昨年はマイナンバーの利用が開始された年でした。事業者に係るものとしては、税の分野では1月末提出の地方税の償却資産申告書から、社会保障の分野では雇用保険の被保険者資格取得届、被保険者資格喪失届などからマイナンバーの記載が求められるようになったわけですが、いずれも記載がなくても受け取る対応が取られたため、昨年の年初はマイナンバーの利用が本格的にスタートしたとは思えないような状況でした。

では、今年の1月はどうでしょうか。税の分野では、税務署に提出する2016年分の給与所得の源泉徴収票や、市区町村に提出する給与支払報告書に従業員やその扶養親族のマイナンバーを記載して1月末までに提出することになるため、中小企業や中小企業からマイナンバーの取り扱いを委託された税理士事務所などは、その処理に追われています。2017年のスタートは、マイナンバー利用の本格化から始まったといえる状況になっています。 そんな2017年のマイナンバー制度をめぐる動きについて、現状予定されているものを整理してみましょう。

マイナンバー制度 2017年以降の動き

(図1)は、内閣官房が昨年9月30日に「マイナンバー制度の現状と将来」というテーマで開催した説明会資料のなかのマイナンバー制度に係るスケジュールの内容に、一部加筆したものです(赤・青・緑の矢印および文字が加筆した部分です)。

(図1)マイナンバー制度に係るスケジュール(内閣官房説明会資料に加筆)

事業者のマイナンバーの利用に係る提出書類として、主なもののスケジュールを加筆しておきましたが、それらを分野別に整理すると以下のようになります。

国税分野

・源泉徴収票、支払調書など法定調書 1月末提出期限
・所得税確定申告書 3月15日提出期限
・その他個人事業主の消費税申告書(3月末提出期限)や申請・届出書等

地方税分野

・給与支払報告書 1月末提出期限
・償却資産申告書 1月末提出期限

社会保険分野

・健康保険・厚生年金保険の被保険者資格取得届など(1月より)

そして7月には、国の機関と地方公共団体との間でマイナンバーに係る情報連携が始まり、行政側のマイナンバーの利用が本格的にスタートします。また、この7月にはマイナポータルも開設され、マイナンバーを持つ一人一人の個人に対して行政側からの情報提供などが始まります。今回はこれらのなかから、事業者のマイナンバー利用に係る動きについて見ていきましょう。

事業者のマイナンバー利用をめぐる動き

税の分野の動き

この1月は、源泉徴収票や給与支払報告書に従業員から収集した本人および扶養親族のマイナンバーを記載して提出しなければならないため、中小企業や税理士事務所は今々その処理の真最中です。

そんななか、昨年末に内閣官房と国税庁が共同で作成した「不動産の売主・貸主のみなさんへ 取引先へマイナンバーの提供をお願いします」(図2参照)というチラシが公開されました。

源泉徴収票などと併せて提出する支払調書の支払先からのマイナンバーの収集が思うように進んでいない状況を反映したものと思われますが、遅きに失した感があります。国税庁では、マイナンバーの記載が必要なこれらの法定調書にマイナンバーの記載がなくても受け取るとしていますが、実際にどれだけの法定調書にマイナンバーが記載されて提出されるのか注目していきたいと思います。

同じ1月提出の償却資産申告書は、個人事業主に係るものとなります。昨年の提出時からマイナンバーの記載が必要とされた書類ですが、昨年はマイナンバーの記載がなくても受け取る対応がされたため、多くの申告書がマイナンバーの記載がないまま提出されたようです。そして今年は、東京都主税局などによりますと、償却資産申告書の提出が必要な個人事業主に配布する申告書用紙の個人番号欄に「*」を印字されるケースがあるとしています。これについての具体的な説明は以下のとおりです。

「東京都主税局においては、本人確認措置の実施による個人番号の取得と併せ、順次システムによる個人番号の収集を行っています。(番号法第14条第2項)

これらにより有効に個人番号を取得できた方については、東京都が配付する申告書に「* 」印字がされています。「*」印字がされている方につきましては、申告書ご提出の際に個人番号の記載を省略していただいて差し支えありません。

ただし当該印字は、本人確認措置の実施による納税者の負担を軽減するための例外的な取扱いとなります。原則は、毎年個人番号・法人番号の記載が必要である点、ご注意ください。(参考:http://www.tax.metro.tokyo.jp/shisan/h28-mynumber.html)

