総務省および内閣官房が3月17日公表した資料によると、今年の7月よりとされていたマイナポータルの本格運用開始が延期され10月以降となりました。また、同時に政府や地方自治体など行政機関間の情報連携の開始時期も7月から10月以降に延期されました。

その一方で、以前取り上げたマイナポータルの利用環境設定の手間は大幅に軽減されるように改善も行われるようです。

今回はマイナポータルやその利用促進の鍵となるマイナンバーカードをめぐる最新の動きについてみていきましょう。

マイナポータルの本格運用開始 延期へ

3月17日総務省および内閣官房は、「マイナンバーカード利活用推進ロードマップ等」と題した報道資料を公開しました。今回公開された資料では、新たに策定された「マイナンバーカード利活用推進ロードマップ」のほか、「情報連携」や「マイナポータル」の本格運用のスケジュールについて、「より使い勝手がよくなるように整理しました」としています。

この「情報連携」や「マイナポータル」の本格運用のスケジュールについては、(図1)の「今後のスケジュール(案)について」という資料で示されています。

(図1) 今後のスケジュール(案)

このスケジュール(案)では、「情報連携」や「マイナポータル」について、従来本格運用開始とされていた7月は「試行運用」とされています。そして、10月以降いずれも「本格運用」とされています。

このマイナポータルについては、環境改善ということで様々な改善項目がスケジュールに盛り込まれています。このマイナポータルの改善については、別途公開された(図2)の資料で主な改善項目が説明されています。

(図2) マイナポータルの改善について

1月からスタートしたマイナポータルのアカウント開設についてレポートした際に、利用環境設定の分かりづらさや手間がかかりすぎる点を指摘し、これではITリテラシーの低い人にとってハードルが高く利用が進まないのではないかと懸念を表明しましたが、その点の改善が盛り込まれています。

まず、「取説不要」ということで、「直感的に理解できるよう、説明画面を用意」とされ、これについては平成29年4月までに対応とされています。さらに、「準備作業は3分以内」として、「パソコン向けに専用アプリを開発。このアプリのみインストールすれば準備完了」とし、(図1)のスケジュール(案)とあわせて確認しますと、平成29年秋のマイナポータル本格運用開始時期に、Windows版のログインアプリがリリースされ、Mac版については平成30年4月頃のリリースとされています。

1月の環境設定時には、カードリーダライタの設定以外に、「Javaの実行環境(JRE)のインストール」、「JPKI利用者クライアントソフトのインストール」、「環境設定プログラムのインストールと設定」と3つのソフトのインストールや設定が必要でしたが、新しく開発されるログインアプリでは、Javaの実行環境(JRE)を不要にするとともに、インストールが必要なソフトを一度のインストールで完了できるようにしたものと考えられます。Mac版は本格運用に間に合わないようですが、Windows版は本格運用の時期に合わせてリリースされるようですので、マイナポータルの利用促進という観点からは、評価できる改善といえます。

また、スマートフォンからもマイナポータルが利用できるように、Android版のスマートフォン向けのログインアプリが、パソコン向けのWindows版と同じく本格運用の時期に合わせてリリースするとされています。そしてiOS版のスマートフォン向けのログインアプリは平成30年4月頃のリリースとなっています。スマートフォンでマイナポータルを利用する場合は、スマートフォンにマイナンバーカードを読み取る機能が必要になると考えられますが、これらのログインアプリのリリース時期までに、どれだけのスマートフォンがこの機能に対応してくるのかは今のところ明らかではありませんが、スマートフォンでもマイナポータルが利用できるようになると、より手軽に活用できますので、こうした対応もマイナポータルの利用拡大に一役買うことになりそうです。

今回のマイナポータルの本格運用の延期が、こうした改善のためであれば納得できます。今後は、この改善のプロセスおよび7月の試行運用から10月以降の本格運用までのプロセスを見守っていきたいと思います。

マイナンバーカードをめぐる動き

マイナポータルについては様々な改善により、より利用しやすい環境が用意されることになりそうです。では、マイナポータルの利用に際して必要となるマイナンバーカードについてはどうでしょうか。

今回公表された報道資料で、平成29年3月8日現在のマイナンバーカードの交付状況が市区町村別に明らかにされました 。これによると、全国レベルでは10,717,919枚の発行になっており、人口に対する交付枚数率は8.4%といった状況です。子育てワンストップサービスをはじめとして様々なワンストップサービスが計画されているマイナポータルですが、活用の鍵となるマイナンバーカードの交付状況をみると、現状のままでは本格運用となっても活用が進まないといったことになりかねません。

