平成27年10月の制度施行後も、様々にマイナンバーの取り扱いに関して変更が行われてきました。

そして、税の分野では平成28年度税制改正において、これまでマイナンバーの記載が必須とされてきた申請・届出書を中心に一部の提出書類でマイナンバーの記載を不要とする改正が行われました。その他、給与所得者の扶養控除等(異動)申告書(以下、扶養控除等申告書)にマイナンバーの記載を不要とする特例が設けられました。今回は、これらの制度改正で税の分野におけるマイナンバーの取り扱いがどのように変わったのか整理してみましょう。

マイナンバーの取り扱いの変化の流れ 平成28年度税制改正以前

本人交付の源泉徴収票へのマイナンバー記載不要へ

平成27年10月2日、所得税法施行規則等の改正により給与の支払いを受ける本人へ交付する源泉徴収票へのマイナンバーの記載が不要となりました。

これ以前は、給与の支払いを受ける本人はもちろん、控除対象となる扶養親族の分もマイナンバーを記載して本人に交付するとされていましたので、年末調整後、事業者がマイナンバー記載の源泉徴収票を作成し従業員に渡さなければならないことになり、そこにマイナンバーの紛失や漏えいのリスクがありました。また、交付を受けたマイナンバー記載の源泉徴収票を従業員が所得証明のために金融機関等に提出する場合は、マイナンバーが分からないようにマスキングして提出するなどといったことがガイドラインにも書かれていました。交付を受ける従業員にとってマイナンバーの記載は不要にもかかわらず、個人名が入る書類にはどんな書類でも一律マイナンバーの記載欄を設けた結果、将来の運用に混乱を生じかねないことから、最終的には本人交付の源泉徴収票には、マイナンバーの記載は不要となったわけです。

扶養控除等申告書 条件付きでマイナンバーを記載しなくてもよいことになる

平成27年10月28日、国税庁のマイナンバーFAQサイトに「源泉所得税関係に関するFAQ」が新設され、そのなかのQ&Aで、別途給与支払者に従業員等のマイナンバーが提供済みであり、従業員と給与支払者の間での合意があれば、扶養控除等申告書へのマイナンバーの記載はしなくてもよいことが示されました。

この扶養控除等申告書は、税務署に提出するのではなく事業者が保管義務を負っていることから、マイナンバーが記載された状態で保管し続けなければならないと、事業者にとっては厳重管理が必要な書類が毎年増えていくわけで、大きな負担になることが予想されていましたが、一定の条件を満たせばマイナンバーの記載が省略できることで負担が大幅に軽減されることになりました。

この扶養控除等申告書について、平成28年度の税制改正を受けて新たな特例が設けられています。この詳細については後ほど触れていきたいと思います。

税の分野では、制度施行の前後でこのような大きな変化があったわけですが、その後、平成28年度の税制改正大綱が発表され、マイナンバーの記載が必要とされてきた申請・届出書等の見直しが行われることになりました。

この変化の流れは、税の分野でマイナンバーに求められる目的の一つである正確な所得把握という点で、必要不可欠な書類以外はマイナンバーの記載を不要とすることで、個人番号関係事務実施者として従業員等のマイナンバーを取り扱わざるを得ない事業者や税理士などの負担の軽減、そして同時にマイナンバー記載書類の提出を受ける税務署等個人番号利用事務実施者の負担の軽減をはかるものと考えられます

平成28年度税制改正でのマイナンバーの取り扱いの変更

平成28年度税制改正が成立したのを受けて、国税庁では図1のように「平成28年度税制改正によるマイナンバー記載対象書類の見直しについて」というサイトを公開しました。

【図1】 国税庁 平成28年度税制改正によるマイナンバー記載対象書類の見直しについて

このサイトでは、まず「マイナンバー(個人番号)の記載の見直し」として、マイナンバーの記載を要しない書類の一覧として、平成28年4月1日以後適用分と平成29年1月1日以後適用分に分けて、それぞれマイナンバーの記載が不要となる書類が掲載されています。

平成28年4月1日以後マイナンバーの記載が不要となる主な申請・届出書

平成28年4月1日以後でマイナンバーの記載が不要となる書類で、事業者のマイナンバー取り扱いに関係するものを取り上げると以下のような書類が対象となっています。

・給与所得者の保険料控除申告書
・給与所得社の配偶者特別控除申告書
・給与所得者の(特定増改築等)住宅借入金等特別控除申告書

これらは年末調整時に従業員が事業者に提出する書類ですが、これら申告書についてはマイナンバーの記載は不要となりました。これで、条件付きでマイナンバーを記載しなくてもよいとされている扶養控除等申告書とあわせて、年末調整時に従業員から提出を受ける書類すべてでマイナンバーの記載は不要となったことになります。

その他には、「非課税貯蓄申込書」など個人が金融機関に提出するマル優関連の書類でマイナンバーの記載が不要とされていますが、「非課税貯蓄申告書」など一部の書類では引き続きマイナンバーの記載が必要とされていますので注意が必要です。

平成29年1月1日以後マイナンバーの記載が不要となる主な申請・届出書

平成29年1月1日以後でマイナンバーの記載が不要となる書類では、主に個人事業主に関係する以下のような書類が対象となっています。

・所得税青色申告承認申請書
・青色事業専従者給与に関する届出・変更届出書
・源泉所得税の納期の特例の承認に関する申請書
・消費税簡易課税制度選択届出書

これらは、全体のほんの一部ですので詳しくは、「平成29年1月1日以後適用分」を参照ください。

個人事業主関連以外では、延納申請書など相続税や贈与税に関する申請・届出書も多くの書類が対象となっています。

なお、平成29年1月1日以後適用ということですから、現在は原則これらの申請・届出書でもマイナンバーの記載は必要ということになっていますが、これらの申請・届出書が所得把握に直接関係しない書類であることから、マイナンバーが記載されずに提出されたとしても、あらためてマイナンバーの記載が求められることはないようです。

