平成28年に入り、いよいよマイナンバーの利用がスタートします。

あらためて事業者や税理士などが行うマイナンバーの利用とはどのようなことなのか整理すると、マイナンバーの記載欄が追加された書類に必要な個人のマイナンバーを記載し行政機関へ提出すること、ということになります。マイナンバーの利用は、現行法では社会保障、税、災害対策の3つの分野に限定されており、一般の事業者が関係するのは、社会保障および税の分野になります。これまでも、どのような書類がマイナンバー記載の対象になるのかみてきましたが、平成27年10月マイナンバー制度施行後に制度として変更されたことや新たに公開された情報をみながら、マイナンバーの記載が必要となる書類について、特に直近でどのような書類にマイナンバーの記載が必要なのか、再整理してみましょう。

平成28年度税制改正ではマイナンバーの記載を不要とする書類が増える?

平成27年12月16日に公表された自由民主党・公明党の「平成28年度税制改正大綱」では、マイナンバーについて「マイナンバーの記載に係る本人確認手続やマイナンバー記載書類の管理負担に配慮し、一定の書類についてマイナンバーの記載を不要とする見直しを行う」 としています。具体的には、国税分野では以下の書類でマイナンバーの記載を不要とするとしています。

(1)所得税の青色申告承認申請書や個人の消費税簡易課税制度選択届、納税の猶予申請書など、申告等の主たる手続と併せて提出、または申告等ののちに関連して提出されるもの(平成29年1月1日以後適用、ただしそれ以前に提出されるものでマイナンバーの記載がない場合でもあらためて記載は求めない)

(2)財形貯蓄関連の書類である非課税貯蓄申込書、財産形成非課税住宅貯蓄申込書など税務署長等には提出されない書類で、マイナンバーの記載がなくても所得把握の適正化・効率化を損なわないもの(平成28年4月1日以後適用)

「税務署長等には提出されない書類」ということでは、この連載でも取り上げたように「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」が条件付きで平成28年1月以降提出する場合でもマイナンバーの記載が不要となっています。同様の書類で今後マイナンバーの記載が不要となる書類の範囲が広がることになりそうです。地方税でも、(1)と同様の考え方および国税の「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」と同様の趣旨の書類などを対象に、マイナンバーの記載を不要とすることになりそうです。

これらは、税制改正大綱時点での内容ですので、これから国会での法改正を待って正式に決まるわけですが、「マイナンバーの記載に係る本人確認手続やマイナンバー記載書類の管理負担に配慮」するという流れはかわらないものと思われます。

実際にこの流れをうけて、総務省では早速平成27年12月18日に「地方税分野における個人番号利用手続の一部見直しについて」という通知を各地方団体に発出し、すでに公表していた様式について、マイナンバーの記載を不要とする予定の様式を明らかにしています。

国税分野については平成27年12月22日現在、新たな発表はありませんが、税制改正大綱で例示された書類を中心にマイナンバーの記載を不要とする書類が今後明らかになっていくものと予想されます。ただし、これらの書類のうち法人・個人共通のものについては、マイナンバーの記載が不要となっても法人番号の記載は必要となる予定ですので、その点注意しておく必要があります。

平成28年1月マイナンバー利用開始 最初にくるものは…

上記のような流れで、税の分野では当初マイナンバーの記載が求められていた書類のうち、従業員などのマイナンバーや個人事業主のマイナンバーの記載が不要になる書類が増えることになりそうですが、これまでこの連載で取り上げてきた源泉徴収票や支払調書などの法定調書、所得税申告書などは、今のところマイナンバーの記載が必要な書類であることに変わりはありません。ただし、これらの書類にマイナンバーの記載が必要となるのは平成28年分の所得や支払からであり、これらの書類の作成・提出は平成29年1月以降ということになります。では、平成28年1月からのマイナンバーの利用開始で、どのような手続で最初にマイナンバーの記載が必要となるのでしょうか?