同時に公表された「マイナンバーカード利活用推進ロードマップ」では、「マイナンバーカード・公的個人認証サービス等の利用範囲の拡大」として、行政サービスにおける利用を促進するための多機能化(印鑑証明や図書館カードなど)やコンビニ交付への未参加自治体の導入推進、また民間での利用促進として以前取り上げた契約書の電子化を可能にする電子委任状による電子社印としてのマイナンバーカードの活用など数多くの施策が盛り込まれています。しかし、マイナンバーカードの交付枚数を大きく伸ばしていくには、今のところどれも決定力に欠けるといった印象を受けてしまいます。

そんななか、日本経済新聞3月21日朝刊に三菱東京UFJ銀行が住宅ローンの契約にマイナンバーカードを活用するという記事が掲載されました 。同記事によると、三菱東京UFJ銀行が新たに始める「住宅ローン契約電子化システム」では、利用者が銀行から無償提供されるカードリーダライタでマイナンバーカードの電子証明書を読み込ませることで、銀行はなりすましや改ざんのないことを確認できるため、書面の契約書で必要だった実印や印紙もいらなくなり、利用者は自宅にいながらにして契約手続きを完了できるとしています。

カードリーダライタを無償提供してでも面倒な契約手続きを電子化することで、ユーザーサービスを向上させようという銀行側の意気込みを感じます。企業間での契約書の電子化も電子委任状法として制度化され、今後の運用でどれだけの企業が、取り組んでいくのか注目されるところですが、こうした民間企業でのマイナンバーカード活用が進めば、マイナンバーカードの普及が進むことになりそうです。

とはいえ、こうした民間企業の取り組みが進んでも、当面マイナンバーカードを取得する人の数は限られると考えられます。周りでマイナンバーカードを取得していない人にその理由を確認すると、「今のところ必要ないから」という回答と一緒に、「マイナンバーが記載されたカードを持ちたくないから」といった答えが返ってきます。「マイナンバーは漏えいさせてはいけない」ということが、制度開始以前から強調されてきましたので、 マイナンバーそのものが記載されたマイナンバーカードを持ち歩くことはもちろん、持つことにも抵抗がある人がかなりいると考えられます。

「マイナンバーカード利活用推進ロードマップ」では、マイナポータルへのログインなどマイナンバーカードを利用する場合の「アクセス手段の多様化」が掲げられ、(図3)のようなロードマップが示されています。

(図3) アクセス手段の多様化 ロードマップ

自宅からマイナポータルなどで行政サービスなどにアクセスするのであれば、スマートフォンでの読み取りやCATV・デジタルテレビからのアクセスなどは利便性を高める意味で有効といえます。ただし、マイナンバーカードの多機能化で様々な機能が搭載され、例えば図書館カードや健康保険証の代わりとして利用する場合は、マイナンバーカードを持ち歩かなければなりません。「マイナンバーが記載されているカードを持ち歩きたくない」と考えている人にとって、マイナンバーカードの多機能化も有効な普及促進策にはなりません。

(図3)のアクセス手段の多様化のなかに「スマートフォンのSIMカード等への搭載」という項目があります。これはマイナンバーカードに搭載されている電子証明書などの機能をスマートフォンにダウンロードして使えるようにしようというものです。これが実現すれば、マイナンバーカードの代わりにスマートフォンでその機能が利用できるようになり、マイナンバーカードそのものは持ち歩かなくても良いようになります。この機能の実現時期は、現時点では平成31年中とされています。この機能が実現されれば、スマートフォンでの読み取り機能も必要なくなりますので、スマートフォンへのマイナンバー機能の搭載に行政・民間でリソースを集中して早期実現をはかることが、懸案であるマイナンバーカードの普及に弾みをつけることになるのではないでしょうか。

「マイナンバーカード利活用推進ロードマップ」では、マイナンバーカード普及のための施策がたくさん盛り込まれていますが、マイナンバーカード普及のために本当に有効な施策としては、このスマートフォンへのマイナンバーカード機能の搭載ではないかと思います。様々な改善でマイナポータルでのワンストップサービスの利用に期待がもてるようになっているなか、活用促進の鍵となるマイナンバーカードの普及のための施策についてはあれもこれもと手を広げるのではなく、優先順位を見直すことも必要ではないでしょうか。

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。