前回行政側のマイナンバー制度へのシステム対応に、いろいろな分野で遅れがみられることをみてきましたが、行政側のシステム対応でも法人向けのマイナポータル(法人ポータル)は順調に準備が進んでいるようです。

2016年4月には経済産業省版法人ポータル(β版)が公開され、経済産業省が持っている法人情報と法人番号を組み合わせて情報取得できるなどの機能が提供されています。この経済産業省版法人ポータル(β版)の動きなど、マイナンバー制度の一方の番号である法人番号をめぐる動きの現状をみていきます。

経済産業省版法人ポータル(β版)とは

経済産業省版法人ポータル(β版)は、経済産業省がもつ法人情報(補助金を交付された法人や表彰を受けた法人等の情報)を検索、閲覧できるシステムとして、2016年4月に公開されました。「法人名」や「法人番号」などで検索することができ、検索結果をcsv形式でダウンロードできる機能なども装備されています。

【図1】 経済産業省版法人ポータル(β版)

ただし、現状は法人3情報(法人番号・法人名・所在地)にプラスして提供されるのが、経済産業省がもつ法人情報だけのため、検索結果で確認できるのが法人3情報のみという法人が多く、国税庁の法人番号公表サイトで得られる情報と変わりがないケースが多いのが実際のところです。そして、この経済産業省版法人ポータル(β版)は、「現在、2017年1月開始予定の全府省版の準備を進めており、その一環として、経済産業版法人ポータルβ版は第一次検証を終えメンテナンスを実施中です。」として、利用できなくなっています。同ページでは「第二次検証が始まるまで今しばらくお待ち下さい」としていることから、今後、経済産業省のもつ法人情報に他の府省のもつ法人情報を加えて検索、閲覧できるようなかたちで経済産業省版法人ポータル(β版)が再公開されるのではないかと予想されます。

【図2】が第一次検証時の経済産業省版法人ポータル(β版)とすると、第二次検証が始まる際には、【図3】のように他の府省も加わり、より多くの法人情報が付加されてくるものと考えられます。

【図2】 経済産業省版法人ポータルの全体像「経済産業省版法人ポータルの取組と成果」

【図3】 法人ポータルの拡大 「経済産業省版法人ポータルの取組と成果」

そして、2017年1月法人ポータルの正式な開設にあたっては、情報提供する側の行政機関が政府の全府省、さらに地方公共団体も加わることで、より多くの法人情報の検索、閲覧ができるようになるようです。

提供される法人データはcsv形式でのダウンロードのほかにAPIでの取得も可能になりますので、民間の事業者にとっては得意先等の情報を「法人番号」で管理するようにしておけば、得意先等の行政機関とのかかわりで管理されている情報(公共事業の受注や社会保険への加入状況、その他資格等の取得状況など)を法人ポータルから取得し、信用情報として活用することが可能になってきます。この点について、「経済産業省版法人ポータルの取組と成果」では、【図4】のようにユースケースや効果を上げています。

【図4】 法人ポータルの導入効果 「経済産業省版法人ポータルの取組と成果」

これらの導入効果を期待通りにあげていくために、今まさに行政機関ではもともと持っていた法人情報と「法人番号」を関連づけ、情報を統一された形式で提供できるようにするなどのシステム開発を行っているところです。これらの開発が順調に進み、2017年1月の法人ポータルが公開時から有用な法人情報の提供ポータルとして機能することを期待したいと思います。

法人番号をめぐる民間の動き

前項でとりあげてきた経済産業省の資料「経済産業省版法人ポータルの取組と成果」では、「法人ポータルの拡大・拡充に向けた課題」として、法人ポータルを提供する行政側の課題として、「法人関連情報の拡充」、「参加する行政機関の拡大」、「法人ポータルの機能の拡充」、「普及啓発・利用促進」を掲げています。

そしてもうひとつ課題としてあげられているのが、「民間法人ポータルの拡大の促進」という内容です。具体的には「法人ポータル経由の行政機関からの法人関連情報だけでは、不十分である。法人ポータルの法人関連情報を民間事業者の所有する独自データと紐づけたり、独自ノウハウで企業分析し、付加価値の高いサービス提供を期待。」としています。

では、この民間での法人ポータルの動きは現状どのようになっているのでしょうか。 2016年6月21日、東京商工リサーチ(以下TSR)とJIPDEC(一般財団法人日本情報経済社会推進協会)が法人番号を活用した情報提供に向けて連携する旨のニュースリリースが発表されました。そして第一弾として、JIPDECが運営するサイバー法人台帳ROBINに掲載された企業情報とTSRが所有する企業情報との連携を開始し、順次サービスを拡大していくとしています(【図5】参照)。

【図5】 JIPDECとTRSの情報連携

JIPDECのサイバー法人台帳ROBINSは、企業に関する情報を「第三者」が確認を行うことで、「信頼できる情報」として、公開する企業情報データベースとして運営されており、昨年法人番号が公開されるとROBINSの企業情報に法人番号を登録してきました。一方のTSRも保有する企業の与信情報や調査情報に法人番号を付加して提供するサービスを提供しており、今回の連携で、それぞれの情報を法人番号によって情報連携することにより、より価値の高い情報を提供しようということのようです。

こうした動きは、まさに経済産業省が今後の課題として掲げた「民間法人ポータルの拡大の促進」に他なりません。

法人番号はもともと公開される番号であることからその取り扱いに制限はなく、また国税庁の法人番号公表サイトでも、2017年1月公開予定の法人ポータルでも、情報取得のためのWeb-APIが公開されることから、民間法人ポータルともいえるサービス提供のためのシステム構築は、今後ともいろんな企業が手がけていく可能性があります。

行政側が提供する法人ポータルにくわえ、民間の法人ポータルによる法人情報の提供は、これからの企業活動にも影響を与える可能性があります。

中小企業としては、これらのサービスを有効に利用することで、自らの事業に役立てていくことはもちろんですが、自らの法人情報がどのような情報として公開されているのかをチェックしておき、情報を見ることができる取引先や消費者などによりアピールできる情報を蓄積できるような事業運営を心がける必要があるのではないでしょうか。

著者略歴

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。