【連載】

中小企業にとってのマイナンバー制度とは?

33 中小企業のマイナンバー対応 システム選択? 外部委託? 現状の傾向を探る(1)

 

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前回は、最近のニュースとして、小学校の職員が、マイナンバーを記載した書類を、給与事務取扱事務所へ持ち込む途中で、書類入りのカバンごと紛失するというトラブルを取り上げました。

このようなトラブルは、中小企業でも複数の店舗からマイナンバーを書面で集める際や、外部委託した税理士や業者の事務所にマイナンバーを書面で届ける際に起こりえます。これから従業員などのマイナンバーを収集するという中小企業では、こうしたリスクに対して、きちんと対策を立てたうえで、マイナンバーの収集に臨む必要があります。

今回は、実際に中小企業のマイナンバー対応がどこまで進んでいるのか、そのなかで自社対応の場合はどのようなシステムや、外部委託を選択できるのかなど、新たな動きも含めて現状の傾向を探っていきます。

まだシステムの整備まで進んでいない中小企業も多い?

1月21日、MM総研が「マイナンバー制度対応システム・サービスの導入実態調査」(以下「導入実態調査」)を発表しました。このなかで、[図1]のとおりマイナンバー制度対応に「既に取り組んでいる企業」は69.9%となっています。

[図1]マイナンバー制度対応に向けた社内の進捗状況
MM総研 「マイナンバー制度対応システム・サービスの導入実態調査」より

この「既に取り組んでいる」としているうち、社内でシステム対応しているのは45.5%、外部組織に委託する形態で対応しているのが24.4%となっています。

社内対応であれ外部委託であれ「既に取り組んでいる」としている企業が70%近くいるなかで、この時点で「どのように対応するか計画中」としている企業が26.1%あります。また、残り3%は「まだ何も着手していない」などマイナンバー対応がまったく進んでいない企業がこの時点でもあることがわかります。

では、「対応している」としている企業は、マイナンバー取り扱いの入り口となる従業員などからのマイナンバーの収集まで、この時点で完了できているのでしょうか?

この「導入実態調査」では業務ごとの対応状況についても[図2]の通り、調査結果が公表されています。

従業員の入退社にともなう雇用保険の被保険者資格取得届・喪失届ではすでにマイナンバーの記載が必要となっており、給与計算にともなう源泉所得税関連の業務では従業員および扶養親族のマイナンバーが2016年分の給与所得から必要となることから、「対応済み」49.1%で「人事・給与」がトップにきていることは当然のことと考えられます。ただし、ここで対応済みとしている内容は、おそらくマイナンバーに対応したシステムの改修やバージョンアップが対応済みということであり、実際にマイナンバーを収集し、保管・管理まで対応できているのかというと、次の「マイナンバーの保管・管理」ができているかを見る必要があります。この「マイナンバーの保管・管理」について、「対応済み」と答えた企業は43.0%となっています。

「既に取り組んでいる」とする企業が約70%あるなかで、「マイナンバーの保管・管理」まで「対応済み」の企業はまだ43%であるということは、マイナンバーの収集からはじまる本格的なマイナンバーの取り扱いは、まだまだ進行中であるということがいえます。

この調査では、企業規模による取り組みの違いまでは明らかではありませんが、中小企業ではどのような状況なのかという視点で見ていくと、「既に取り組んでいる」や「マイナンバーの保管・管理」まで「対応済み」となる割合は、上記のような数字よりもかなり低くなるのではないかと思われます。

中堅企業でも従業員などへマイナンバー収集に向けた通知などは行われていても、収集自体はこれからという話もよく聞かれます。4月に新入社員を迎え入れる企業では、それまでに既存の従業員からマイナンバーを収集し、整備されたマイナンバーの収集・保管体制のもとで、4月に入社してくる従業員からスムーズにマイナンバーを収集する、そういった計画を立てている企業が多いようです。「既に取り組んでいる」企業でも「マイナンバーの保管・管理」を「検討中」としている企業などはこのような計画を立てているのではないでしょうか。

マイナンバーの収集・保管がこれからという中小企業もまだ遅くはありません。上記のような計画の立て方を参考にしつつ、現状がシステムの選択も含めて「検討中」という状況であれば、社内のマイナンバー管理体制(組織的・心的安全管理措置)を整えつつ、物理的・技術的安全管理措置への対応やコストなどの負担の違いなどを考慮して、システムの検討を進めることが大事になってきます。

マイナンバー対応のシステム 今年に入って新たな動きが…

この「導入実態調査」では、そのほかにマイナンバー制度対応に向けたシステムやサービスで不安に感じていることや、今後システムやサービスで重視・期待する機能についても調査結果が公表されています。

マイナンバー制度対応に向けたシステムやサービスで不安に感じていることでは「情報漏えいリスク」が66.5%でトップにきています。また、今後重視・期待する機能については「セキュリティへの対応力の高さ」が44.7%でやはりトップにきており、マイナンバー対応のシステムやサービスに対して「情報漏えいリスク」を防ぐ機能が強く求められていることがわかります。

昨年のうちに出尽くした感のあったマイナンバー管理システムに、1月に入って、ひとつ大きな動きがありました。家電量販店のPCソフトコーナーに並んでいる主要な給与パッケージソフトなどが、マイナンバー管理について、税理士事務所向けにマイナンバー管理システムを提供しているベンダーと相互連携する仕組みを、2016年4月より順次提供することを発表しました。

