社会人になり収入を得るようになると、当然そのお金の管理も必要になります。まださほどの収入ではないでしょうし、アレコレ目いっぱいやりたい世代でもあるので、目先のやりたいことにずるずると使ってしまうのが普通ではないでしょうか。きちんと管理するには自分の人生設計が大切であるとは、ファイナンシャルプランナーの決まり文句ですが、同時に社会人として社会の仕組みを正確に把握した上でお金のことを考えることも大切だと思います。

社会の仕組みについて知る

例えば年金について、よく報道されるのが、「若い人たちは将来年金がもらえない」というものです。最近はセンセーショナルな文言で関心をあおるものが多く、それに流される風潮は、不満のよりどころを見つけたい近隣の国々の風潮とさほど変わりません。しかし、そう思い込んでいる人の中に正確に年金の仕組みを理解している人はどれほどあるでしょうか。そういう議論になるたびに、どれほど仕組みについて知っているかを聞いてみるのですが、ほとんど知らないのが現状で、「自分たちはもらえない」という文言だけが一人歩きしているのです。

社会人としては、社会の仕組みに対する正確な知識を、仕組みそのものの元のデータをしっかり把握することが必要です。人生において重要な事項を他人の文章からの知識のみで済ますこと自体間違いです。特に年金など、将来の生活に大きく影響するだけでなく、現在どのような準備をするのかにも大きく影響するものについては、正確な知識を得て初めてお金のことを考えられるのです。社会の様々な仕組みがしっかり理解されていれば、お金の管理は自然と身についていくもののように思います。

20歳の教育

私は成人になったときに区から下記の内容の「成人と法律」という文庫本より少し大きいサイズの小冊子をもらいました。どの程度まで読み込んだかの記憶は全くないのですが、数10年たち、ファイナンシャルプランナーの資格を取ったのちに、書籍を整理していた時にその小冊子が出てきて、内容を見て非常に驚きました。実に多岐にわたり大人として必要とされる法律知識が網羅されています。しかしこれだけ詳細に書かれているにもかかわらず、年金に関するものが欠落しているのが不思議です。

現在の社会に応用すると、年金以外にも法律またはそれに準ずるルールはいくつか追加する必要があるでしょう。ネット問題など当時はありませんでしたし、国際化に関する分野も必要かもしれません。私は、儀礼的な成人式よりも、成人の日にこのような小冊子を配布し、解説し、人生設計を考える機会があってもよいと常々思っています。少なくとも社会人になったら、気になる事柄があったら、その都度直接法律を確認し、しっかり仕組みを把握していくことが大切でしょう。

図表の目次の項目内容を見ると「大人って大変! 」と思います。そのことを自覚するのが社会人の第一歩なのです。※ 拡大画像はこちら

お金の管理の第一歩

社会の仕組みを正確に把握することを心がければ、その次は日常的なお金の使い方です。社会人になったら、これから起きることに対して、まずは自分で対処できるように心がける必要があります。

貯金の3分割

これから起きるかもしれない様々な事柄に対自分で処するには、やはりお金が必要です。そのためには貯蓄ですが、預貯金も3つに分けて考えてください。運用方法も短期の目的、長期的な目的により異なります。

  • 使う目的が明確なもの → 欲しい家電製品や近々購入の住まい取得の頭金など
  • 不測の事態に備えるもの → 病気やけがの治療費など
  • 将来に備えるもの → 老後の生活費や先々の使用目的のもの(子供の学費・起業するときの開業資金)など

欲しいものは、基本お金を貯めてから!

突然仕事などで今すぐ必要なものがあり、月賦でしか購入できない場合などの例外はありますが、原則は必要な資金を貯めてから買うことが普通です。社会人なり立てということは、まだまだ未熟で、欲しいものをすぐ手に入れられる身分ではないはずです。

ローンを組むのは資産となるもののみ

原則ローンを組んでよいものは、住まいの取得など、住まいが資産となるものや、その後の家賃が節約できるものなどです。消費財の購入に次々にローンを組むのは考えものです。モノにはそれぞれ耐用年数があります。当然買い替えが必要な時期に関して予測することはできます。買い替えに備えて貯金するのが健全な考え方です。これほど低金利でも住宅ローンをより低金利の変動金利で組む人が多いのに、消費財に高い金利でローンを組むのは理解できません。

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何もない時代を経験したものからすれば、ものにあふれた時代に生きる新社会人は大変だと思います。何もない時代のイメージがあるからこそ、社会人になったときに「何もないところからスタート」という考えが自然にわきましたが、今は難しいのではないかと思います。この原稿を書くにあたって、切り口を考えあぐねていた時に思い出したのは、成人の時に区から頂いた小冊子なのです。まずは「正確に知る」ことを心がければ、自分の立ち位置がわかり、お金の管理もしやすいのではないかと思います。

<著者プロフィール>

佐藤 章子

一級建築士・ファイナンシャルプランナー(CFP(R)・一級FP技能士)。建設会社や住宅メーカーで設計・商品開発・不動産活用などに従事。2001年に住まいと暮らしのコンサルタント事務所を開業。技術面・経済面双方から住まいづくりをアドバイス。

※イラストは本文とは関係ありません