いよいよ年末調整本番の12月にはいりました。この年末調整事務では、今年最後の給料(または賞与)計算で確定する従業員の一年間の給与所得に対して、各種控除等を考慮して年間の所得税額を計算し、すでに源泉徴収している税額と比較して源泉徴収税額の方が多ければ還付、少なければ追加徴収することになります。本人交付の源泉徴収票も作成し、税額の過不足額を示した明細書等と一緒に従業員へ交付すれば、年末調整事務はひと段落ということになります。

そして、その後に控える税務署提出用の源泉徴収票など法定調書の作成、および市区町村に提出する給与支払報告書の作成で、本格的なマイナンバーの利用が始まります。今回は、年末調整事務から、その先の法定調書や給与支払報告書におけるマイナンバーの利用および提出において、「マイナンバーを紛失、漏えいしないこと」をポイントに留意点などを整理していきましょう。

年末調整事務ではマイナンバーを「見ずに処理」できることがポイント

年末調整事務の目的は、従業員の一年間の給与取得が確定した段階で所得控除・税額控除などを計算して年間の所得税額を計算し、給料や賞与を支払うつど徴収している源泉徴収税額を精算することです。ここで求められるのはまずは計算の正しさです。また、この際に発行する本人交付の源泉徴収票にはマイナンバーは不要ですので、「マイナンバーを紛失、漏えいしないこと」を考慮して、年末調整事務を進めるにあたっては、マイナンバーのことなど気にしないですむように、マイナンバーを見ることなく事務作業を進められるようにしておくことです。ほとんどのシステムでは、年末調整を処理する際には、そうした配慮がされていると思われますので、担当者といえどもマイナンバーを確認する作業はこの時点では安易に行わないようにし、まず年末調整事務を終了させることに注力することが肝心です。

この際に課題になるのが「給与所得者の扶養控除等申告書」(以下「扶養控除等申告書」)の取り扱いです。

今年の年末調整事務のプロセスでは、従業員から平成29年分の「扶養控除等申告書」の提出を受け、扶養親族の異動等を控除計算に反映するため必ず確認することになります。

「扶養控除等申告書」については、制度上は平成29年分以降毎年従業員本人および扶養親族のマイナンバーを記載して提出することとされています。今の時点で従業員などからマイナンバーを収集しようとすると、「扶養控除等申告書」に記載して提出してもらうのが、流れとして自然に感じるかもしれません。ただし、「扶養控除等申告書」にマイナンバーが記載されると、厳重管理が必要な書類として取り扱うことになり、かつ7年間は厳重管理のもとで保管しておかなければなりません。また、「扶養控除等申告書」にマイナンバーが記載されていると、年末調整事務のプロセスで「扶養控除等申告書」を確認して扶養親族の異動等を控除計算に反映するプロセスは、マイナンバーの担当者しか作業できなくなるとともに、「扶養控除等申告書」を確認する作業も間仕切りされたスペースなどで担当者以外の従業員にマイナンバーを見られないようにするなどの配慮も必要となります。

中小企業の場合はまだ自らの従業員数分の「扶養控除等申告書」を確認する作業で済みますが、中小企業から年末調整作業を委託されている税理士事務所の場合は、年末調整を受託している中小企業×従業員数の「扶養控除等申告書」を確認しなければなりませんので、「扶養控除等申告書」にはマイナンバーを記載せずに済ませたいものです。

マイナンバーを電子データで管理し、紙ベースではマイナンバーを「持たない」ようにするためには、前回「どのような方法で収集するのか」で書いたような方法をとれば、マイナンバーの収集のために「扶養控除等申告書」にマイナンバーを記載する必要はありません。

ただし、「扶養控除等申告書」にマイナンバーを記載しないで済ますためには、次のような一定のルールがあります。給与支払者と従業員の間の合意に基づき、従業員が「扶養控除等申告書」の余白に「マイナンバーについては給与支払者に提供済のマイナンバーに相違ない」旨記載し、給与支払者は従業員のマイナンバーを確認し、確認した旨を「扶養控除等申告書」に表示すれば、「扶養控除等申告書」にマイナンバーを記載しなくても良いとされています(国税庁 源泉所得税関係に関するFAQ Q1-5-1 ) 「扶養控除等申告書」へのマイナンバーの記載は、原則毎年必要ということになっていますので、毎年上記のような方法でマイナンバーを記載しないようにすれば、マイナンバー管理の面でもより安全ですし、毎年の年末調整事務をスムーズに進められることになります。

12月の年末調整事務においては、「扶養控除等申告書」も含めてマイナンバーを見ることなく処理を進められるようにすること、これが「マイナンバーを紛失、漏えいしないこと」のためのポイントとなります。

提出用源泉徴収票など法定調書や給与支払報告書を作成する際の留意点

年末調整の計算業務が終わり、従業員への過不足額の調整も終わると、いよいよ提出用の源泉徴収票や給与支払報告書の作成のプロセスへ入っていくことになります。とはいえ、すでに本人交付用の源泉徴収票を作成しているということは、提出用の源泉徴収票や給与支払報告書も中身としては出来上がっているのも同然です。そのため、去年までは本人交付用の源泉徴収票を印刷する時点で、提出用の源泉徴収票や給与支払報告書も一緒に印刷し、提出までの間保管しておけばよかったのですが、今回はそうはいきません。