マイナンバーの発行主体は地方自治体(実際は地方公共団体情報システム機構)ですから、「システムによる個人番号の収集」も可能であることは当然といえば当然なのですが、それならば納税者に負担を負わせてまでマイナンバーの記載を求める必要はないのではないかと思ってしまいます。

この説明では、「当該印字は、本人確認措置の実施による納税者の負担を軽減するための例外的な取扱い」としていますが、提出窓口での本人確認は当局にとっても大きな負担となることから、そのために取られた措置とも考えられます。

この提出窓口での本人確認が大きな課題となるのが、2月から3月にかけて税務署に提出される所得税確定申告書です。個人事業主だけでなく医療費控除などで会社員なども申告するため、毎年2000万件を越える数の申告書が税務署に提出されています。そのうち電子申告の利用件数が毎年950万件ほどになっていますので、書面での提出は1000万件超ということになりますが、これら1件ごとに提出窓口で本人確認をするとなると、税務署側の負担も相当なものになると考えられます。この所得税確定申告書の提出に際して、本人確認がどのように運用されることになるのか、2月以降の動きに注目していきたいと思います。

社会保障の分野

社会保障の分野では、昨年は労働保険(雇用保険・労災保険)の分野でのみ一定の書類にマイナンバーの記載が必要とされてきましたが、2017年1月から社会保険(健康保険・厚生年金保険)の分野でもマイナンバーの記載が求められるようになります。また、これまでマイナンバーの利用が差し止められていた日本年金機構についても、昨年11月に政令が公布・施行されたことにより、マイナンバーを利用した事務を行えることになりました。

そんななか、厚生労働省は昨年末になってようやく公的年金関係のマイナンバー制度についてのホームページを公開しました。そして、事業者が提出することになる「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」を公開しました(図3参照)。

(図3)の被保険者資格取得届では「健康保険組合への提出については個人番号を必ず記入し、日本年金機構への提出については基礎年金番号を必ず記入してください」としています。これは運用上、どのような違いになるのでしょうか。

同じく昨年末に公開された「日本年金機構におけるマイナンバーへの対応」によると、健康保険組合管掌の事業者が資格取得届を提出する場合は、必ず(図3)の新様式を使用してマイナンバーを記入し、日本年金機構に提出する場合は、基礎年金番号は必ず記入し、マイナンバーの記入は不要としています。そのため、日本年金機構に提出する全国健康保険協会(協会けんぽ)管掌の事業者に対しては、従来通りの基礎年金番号欄のみの様式を使用するように求めています。これについて協会けんぽのホームページでは、マイナンバーについて「加入者や事業主の皆さまの事務負担を軽減するため、原則として、日本年金機構や住民基本台帳ネットワークから収集を行います。」としています。

なお、上記の運用は「健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届」の取扱いについてであり、個人が年金や健康保険関連で日本年金機構や協会けんぽに提出する書類では、健康保険組合に提出するものと同様にマイナンバーの記載が求められることになっています。 また、資格取得届でマイナンバーの記載が必要となる健康保険組合では、既存の加入者について2017年1月1日時点で組合に加入している被保険者および被扶養者のマイナンバーの提出を求めることを予定しています。現時点では時期や提出方法を明確にしていない健康保険組合が多いようですが、2017年7月の情報連携の開始までにマイナンバーを登録しておく必要があるとしていることから、それ以前に提出が求められることになると考えられます。これは、健康保険組合加入の事業者にとっては、マイナンバーを記載する事務としては源泉徴収票や給与支払報告書などと同様のボリュームの作業となります。すでに、従業員から本人および扶養親族のマイナンバーを収集し、保管・管理できていれば対応可能な作業ですが、そのような対応が7月までに必要となることは認識しておく必要があります。

なお、日本年金機構では協会けんぽや厚生年金の既存の加入者について、被保険者および被扶養者のマイナンバーの提出を求めることはないようです。日本年金機構では、「マイナンバーを利用した事務を円滑に実施するため、日本年金機構では、当機構や市区町村・事業主に届け出ていただくお客様のマイナンバーを収録いたします。また、マイナンバー法に基づき地方公共団体情報システム機構に対してお客様のマイナンバー情報の提供を求め、収録を行っています。」とし、この収録作業により、マイナンバーが特定できない加入者について個人番号等登録届の提出を求めるとしています。

以上のような健康保険組合と日本年金機構・協会けんぽの対応の違いが、事業者にどのような影響を与えることになるのか、今後の推移を見ていきたいと思います。

著者略歴

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。