マイナンバーの利用が始まった1月、マイナンバー制度の運用をめぐって、さまざまなトラブルが報道されました。

  • 市区町村まで戻ってきた通知カード送付の簡易書留が約362万通(1月12日時点)もあり、今も通知カードを受け取っていない人が多数
  • 全国展開している大手ソフトレンタル店で、会員登録の際の身元証明に通知カードを利用
  • マイナンバーカードの発行システムで連日にわたりシステム障害
  • 横浜の小学校の職員がマイナンバーを記載した書類を、給与事務を行う県教育委員会の事務所に運ぶ途中で、書類を入れたバックを紛失

昨年も通知カードの誤配や発行漏れなどのトラブルがありましたが、マイナンバーの利用が開始されてからはトラブルの内容も変わってきました。

今回はこれらのトラブルが中小企業に与える影響や、再度確認しておきたいことなどを整理してみましょう。

いまだに通知カードを受け取っていない従業員がいる場合は…

通知カード送付の簡易書留の初回配達は、結果的に12月の下旬までかかってしまいました。この初回配達で受け取れなかった場合、通知カードはいったん郵便局で保管されますが、再配達の依頼をする、または、郵便局に受け取りに行かなければ一週間で市区町村の役所に戻ってしまいます。この市区町村まで戻ってしまった通知カードが300万以上もあり、それだけ多数の人が通知カードを受け取らないままになっているということです。

まだ、従業員などからマイナンバーを収集していない中小企業では、従業員のなかに通知カードを受け取っていないものがいるかどうかも分からないのではないでしょうか。いざこれからマイナンバーを収集しようというときに、こうした従業員がいると収集に手間がかかることになります。また、従業員は通知カードを受け取っていても、別居している扶養親族のなかに通知カードを受け取らないままにしているものがいる場合は、もっと手間がかかることになります。

市区町村まで戻ってしまった通知カードは、役所の窓口まで行って受け取ることになります。市区町村によっては予想をこえた数の通知カードが戻ってきたため、その整理に追われ、あらかじめ連絡して受取日時の指定をうけないといけないケースもあるようです。市区町村まで戻ってしまった通知カードの受取方法などについては各市区町村のホームページで案内されていますので、従業員などが通知カードを市区町村まで出向いて受け取る場合は、事前にこれらのホームページを確認の上、市区町村のマイナンバーコールセンターに連絡して受取方法など確認することをお勧めします。

なお、市区町村まで戻ってしまった通知カードは3カ月のあいだに受け取りに行かないと破棄されてしまいます。その後は、マイナンバーが記載された住民票を市区町村の窓口で発行してもらい、マイナンバーを入手することになります。

従業員などが通知カードを受け取っていない場合、マイナンバーを収集しなければならない中小企業としては、いざというときにマイナンバーの取扱事務に支障が出ないようにするためにも、従業員などが通知カードを受け取らないままの状態を放置せずに、早めに通知カードを受け取るように促すことをお勧めします。

大手ソフトレンタル店の犯した間違いから学ぶこと

ソフトレンタル店などで会員登録する際に身元確認できる書類の提示を求めることは一般的に行われていることです。ニュースにもなったケースでは、通知カードの送付が始まった昨年10月以降、通知カードを会員登録の際の身元確認書類として使用することを案内していたことです。

もともと政府は通知カードを身分証明書として使用しないように求めていますが、それは通知カードの券面にマイナンバーが記載されているため、身分証明書として利用されるとコピーをとる、メモをとるなどの方法により、マイナンバーが流失するリスクがあるからです。今回のケースでは、マイナンバーをメモするなど記録することはなかったようですが、一歩間違えればマイナンバーの流失を招くところでした。

通知カードを提示することはイコールマイナンバーを提示することになります。

個人番号関係事務実施者である中小企業では、税や社会保障分野でマイナンバーが必要な手続きのために従業員などのマイナンバーを収集し、その際の番号確認に通知カードの提示を求め、のちのちの確認のためにコピーをとることはできます。

ただし、マイナンバーの利用はもともと制限されており、本来の利用目的である税や社会保障とは関係ないところで、例えばお客さまや取引先などに契約上の身元確認のために通知カードの提示(イコールマイナンバーの提示)を求めるようなことはしてはならないことをあらためて確認しておきましょう。

マイナンバーカードの発行で連日システム障害発生 影響は…

マイナンバーカードは、個人からの交付申請を受け付けたのち、地方公共団体情報システム機構(以下J-LIS)でカードを作成、市区町村に送付、市区町村ではカードが届いた時点で申請者に交付通知書を送付し、通知書を受け取った申請者が市区町村の窓口でカードを受け取るという流れで発行されます。窓口でマイナンバーカードを受け取る際に、申請者はマイナンバーカードに格納された2つの電子証明書のパスワードを登録することになるのですが、このパスワードは住基ネットでつながっているJ-LISのマイナンバー管理システムで管理されます。このため、マイナンバーカードを受け取る際パスワードを登録するためには、住基ネットとJ-LISのマイナンバー管理システムがネットワークでつながって機能していることが条件となります。

この住基ネットとJ-LISの管理システムをつなぐ中継サーバで、1月13日、18日、19日、21日、22日、25日と6回にわたって障害が発生しました(1月28日現在の報道による)。いずれの日の障害も数十分程度で復旧したようですが、なかには当日のマイナンバーカードの発行を取りやめる市区町村もあり、実際に受け取りに訪れた人がカードを受け取ることができないまま帰ってしまったこともあったようです。