1月1日現在所有している事業用の資産を申告する償却資産申告書

地方税である固定資産税は、土地や家屋のほかに事業用に利用している製造用機械やパソコンなどの償却資産も対象となります。固定資産税の計算のため、事業者は毎年1月1日現在で事業に利用している償却資産について「償却資産申告書」を作成し、1月末日(平成28年は2月1日)までに市区町村に提出します。 この「償却資産申告書」では、平成28年1月1日現在の償却資産を申告する平成28年度分から「個人番号又は法人番号」欄が設けられ、マイナンバー制度で番号の記載が求められる書類として、大量かつ一時期に集中して提出される最初の書類となります([図1]参照)。

この「償却資産申告書」には、事業者が法人であれば法人番号を、個人であればマイナンバーを記載することになります。個人事業主自らが「償却資産申告書」を作成・提出する場合は、本人のマイナンバーを記載し、本人確認に必要な書類(通知カードおよび運転免許証などのコピー)を添付して事業所の所在する市区町村に提出することになります。

個人事業主が所得税の申告を税理士に依頼している場合は、所得税の計算に密接に関連する減価償却資産の管理も税理士に依頼しており、こうしたケースでは税理士が「償却資産申告書」を作成・提出するのが一般的です。そのため、税理士事務所では「償却資産申告書」の対象となる個人事業主からマイナンバーを取得する必要があります。が、マイナンバーの通知が遅れたこと、地方税に関して総務省や市区町村の情報公開が遅かったことなどが影響し、平成27年中に対象となる個人事業主からマイナンバーを取得することが思うようにできず、平成28年1月にはいって個人事業主からマイナンバーを取得する作業を進めている税理士事務所もあるようです。 こうした事情もあり、[図1]でとりあげた東京主税局の償却資産申告書に関するチラシでは、「マイナンバーの記載がない場合でも、申告書は有効なものとして受理します」としており、他の市区町村でも同様の対応となるようです。

マイナンバーの本格的な利用という意味では、最初の大きなイベントとなる「償却資産申告書」ですが、実際にマイナンバー(および法人番号)がどのくらい記載されて提出されるのかなどに注目して、今後の推移をみていきたいと思います。

従業員の入退社で必要となる手続 雇用保険被保険者資格取得(喪失)届など

平成28年1月にはいって従業員の入退社がある場合、入社および退職に関する手続きでマイナンバーが必要となります。従業員の入退社時、すぐにマイナンバーが必要となる手続きを確認しておきましょう。

社会保険関連の手続きでは、入退社時に被保険者資格取得届・喪失届を関係する行政機関に提出します。ただし、健康保険や厚生年金保険でのマイナンバー利用は平成29年1月からとなっており、マイナンバーの利用が平成28年1月から始まるのは雇用保険関連に限定されています。雇用保険では、新たに従業員を雇用する場合は雇用保険被保険者資格取得届が、従業員が退職する場合は雇用保険被保険者資格喪失届が必要となり、[図2]のとおり、それぞれ該当する社員のマイナンバーを記載してハローワークに提出することになります。提出期限は、雇用保険被保険者資格取得届は「被保険者となった日の属する月の翌月10日まで」、雇用保険被保険者資格喪失届は「被保険者でなくなった事実があった日の翌日から起算して10日以内」となっており、退職の場合は提出期限まであまり時間がないことから、退職者からのマイナンバーの取得も含めてスムーズに作業を進めることがポイントとなります。

[図2]雇用保険被保険者資格取得届・喪失届
厚生労働省ホームページより

平成27年10月以降マイナンバーの通知カードが届いた従業員から本人および扶養親族のマイナンバーを収集してきた企業では、平成28年1月にはいって従業員の退職があってもスムーズに雇用保険被保険者資格喪失届を作成、提出することができます。一方、現時点でも従業員からマイナンバーを収集しきれていない企業では、従業員から退職の申し出があった場合、その時点で当該従業員にマイナンバーの提供を求め、トラブルなどなくマイナンバーを取得できれば、雇用保険被保険者資格喪失届にマイナンバーを記載して提出することはできますが、提供を受けたマイナンバーの管理を考えると、そこまでに安全管理措置などの準備を整えておく必要があります。

また、退職者については税の分野でも退職までの給与所得によっては、給与所得の源泉徴収票(給与所得が役員の場合は50万円超、役員以外の場合は250万円超の場合)や給与支払報告書(給与所得が30万円超の場合)を作成、提出しなければなりません。これらの書類では、本人のみでなく扶養親族のマイナンバーも必要となります。実際の提出は、翌年(平成29年)1月でよいのですが、その時点で退職者に連絡して扶養親族も含むマイナンバーを取得するのは困難なことは容易に想像できますので、従業員の退職がある場合は、これらの書類を作成しなければならないかどうか給与所得などを確認のうえ、作成の必要があれば退職手続きをおこなうプロセスで、扶養親族のマイナンバーも取得する必要があります。

こうしたことも考慮すると、現時点で従業員などからマイナンバーの収集が済んでいない企業は、できるだけ早めにマイナンバーの取り扱いについて対応準備を進め、従業員などのマイナンバーを収集することをお勧めします。

著者略歴

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。