総務省では、9月16日、都道府県知事宛に「マイナンバーカードを活用した住民サービスの向上と地域活性化の検討について(依頼)」という文書をだしています。

このなかで1) コンビニ交付導入の検討依頼、2) 地域経済応援ポイントによる好循環拡大プロジェクトへの参加依頼、3) マイナポータルを活用した子育てワンストップサービス導入の検討依頼と、いずれもマイナンバーカードを活用したサービスを導入するように地方公共団体に対して依頼しています。

前回1) と2) についてみてきました。今回は3) についてみてみましょう。

マイナポータルを活用した子育てワンストップサービス導入の検討依頼

「マイナンバーカードを活用した住民サービスの向上と地域活性化の検討について(依頼)」では、2017年7月に本格稼働するマイナポータルについて、住民サービスの向上と行政事務の効率化のために、「まずは子育て等に関する施策から順次、行政サービス等の検索・閲覧サービスや、各種手続のオンライン申請での受付を推進していただきたいと考えています。平成29年7月より、全団体においてマイナポータルを活用した子育てワンストップサービスを導入していただくよう、早期かつ積極的な検討をお願いします。」としています。この文書に添付されている別紙3では、この子育てワンストップサービスについて、(図1)のように説明されています。

そして別添の資料では、この子育てワンストップサービスの具体的なイメージが(図2)のように示されています。

この子育てワンストップサービスは、(図2)のとおり検索機能、オンライン申請機能、プッシュ型の通知機能からなり、この資料では、子供の予防接種についてお知らせが届いたり、保育園への入所申請がオンラインでできたり、と具体的なサービスが例として示されています。

そして、この資料では地方公共団体に対して、検索機能のインプット情報の検討や、お知らせ送信内容(例:予防接種、健康診断、子育て支援等)の検討、サービス登録、申請書受取りの経路や方式の検討を依頼しています。

マイナポータルの構想を説明する昨年あたりの資料では、ワンストップサービスとしては、さまざまなライフイベントに対応として「引っ越し」を例にして説明されていましたので、「子育てワンストップサービス」については、今年に入って前面に出てきた感があります。おそらく待機児童問題がクローズアップされるような事態を受けて、優先順位が変わってきたと思われます。いずれにしても、子育てにかかわるさまざまな課題や手続きなどの多くは市区町村にかかわるものですから、ここでも市区町村などの地方公共団体の取り組みが、子育てワンストップサービスを効果的なものにするために欠かせないことになります。少子高齢化が進むわが国で、子育てに関するサービスの拡充は政治の課題でもあります。政府と地方公共団体が協調して認可保育園を増やすなど子育てに関するサービスの拡充が並行して進められてこそ、マイナポータルを活用した子育てワンストップサービスが効果を上げることになると考えます。

マイナポータルの将来像を探る

今回取り上げた総務省の「マイナンバーカードを活用した住民サービスの向上と地域活性化の検討について(依頼)」では、マイナポータルについては、子育てワンストップサービスの実現に向けた地方公共団体への検討依頼に絞られています。

では、もともと構想されていたマイナポータルの各機能については、今後どのような動きになっていくのでしょうか。(図3)は、政府の高度情報通信ネットワーク社会推進戦略本部(IT総合戦略本部)が今年5月に決定した「世界最先端IT国家創造宣言工程表」の改定版に掲載されている「マイナポータルの構築・利活用」にかかわる部分です。

(図3)では、マイナポータルの主な機能として構想されてきた、行政機関が持っている自己の情報を表示するサービス、マイナンバーなど自己の特定個人情報の提供等記録を表示するサービス、行政機関からのお知らせなどを表示するプッシュ型サービス、子育て支援・引越しや死亡等のライフイベントに係るワンストップサービス、民間事業者の送達サービスを活用した官民の証明書等を受け取ることができるサービス、電子決済サービスなどを順次サービス開始としています。マイナポータルの本格運用は2017年7月とされていますので、その時点で行政側だけで対応できるものはできるだけサービス開始できるようにする、そのための施策として、総務省から地方公共団体に向けた子育てワンストップサービスについての検討依頼を位置づけることができます。そして、その後民間事業者も巻き込んで引越し時の住所変更の手続きをワンストップでできるようなサービスなどを順次提供していくように構想されているようです。

さらに、この(図3)では、「マイナンバー制度の活用等による年金保険料・税に係る利便性向上に関するアクションプログラム」(以下「アクションプログラム」)に基づく取組の着実な実施として、「年金・国税・地方税等に関する各種行政手続に係るワンストップ型サービスの提供」なども構想されています。

この「アクションプログラム」では「税・年金等に関するオンライン上でのワンストップサービス」のマイナポータル画面のイメージが(図4)のように示されています。

ここにある「電子私書箱」は、民間事業者の送達サービスを活用した官民の証明書等を受け取ることができるサービスですが、確定申告に必要な生命保険料控除証明書や住宅ローン残高証明書を電子私書箱で受領・保存することができるように構想されています。さらに2018年にはマイナンバーカードの健康保険証としての利用も計画されていますので、(図3)にあるように医療費の通知も受けることが可能になり、医療費控除の申告手続がe-Taxと連携して、マイナポータルで電子的に完結するようになっていきます。

平成27年分の所得税の申告者数は2,151万人もあり、そのうち還付申告者が1,247万人と半数以上を占めていますが、事業者で還付となる数を除くと、医療費控除等により還付を受けるために申告する会社員などの人数が相当数このなかに含まれていることになります。これが、マイナポータルで電子申告できるようになれば、申告する個人にとってもメリットがありますが、税務当局にとってもメリットがありますので、財務省および国税庁では実現に向けて着実に取組を進めていくと考えられます。

医療費控除の申告手続がe-Taxと連携してマイナポータルで電子的に完結できるようになると、さらにその先では、会社員すべてが確定申告するような申告制度も構想されているようです。となると、企業にとっては面倒な年末調整の業務負担がなくなり、メリットが出てくることになります。

マイナポータルで構想されているさまざまなサービスは、民間事業者を効果的に巻き込んでいかなければ実現しないものもあり、こうした動きが今後加速していくものと思われます。その一方で、(図3)でKPIに「マイナンバーカードの発行枚数」が掲げられているとおり、マイナンバーカードが普及しないと折角のサービスも利用されないままとなってしまいます。

今回取り上げた総務省の地方公共団体に対する検討依頼も、国民にアピールできるサービスを充実することで、マイナンバーカードの普及をはかる意図があります。 今後マイナンバーカードの発行枚数が伸びていくのかどうか、マイナポータルで民間事業者も巻き込んで本当に便利なサービスが提供されるようになっていくのか、両者の動きをそれぞれに追いかけてみていく必要があります。

著者略歴

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。