平成29年1月1日以後も引き続きマイナンバーの記載を要する書類

では、引き続きマイナンバーの記載が必要とされる書類にはどのようなものがあるかというと、すべての事業者に関係するものとして以下の法定調書関連書類があります。

・給与所得の源泉徴収票
・退職所得の源泉徴収票
・報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書 
・不動産の使用料等の支払調書
・不動産等の譲受けの対価の支払調書
・不動産等の売買又は貸付けのあっせん手数料の支払調書

これらの源泉徴収票および支払調書は引き続きマイナンバーの記載が必要とされることから、来年の1月の提出時期に向け、従業員およびその扶養親族のマイナンバー、また支払先が個人事業主となる場合のマイナンバーを収集・管理する必要があることは変わりありません。

また、所得把握の要となる以下のような個人事業主および個人の申告書なども引き続きマイナンバーの記載が必要な書類となります。

・所得税確定申告書(A第一表・A第二表・B第一表・B第二表)
・消費税及び地方消費税の(確定、中間(仮決算)、還付、修正)申告書(一般用・簡易課税用)
・相続税の申告書第1表(第1表(続))
・贈与税の申告書第1表

これら法定調書や申告書は、マイナンバーの記載が必要とされるのは制度の主旨からして当然のことですが、その他多くの申請・届出書も引き続きマイナンバーの記載が必要とされていますので、特に個人事業主の方や個人事業主から所得税等の申告業務を委嘱される税理士の方はその点に注意が必要です。

詳しくは、「平成29年1月1日以後も引き続きマイナンバーの記載を要する書類」をご参照ください。

平成28年度税制改正で扶養控除等申告書の取り扱いは変わったのか

先述のとおり、昨年10月国税庁のFAQで条件付きながらマイナンバーを記載しなくてもよいとされた扶養控除等申告書ですが、「平成29年1月1日以後も引き続きマイナンバーの記載を要する書類」の一覧に掲載されており、現状でも原則マイナンバーの記載が必要な書類とされています。その一方で、「扶養控除等申告書等へのマイナンバーの記載の特例」が図2のとおり設けられました。

【図2】 国税庁 扶養控除等申告書等へのマイナンバーの記載の特例

また、これを受けて国税庁の「源泉所得税関係に関するFAQ」が5月17日大きく更新されました。

このFAQを整理してみていくと、今回設けられた特例は、「平成29年1月1日以後に支払を受けるべき給与等に係る扶養控除等申告書については、給与支払者が従業員等のマイナンバー(個人番号)等を記載した一定の帳簿を備えている場合には、その帳簿に記載されている方のマイナンバー(個人番号)の記載を要しないものとされました。」(同FAQ Q1-3-1より)というものです。そして、ここでいう「帳簿」とは、扶養控除等申告書等の提出を受けて作成されたものに限るとしています。必ず一回はマイナンバーを記載した扶養控除等申告書等の提出を受けなければいけないということになると、昨年10月に一定の条件のもとでマイナンバーを記載しなくてもよいとしたことと矛盾がでてきます。

この点について、同FAQ Q1-3-5では「一定の場合には、扶養控除等申告書に直接マイナンバー(個人番号)を記載せずに、「記載すべきマイナンバー(個人番号)は給与支払者に提供済のマイナンバー(個人番号)と相違ない」旨を記載して提出することができることを明らかにしている(Q1-5-1)ところであり、この方法により提出を受けた扶養控除等申告書及びその申告書と紐付けられるよう管理されたマイナンバー(個人番号)に基づき帳簿を作成することは可能です。」としており、かつ、Q1-3-4では、電磁的記録による帳簿も認められるとしています。

昨年10月に一定の条件のもとで扶養控除等申告書にはマイナンバーを記載しなくてもよいとしたことを、今回新たに設けられた特例の中で位置づけ直すと、次のようなことになります。

「記載すべきマイナンバー(個人番号)は給与支払者に提供済のマイナンバー(個人番号)と相違ない」旨を記載し、マイナンバーは記載せずに提出された扶養控除等申告書が、取得済みの従業員などのマイナンバーと紐付け管理された扶養控除等申告書であれば、特例の条件となる「帳簿」作成のもとになる申告書として扱ってよいこと(同FAQ Q1-5-1参照)になり、このマイナンバーが記載されていない「マイナンバーと紐付け管理された扶養控除等申告書」による運用も特例として認められることになると考えられます。

以上のことから、従業員等からのマイナンバーを取得する際には扶養控除等申告書には記載せず、別途従業員みずからが直接本人および扶養親族のマイナンバーを入力できるようなクラウドマイナンバー管理システムを利用してマイナンバーを収集し、扶養控除等申告書と紐付けて管理され、税務署から申告書の提出を求められた場合にはマイナンバーを印刷して提出できる、そのようなシステム運用ができれば、マイナンバーを記載した扶養控除等申告書を厳重管理する必要もなくなります。

管理対象が増えれば、それだけセキュリティ対策も二重三重に必要になってくるわけですが、マイナンバーの管理においては、マイナンバーをシステムで管理するのであれば、紙でもマイナンバーを管理しなければならない事態はさけたいものです。

平成28年度税制改正で扶養控除等申告書等に設けられた特例は、昨年10月に一定の条件のもとで扶養控除等申告書にはマイナンバーを記載しなくてもよいとしたことを追認するものです。 マイナンバーの収集がこれからという中小企業や税理士などでは、是非この特例を活かして扶養控除等申告書にはマイナンバーを記載しない収集方法を検討することをお勧めします。

著者略歴

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。