前回は主に2017年における事業者に係るマイナンバーそのものの利用の動きを見てきました。では、マイナンバー制度全体としてはどのような動きが予定されているのでしょうか。前回掲載した「マイナンバー制度に係るスケジュール」のなかで、大きなイベントとしては7月のマイナポータルの開設、国の機関と地方公共団体の情報連携などが予定されています。このマイナポータルの開設は、マイナンバーカードの利活用という大きな括りのなかに位置付けられています。今回は、マイナンバーカードの利用やマイナポータルの最新の動きを見ていきましょう。

契約書等のネット発行に「社印」としてマイナンバーカード活用へ

1月15日の日本経済新聞に「契約書 ネットで発行」という見出しの記事が掲載されました。通常契約書には「社印」を押印することで、文書の有効性を確認しますが、「印鑑代わりにマイナンバーカードを使ってネット上で社長の委任を受けた担当者が電子書類を発行できるようにする」(同記事より)というものです。この記事では、保育所の審査時に提出する雇用証明書の発行など、通常「社印」付きの証明書が必要なケースにも利用できるとしています。

このように担当者が自分のマイナンバーカードを「社印」として使えるようにするためには、なんらかの仕組みが必要となります。その仕組みとして、担当者が社長から委任を受けたものであることを証明する「電子委任状」をあらかじめインターネット上のサーバーに登録しておき、契約相手など書類の受け取り側が、電子書類作成時に利用されたマイナンバーカードが「社印」として有効かどうか確認できるようにするとのことです。

この「電子委任状」は、すでに行政手続きで企業が電子申請等する場合に利用されていたものですが、総務省では現在開会中の通常国会に「電子委任状の普及の促進に関する法律案(仮称)」を3月上旬に提出するとしています。

総務省のホームページの「電子委任状の普及の促進に関する法律案(仮称)」についての説明では、「法人の代表者から委任を受けた者であることを表示する電子委任状(仮称)の普及を図ることが高度情報通信ネットワークを利用した経済活動の促進をもたらすことに鑑み、主務大臣による電子委任状の普及に関する指針の策定、委託を受けて電子委任状を保管し、必要に応じ第三者に送信する業務の認定制度の創設等の措置を講ずる。」としています。

契約書などは相手があるものですから、一方だけが電子化しようとしても相手がそれに応じなければ成り立ちません。ただし、契約書を交わす際には、内容により印紙が必要な場合には印紙代がかかっていますので、電子契約書で印紙代が不要になれば、大きなメリットがあります。また、書面でのやり取りには手間がかかっていますので、中堅・大企業が率先して契約書の電子化に舵をきれば、中小企業もその流れに乗らざるを得なくなります。今後「電子委任状の普及の促進に関する法律案(仮称)」の成立に伴い、詳細が明らかになっていくと考えられますので、その動きには注目していきたいと思います。

さまざまな分野で電子化を促進する「官民データ活用推進基本法」

こうした動きは、昨年12月7日に「官民データ活用推進基本法」が成立、施行された流れにのったものということが言えます。「電子委任状の普及の促進に関する法律案(仮称)」に該当する部分として、「官民データ活用推進基本法」では、その基本的施策第十条(手続における情報通信の技術の利用等)3項で、「国は、法人の代表者から委任を受けた者が専ら電子情報処理組織(当該委任を受けた者の使用に係る電子計算機とその者の契約の申込みその他の手続の相手方の使用に係る電子計算機とを電気通信回線で接続した電子情報処理組織をいう。)を用いて契約の申込みその他の手続を行うことができるよう、法制上の措置その他の必要な措置を講ずるものとする。」としています。

(図1)は、この「官民データ活用推進基本法」の概要を示した図です。

(図1) 官民データ活用推進基本法の概要

この基本的施策の第十条第1項では、行政手続に係るオンライン利用の原則化が掲げられています。これまで行政手続では書面をベースとした法律の上で、電子申告・申請も可能といった位置付けでしたが、今後は電子申告・申請が原則となるということを明確に示したことになります。だからといって、すぐに書面での手続がなくなるわけではありませんし、現状使いづらいなどの課題を抱えて利用が進まない電子申請手続などもありますので、すぐに事態が変わるとは思えませんが、「官民データ活用推進基本法」が目的とする、「官民データの適正かつ効果的な活用」に向かって進むためには、行政側がまずやるべきことをやるという意味で、行政手続に係るオンライン利用の原則化がスピーディかつスムーズに進むように施策を講じてほしいと思います。

また、「官民データ活用推進基本法」では、行政や民間のデータの活用についてベースとなる基本的な施策の方向性が示されています。その中で、情報通信技術についてはデータの効果的かつ効率的な活用をはかるため、AI、IoT、クラウドコンピューティングなどの活用が促進されなければならないとしています。