これらの給与パッケージソフトでは支払調書に対応していないことや電子申告・申請に対応していないことから、これらの給与パッケージソフトを使用する中小企業が税理士事務所に年末調整や法定調書の作成を依頼しているケースが多く、税理士事務所側で使用しているソフトで源泉徴収票や支払調書を作成し、提出は電子申告・申請で行うという関係ができていました。そうした関係から税理士事務所向けに年末調整・法定調書システムを提供してきた当該ベンダーと給与パッケージソフトとの間では従来、給与データを連携する仕組みが作られていましたので、こうした連携機能を利用する中小企業・税理士事務所のことを考えれば、今回のマイナンバー管理についての連携は当然予想されたものではありました。

この相互連携の提供時期が2016年4月より順次ということは、年末調整や法定調書の作成で本格的にマイナンバーの記載が必要となる来年1月に向けてということなのでしょうが、実際に従業員の入退社にともなう手続きでマイナンバーの利用は始まっています。これに対応するために、これらの給与パッケージソフトを使用してきた中小企業ではマイナンバー対応にバージョンアップし、すでにマイナンバーの収集、保管を行っている中小企業もあります。こうした中小企業が、税理士事務所との関係で当該ベンダーのソフトとマイナンバー管理で連携を取る場合、両者でマイナンバーを持つことになると、本格的に年末調整から法定調書の作成を担う税理士事務所がシステム周りの安全管理措置をとることは当然としても、マイナンバーの管理を委託する中小企業側も安全管理措置をとらなければならないことになり、外部委託による負担軽減というメリットは見いだせないことになります。

先に見たとおり、マイナンバー管理のシステムに対しては「情報漏えいリスク」を防ぐ機能が最も強く求められています。この相互連携のような仕組みは、それぞれのシステムで当然セキュリティ対策がとられているとしても、従業員などのマイナンバーが一時的にせよ二重に管理される状態となると、マイナンバーの管理主体とならざるをえない中小企業にとって、リスクを軽減することにはならないと考えられます。

今年に入ってこうした動きが新たに出てくることは、中小企業でのシステム選択からマイナンバーの収集・保管など、実際のマイナンバー対応がまだまだ「検討中」のまま進んでいないことを意味しているともいえます。次回は、システム選択・外部委託のサービスなど現状提供されているシステム・サービスを整理し、中小企業にとって「情報漏えいリスク」をより軽減できるシステム・サービスの選択肢を探っていきたいと思います。

著者略歴

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。

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インデックス

連載目次
第43回 中小企業・小規模事業者からマイナンバー取り扱いの委託を受ける税理士の現状
第42回 マイナンバー対応 準備を順調に進めている企業と進まない企業
第41回 世界最先端IT国家創造宣言とマイナンバー制度
第40回 マイナンバーが記録されているパソコンは修理できない?
第39回 平成28年度税制改正でマイナンバーの取り扱いはどう変わったのか?
第38回 動き出した企業版マイナンバー(法人番号)の利用が与える影響
第37回 マイナンバーカードは民間活用でどのようなメリットがもたらされるのか
第36回 多くの企業がメリットを感じない、マイナンバー制度の課題を考える
第35回 新入社員を迎える季節 継続的にマイナンバーを管理・運用できる体制作りを
第34回 中小企業のマイナンバー対応 システム選択? 外部委託? 現状の傾向を探る(2)
第33回 中小企業のマイナンバー対応 システム選択? 外部委託? 現状の傾向を探る(1)
第32回 あいつぐマイナンバー制度のトラブル 中小企業への影響を考える
第31回 個人事業主のマイナンバー利用 今後のスケジュールを整理する
第30回 マイナンバー利用開始1カ月 マイナンバー利用の課題を考える
第29回 マイナンバーの取り扱い 中小企業から委託を受ける税理士などの最新動向
第28回 マイナンバーとマイナンバーカードの役割を考える
第27回 マイナンバー利用開始 すぐマイナンバーの記載が必要な書類・時期を再整理
第26回 平成27年分年末調整業務進行中 来年を見据えて準備しておきたいこと
第25回 マイナンバーの収集、今年中に収集するか? 来年に入って収集するか?
第24回 マイナンバーの通知と中小企業の取り組み 最新状況
第23回 中小企業向けマイナンバー商戦 現状整理
第22回 マイナンバー制度への対応を中小企業の本格IT化のきっかけに
第21回 法人番号の通知・公表スタート 中小企業に与える影響を考える
第20回 マイナンバー通知本格化 いよいよ本番 中小企業のマイナンバー対策
第19回 中小企業のマイナンバー対策 システム選びが成否をにぎる? (その2)
第18回 中小企業のマイナンバー対策 システム選びが成否をにぎる? (その1)
第17回 マイナンバー利用開始 間近に迫る 今中小企業は何をすべきか?
第16回 マイナンバー通知カードの送付始まる 待ったなしで始まるマイナンバー制度
第15回 税理士などにマイナンバーの取り扱いを委託する場合のシステム連携の課題
第14回 マイナンバーの保管・廃棄 システムで異なる安全管理措置
第13回 マイナンバーの利用・提出 よりセキュアに対応するためにほしい機能
第12回 マイナンバーの収集 システムで異なる業務運用
第11回 IT活用で対応するマイナンバー対策 システム比較
第10回 マイナンバー対策を契機にIT活用を見直す
第9回 法人番号とマイナンバー制度の将来像
第8回 マイナンバーの取り扱いを税理士事務所などに委託する場合
第7回 マイナンバーの保管、利用シーンで求められる安全管理
第6回 マイナンバーの収集で注意すべきこと
第5回 マイナンバー制度 中小企業に与える影響
第4回 中小企業が「個人番号関係事務実施者」として行う実務内容と必要な準備
第3回 すべての中小企業が「個人番号関係事務実施者」へ
第2回 マイナンバー制度の概要と今後のスケジュール
第1回 マイナンバー制度で業務のここが変わる!

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