今年の1月からマイナンバーカードの発行が始まっています。

このマイナンバーカード、希望すれば交付される仕組みですが、その申請数は3月2日現在で890万枚。このうち581万枚が地方公共団体情報システム機構(以下 J-LIS)で作成され自治体に発送済みとなっているものの、システムのトラブルなどもあり実際に交付されているのは91万枚で、申請があった数の1割程度にとどまっています。

その一方で、マイナンバーカードに搭載される電子証明書の公的個人認証サービスが今年の1月から民間に開放されることになり、これを主管する総務大臣の認定を受けて、システム開発に乗り出す企業や一般社団法人などがでてきています。

今回は、マイナンバーカードの現在と未来について考えていくなかで、マイナンバー制度においてマイナンバーカードが果たす役割について整理してみましょう。

マイナンバーカード 発行の遅れがもたらす影響

マイナンバーカードの交付申請は、通知カードと一緒に送られてきた交付申請書に必要事項を記載し、顔写真を添付して送付することで申請できます。そのほか、スマートフォンやパソコンからも簡単に申請できるようにすることで、普及を促すような工夫もされてきていたわけですが、実際にマイナンバーカードを発行する段階にきて、予想していなかったシステムトラブルなどにより、市町村による発行作業に遅れが発生しています。

マイナンバーカードを申請者が受け取る時には、市町村の窓口でパソコン等からマイナンバーカードに格納されている電子証明書等のパスワードを最低2種類登録しなければなりません。このパスワードは、市町村とJ-LISをつなぐ住民基本台帳ネットワークを通して、J-LISの管理サーバに送られ登録されて初めて有効になります。このネットワークの中継サーバで問題が発生し、1月だけでも6回の処理中断があり、市町村によっては処理の中断があった日はマイナンバーカードの発行業務を取りやめるなどの対応としたため、せっかく市町村の窓口に行っても多くの人がマイナンバーカードを受け取ることができないまま帰宅せざるを得ない状況も発生しました。

現在、実際の発行業務を担う市町村のホームページを確認すると、いずれのサイトでもマイナンバーカード発行の遅れについてお詫びの文章が掲載されているなど、今も発行業務がスムーズに進んでいない実態があるようです。

[図1]は横浜市市民局のホームページに掲げられている文書です。

[図1]マイナンバーカードの交付遅延について
横浜市市民局より

これによると、3月31日現在、12月初め頃までに申請していた方宛てに「交付通知書」を発送しているとあります。もともと、J-LISが運営する「マイナンバーカード総合サイト」では、12月初め頃の申請であれば、J-LISでマイナンバーカードが作成され、市町村に送られるのは1月下旬から2月上旬としていました。そこから市町村が「交付通知書」作成などの作業が入るとしても、そんなに時間がかかると思わずに申請し、マイナンバーカードを使って所得税の電子申告をしようと思っていた人は、実質電子申告することができずに、紙での申告に切り替えざるを得なかった人もいるのではないでしょうか。

J-LISのホームページをみても、その後システムトラブルが根本的に改善されたのかどうかといった内容のお知らせはなく、マイナンバーカードの発行の遅れについては、各市町村がその責任を負っているかのようにみえます。

このような状況が続くと、せっかく公的個人認証サービスの民間開放により、国民の利便性に寄与するようなマイナンバーカードの利用方法が構想されても、マイナンバーカードを交付申請する人が増えないというような状況に陥ってしまうことも考えられます。

J-LISがこれまでのシステムトラブルの根本的な改善をはかり、各市町村のホームページにマイナンバーカードの発行が順調に進んでいるような内容のお知らせが早く掲載されるような状況になることを願っています。

公的個人認証サービスの民間開放とその向かうところ

[図2]は以前も掲載したマイナンバーカードの仕組みを示した図です。

[図2] 個人番号カードの3つの利用箇所について
総務省 「マイナンバーカード」より

この図の通り、マイナンバーカードのICチップ内には2種類の電子証明書が格納されています。電子申告時の署名用に用いられる電子証明書と、利用者証明用の電子証明書の2種類です。これら電子証明書を利用するための公的個人認証サービスは、これまでは行政機関しか利用できませんでしたが、今年1月から民間にも開放されることになりました。

そして、2月には早速3法人が総務大臣の認定を受けて、公的個人認証サービスを使ったサービスの開発に乗り出すことになりました。

[図3] マイナンバーカード(電子証明書)を活用する公的個人認証サービスの利用を行う民間事業者として、初の大臣認定を実施
総務省 報道資料より

これら3法人に共通するのは、具体的な官民のさまざまなサービスの提供主体に、公的個人認証サービスを利用できるクラウドサービスを提供するプラットフォームを開発・提供することを目指していることです。民間企業でなんらかのオンラインサービスを提供しようとする場合、これらの法人が提供するプラットフォームを活用することで、本人確認が確実に行えるなどのメリットにより、オンラインサービスの開発・提供が容易になることなどが想定されています。

そして、もうひとつ共通するものとして、サービスの利用者はケーブルテレビやスマートテレビといったインターネットにつながったテレビとマイナンバーカードを利用することにより、いろいろなサービスを受けることができるようになることが構想されています。これによって、パソコンなどが使えないようなお年寄りでも使えるサービスを提供していこうということが考えられています。

[図4]は上記の報道資料に添付されている資料です。

[図4] テレビとマイナンバーを活用したサービスの将来像
総務省 報道資料より

マイナンバーカードの電子証明書を利用するには、カードから電子証明書を読み取る装置が必要となります。現在、電子申告をする場合はカードリーダーを別途購入し、パソコンに接続して署名用の電子証明書により電子署名を行っています。[図4]で示された将来像では、テレビのリモコンにタッチすれば電子証明書を読み取ることができるように構想されています。テレビがインターネットにつながっていれば、テレビのリモコンにマイナンバーカードをタッチするだけで、[図4]にあるようなさまざまなサービスが自宅にいながらにして受けられるようになります。

これはマイナンバー制度が目指すもののひとつである「ITの活用により国民の利便性が向上する社会」への道筋を示すものでもあります。そのキーデバイスとなるのがマイナンバーカードであることを認識すると、現状のマイナンバーカードの発行遅れを一刻も早く解消して、マイナンバーカードの交付申請から発行までスムーズに進められるような体制作りをしてほしいと思います。

著者略歴

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。