現在、中小企業向けのクラウドサービスが次から次へと登場し、利用が進み始めたとはいえ、まだまだ浸透しているとはいえない状況の中で、クラウドの利用促進を掲げた基本法のもと、中小企業へ波及していくような施策が講じられていくのか、この点にも注目していきたいと思います。

マイナポータル アカウント開設開始

7月から本格稼働となるマイナポータル、年明け早々には内閣官房のマイナンバー特設ページの中にマイナポータルを紹介するページが開設され、1月16日からはアカウントの開設が始まり、マイナンバーカードを取得していれば現状のマイナポータルへのログインも可能となりました。

(図2)マイナポータルアカウント開設ページ

どうしても、注意書きの多さが目立ってしまい、PCに詳しくない方などは引いてしまうのではないかと思われます。また、なんの準備もせずにいきなり「利用開始」をクリックしても、マイナポータル環境設定の実施を促すメッセージが出てきます。

マイナポータル環境設定の実際の手順を簡潔に紹介すると、以下のようになります。

事前に準備するもの
・マイナンバーカード、パソコン、ICカードリーダライタ
JAVAの実行環境(JRE)のインストール
ICカードリーダライタの接続とドライバのインストール
JPKI利用者クライアントソフト(マイナンバーカードの電子証明書を読み取るためのソフト)のインストール
マイナポータル環境設定プログラムのインストールと設定

(図2)の「はじめて利用される方はこちら」から進んだページにこの環境設定についてのマニュアル「マイナポータルをはじめて利用する」を確認することができますが、環境設定についての説明だけで、Windows・Macそれぞれの説明があるとはいえ、20Pを越える内容になっています。また、このマニュアルでは「マイナポータル環境設定プログラムのインストールと設定」について詳しく書かれていますが、上記の手順のうち、「JAVAの実行環境(JRE)のインストール」や「ICカードリーダライタの接続とドライバのインストール」、「JPKI利用者クライアントソフトのインストール」については、それぞれの提供者のサイトでインストール手順や設定などを確認することになります。

この手順は、はっきりいって、PCに詳しくない方にとってはハードルの高い内容になっています。私も実際にやってみましたが、インストール後の設定などでかなり手間取り、それなりの時間を要してしまいました。マイナンバーカードがコンビニ交付などにより今以上に普及したとしても、マイナポータルが多くの人に利用されるためには、マイナポータル環境設定のためにやらなくてはならないことをもっと簡単にできるようにするような作りにする必要があると、実際にやってみて思いました。

環境設定さえ整えば、マイナポータルのアカウントの開設は難しいものではありません。PCに接続したICカードリーダライタにマイナンバーカードをセットし、(図2)の「利用開始」をクリックして、利用者証明用電子証明書のパスワードを入力してログインします。ログインに成功すると、(図3)のアカウント情報登録の画面が表示されますので、ニックネームやメールアドレスを入力し、「利用規約に同意して確認」をすれば、アカウントの開設は終了です。

(図3) アカウント情報登録画面

先述のマニュアル「マイナポータルをはじめて利用する」では、「アカウント情報を登録すると、あなたにひもづく利用者フォルダーが作成されます。利用者フォルダーは、あなた自身と作業を委任された代理人だけが利用できる、一時的なデータ格納場所となります。」と説明されています。

現状では、この利用者フォルダーがすぐに機能するわけではないようですが、アカウント情報を登録後に表示されるメインメニューから、(図4)のマイナポータルのメイン画面に進むことができます。

(図4)マイナポータルメイン画面(一部個人情報を見えなくするため加工しています)

マイナポータルの本格利用は7月ですので、予定されているメインの機能についてはまだ利用することができませんが、(図4)のなかで「もっとつながる」の機能を利用して国税電子申告・納税システム(e-Tax)と「つなぐ」ことができるようになっています。マイナンバーカードから個人情報を読み込み、e-Tax用の利用者識別番号・暗証番号を入力してe-Taxと「つなぐ」と、マイナポータルからメッセージボックス(電子申告の結果を確認することなどに利用するために個々の納税者ごとに用意されたボックス)へのログインでは利用者識別番号・暗証番号を入力する必要がなくなります。ただし、実際の申告等でe-Taxを利用する場合は、現状の「つなぐ」機能ではマイナポータルから直接電子申告できるというわけではないため、その際は利用者識別番号・暗証番号の入力が必要になることは従来通りということになります。

マイナポータルは、まだ一部しか機能しないとはいえ、アカウントを開設すればマイナポータルにログインできるレベルまできています。メイン画面や実際に「つなぐ」操作をしてみた印象では、分かりやすく使いやすい印象をうけました。それだけに、マイナポータル環境設定の難易度が高いことがマイナポータル利用の妨げになってしまうとなると、もったいないことになってしまいます。システムとして考えれば環境設定として必要なことをやらなければならないことは理解できますが、もっと簡単にできるように改善されることを要望したいと思います。

著者略歴

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。