提出用の源泉徴収票では、マイナンバー欄にマイナンバーを記載するようになっています。また、給与支払報告書の場合は、源泉徴収票ではマイナンバーの記載が不要となっている控除対象外の扶養親族のマイナンバーまで記載するようになっています( (図1) 参照)。したがって、これらの書類は本人交付用とは別に改めて作成することになります。マイナンバーに対応したシステムでは、それぞれに必要なマイナンバーさえ収集・管理されていれば、必要な指示をするだけでそれぞれの書類にマイナンバーを記載して作成できるようになっているはずですので、そうした機能を利用することになります。

(図1) 提出用源泉徴収票と給与支払報告書

また、税務署に提出する源泉徴収票は、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」や「不動産の使用料等の支払調書」などその他に必要となる支払調書を作成し、「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計票」とあわせて提出することになります。

「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」や「不動産の使用料等の支払調書」なども支払先が個人事業主の場合は、支払先のマイナンバーの記載が必要となります。

これらの書類を提出するまでのプロセスでは、源泉徴収票や給与支払報告書の内容確認、「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」や「不動産の使用料等の支払調書」などを作成することになりますが、ここでも「マイナンバーを紛失、漏えいしないこと」のためのポイントは、マイナンバーを「見ること」なく作業を進められるようにすることです。提出前の最終段階でマイナンバーを確認する以外は、たとえマイナンバーの担当者であってもマイナンバーを見ずに作業するほうが漏えい等のリスクを軽減できます。

そして、マイナンバー欄が用意された書類の作成、確認などの作業を行う場合は、たとえマイナンバーを表示させずに作業するとしても、パーテーションなどで区切られたエリアで作業する、覗き見されないところに画面等配置して作業するなどの安全管理措置を講じて、いざマイナンバーを画面で確認する際に問題が起こらないような配慮をしておくことが大事です。

税務署や市区町村への提出する際の留意点

税務署に提出する源泉徴収票など法定調書、市区町村に提出する給与支払報告書はいずれも提出期限は1月末となっています。来年の1月31日までに、これらの書類に必要なマイナンバーを記載して提出しなければなりません。

書面で提出する場合は、まずそれぞれの書類をマイナンバー入りで印刷することになります。マイナンバーの担当者が、それぞれの書類に必要なマイナンバーを印刷する指示をし、提出物としてマイナンバーが記載されたかたちで書類を印刷することになります。この際注意すべきは、プリンターが担当者以外と共用されている場合マイナンバー入りで印刷した書類は即座に回収すること、プリンターが専用の場合でも印刷しっぱなしで放置しないことです。要は、マイナンバーを不必要にさらすような状態を作らないことが肝心です。また、内容に不備等があり修正後再度印刷するようなケースでは、先にマイナンバー入りで印刷していた書類は即座に破棄するなども、ルール化しておきたいポイントです。 マイナンバーを記載した書類の準備が整えば、次は提出ということになります。直接税務署などに持ち込んで提出する場合は、提出書類をきちんと封筒などに入れたうえでカバンなどに入れ、移動時に紛失などしないように細心の注意を払う必要があります。

源泉徴収票など法定調書は所轄の税務署一箇所に提出すればすみますが、給与支払報告書は従業員の住所地の市区町村に提出しなければならないため、複数の市区町村が提出先となります。従来も郵送などで提出している場合は、中身が透けて見えないような封筒に封緘して郵送すれば良いわけですが、宛先を間違えないなど今まで以上に注意を払う必要があります。

書面での提出は、以上みてきたように印刷する際、提出する際、それぞれのシーンで漏えいや紛失のリスクに充分に配慮する必要があります。これに対して、電子申告であればマイナンバーをシステムで管理したまま、必要な箇所にマイナンバーをセットして電子データのまま提出することができますので、書面での提出に比べて大幅にリスクを軽減できます。これから電子申告をするとなると、国税(e-Tax)および地方税(eLTAX)それぞれで電子申告の開始届出を出すとともに、電子署名のためにマイナンバーカードを取得する必要があります。もちろん使用しているシステムが電子申告に対応している必要があります。ただし、これから毎年マイナンバーを記載した源泉徴収票など法定調書や給与支払報告書を提出することを考えると、この際電子申告に移行するということは、より安全にマイナンバーを取り扱うために検討に値するのではないでしょうか。

なお、多くの税理士はすでに電子申告に対応できる環境を持っています。中小企業が年末調整を税理士に委託している場合はマイナンバーの取り扱いも委託することになりますが、提出も税理士に依頼して電子申告で対応してもらえば、より安心・安全な対応となります。

多くの中小企業や税理士事務所では、これまで税務署等に提出した書類に対応した控え(コピー)を作成し保管しています。今回提出する源泉徴収票などの法定調書や給与支払報告書について、マイナンバーが記載された状態で控えを作成すると、厳重に管理しなければならなくなります。マイナンバーを記載する必要のある提出書類の控えを残す場合は、マイナンバーは印刷しない設定で印刷したものを残すようにする、または、提出物のコピーを残す場合はマイナンバーを確認できないようにマスキングするなどの対処で、マイナンバー管理の負担を増やさないようにすることも「マイナンバーを紛失、漏えいしない」ための大事なポイントになります。

著者略歴

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。