J-LISの説明では、当面の対応で障害は解消したものの、根本的な解消にはいたっておらず、「根本的な解消に向けて早急に対応方法を検討してまいります」としています。

その後、同様のシステム障害の報道がないことから、根本的な問題の解消にはいたっていない状態でも、マイナンバーカードの発行業務は順調に推移しているものと思われます。J-LISの運営する個人番号カード総合サイトのマイナンバーカードの「交付申請書の受領時期と(マイナンバーカードを)市区町村に発送するため郵便局に差し出す時期」は、以下のとおり当初の発表から変わっていません。

[図1]交付申請書の受領時期と市区町村に発送するため郵便局に差し出す時期
J-LIS 個人番号カード総合サイトより

電子申告・申請に利用するために早めに交付申請を出していた中小企業や個人事業主などは、この障害によって受け取りに行った当日受け取れなかったとしても、再度受け取りに行けばマイナンバーカードを手にすることはできそうですので、今のところ大きな悪影響を受けることはなさそうです。

マイナンバー制度でさまざまな「便利」を実現するツールとなるはずのマイナンバーカード、市区町村になかには早くもマイナンバーカードを使ったコンビニ発行システムをスタートさせるところも出てきています。システム障害の根本的な問題を解決し、トラブルなくカードの発行業務が順調に進んでいくことが、マイナンバー制度の「便利」を実現していくためにも大事な要件となることを意識して今後の推移を見守りたいと思います。

マイナンバーの紛失起こる 企業は安全管理措置の点検を

横浜市の小学校の職員が、同校の教職員および扶養親族など54人のマイナンバーを記載した書類を、給与などの支払業務を行う神奈川県横浜給与事務所に届けるために、書類をバックに入れ電車で移動している間にバッグごと紛失したことが報道されました。その後も書類は見つかってはおらず、マイナンバーを紛失した個人についてはマイナンバーの再発行も検討されているようです。

この件は、書類をバッグに入れて運んでいた職員が不注意でバッグをどこかに置き忘れ、そのバッグが持ち去られたことにより起こったようですが、こうした個人のミスは起こりえることですので、こうしたミスを未然に防ぐ対策が大事になってきます。

マイナンバーを記載した書類を持ち運ぶ際には、複数の担当者でミスを起こさないように相互にチェックできる体制をとるなどが考えられますが、中小企業などでこのような体制を作ることは難しい場合もあります。そもそも給与事務を行う場合にシステムを利用しているのであれば、マイナンバーを記載した書類を収集した現場から外に持ち出さなければならないようなシステムではなく、それぞれの現場で、あるいはマイナンバーの持ち主である本人がマイナンバーを入力すれば済むようなクラウドのシステムであれば、このような紛失事故は起こりません。

複数の事業所を持っているような中小企業で、マイナンバーの収集がこれからという場合は、このような事故が起こらないように、マイナンバーを記載した書類を外に持ち出さなくてもマイナンバーを収集できるシステムを選択するなど、あらためてマイナンバー対策を再考することをお勧めします。

なお、この件は故意に紛失させたわけではありませんので、マイナンバー制度の罰則規定にふれることはないようです。では、こうした紛失などミスによるマイナンバーの漏えいにつながるような事故を起こしてしまった場合は、どのようにすれば良いのでしょうか。

昨年の「個人情報保護法」および「マイナンバー法」の改正により、「マイナンバー法」のもとでガイドラインなどを作成、公表してきた「特定個人情報保護委員会」が、今年から「個人情報保護委員会」に改組され、個人情報およびマイナンバーの両方で事業者などに対して適正な取り扱いを確保するための業務を担うことになりました。

この「個人情報保護委員会」が、ホームページで「特定個人情報の漏えい事案が発覚した場合の対応について」というサイトを開設し、今回の件のような事案に対する対応を解説しています。

これによると、「特定個人情報の安全の確保に係る「重大な事態」が生じたときに、個人情報保護委員会に報告することが法令上の義務になりました」とし、事業者における漏えい事案で「重大な事態」を以下のように定義しています。

[図2]事業者における漏えい事案で「重大な事態」
個人情報保護委員会 特定個人情報の漏えい事案が発覚した場合の対応についてより

この重大事態に該当しない場合でも、漏えい等が起こった場合は所管官庁などのガイドラインに沿って報告に努めることが求められています。そして、実際に漏えいなどが起こってしまった場合、以下のような措置を講じることが望ましいとしています。

  1. 事業者内部における責任者への報告、被害の拡大防止
  2. 事実関係の調査、原因の究明
  3. 影響範囲の特定
  4. 再発防止策の検討、実施
  5. 影響をうける可能性のある本人への連絡など
  6. 事実関係、再発防止策などの公表

今回の件のように実際にマイナンバーの紛失などが起こった場合は、「重大事態」に該当しないケースでも、まずは上記の1~6のような対応を早急に行うことが大事なポイントとなります。人が行うことにミスはつきものです。今回の件を自社には関係ないこととは考えずに、自社のマイナンバー対応の安全管理措置を見直す良い機会として、「個人情報保護委員会」の提示している対応内容を、自社の体制に合わせて具体的にブレイクダウンしておくことをお勧めします。

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マイナンバーの利用が進むにつれて、今回取り上げたようなトラブルが内容を変えてこれからも起こることが想定されます。こうしたトラブルが起こることにより、マイナンバー制度に対する漠然とした不安が助長されていくことはやむをえないことではありますが、マイナンバー制度はこれからの公平・公正でより便利な社会のインフラとなっていく制度でもあります。

マイナンバー制度に係るそれぞれの立場でできるトラブル防止策を最大限に講じていくこと、これがこうしたトラブルを見ていくときの大切なポイントではないでしょうか。

著者略歴

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。