、空が白々と明るくなり、やがて海や山の稜線から太陽が現れて、朝の強い日差しを浴びる。こうした経験は夜行列車ならではの体験だ。

日の出の景色は、夜行列車ではなくても、暗いうちに出発する始発列車でも見られると思うかもしれない。しかし、この景色を見るために、日の出前に起床、あるいは徹夜して始発列車に乗るなんて、なかなかできることではない。夜行列車なら、寝台や座席でぐっすり眠って、そのまま夜明けの車窓を眺められる。しかも車内は適温だ。冬は暖かく、夏は涼しい。始発列車に乗る場合、駅やホームで暑さ・寒さに耐えなければならない。

夜行列車の旅こそ「早寝早起き」しよう

夜行列車からの最高のプレゼントは、「極上の夜明け」にあると思う。この車窓を見逃さないためにすべきことはただひとつ。「すぐに眠る」これに尽きる。夜間を走る列車の非日常性も魅力だし、「せっかく高い寝台料金を払ったのに、眠ってしまったらもったいない」という気持ちもわかる。「カシオペア」「北斗星」の上り列車では、深夜に最後尾の客車の窓から、青函トンネル用の機関車へ交代する場面を眺められる。これは楽しい。

でも、それ以外の夜の車窓は最終列車でも見られるし、窓ガラスは景色より自分の顔が鏡のように映っているだけ。旅よりも、自分の顔のシワや毛が気になって、あんまり愉快ではないかもしれない。そんな景色に未練を残すよりは、すぐに寝て、未明に目覚めよう。夜明けの風景を満喫しよう。

筆者は夜行列車に乗ると、1時間ほど夜間の移動の余韻を楽みつつ、缶チューハイを1本飲んですぐに眠る。東京駅22時0分発の「サンライズ瀬戸・出雲」なら、23時頃から6時間ほど眠って、日の出前の早朝5時頃に目覚める。そして1時間半ほど夜明けの情景を楽しむ。その後、まだ眠いと思ったら二度寝だ。移動する列車で二度寝。高松行の「サンライズ瀬戸」だと小一時間しか眠れないけれど、「サンライズ出雲」なら3時間以上も眠れる。こんなにぜいたくな体験は他にない。

眠ってしまったら夜行列車に乗った記憶が少なくなってしまう。しかし、夜行列車は「眠ったまま移動するため」にある。眠りは翌日の活動を快適にする。だから夜行列車本来の使い方をしたほうがいい。夜行列車は夜明けを楽しむための乗り物だ。夜行バスはカーテン締切りが原則だから、こんなに楽しい旅はできないだろう。