平成27年分の給与所得に対する年末調整業務が佳境を迎える時期になりました。今年はマイナンバーを利用しない最後の年末調整となりますが、来年の年末調整ではマイナンバーを利用するために、そこまでに必要なマイナンバーを確実に収集しておくなど、業務の進め方もおのずと変わってくることになります。

マイナンバーを利用せざるをえない来年の年末調整を意識して、今年から準備しておきたいことを整理してみましょう。

今年の年末調整 マイナンバー制度施行で前年と違うのは…

平成27年分の給与所得に関する年末調整業務は、まさに現在進行中ですが、年末調整業務のメインとなる帳票で、従業員ごとに作成する源泉徴収票(税務署提出用および受給者交付用)や給与支払報告書は、今年までは前年と同様に個人番号欄のない様式のままです。また、平成28年1月末までに税務署に提出する支払調書なども、前年同様「個人番号又は法人番号」欄がない様式です。そのなかで、平成28年1月以後使用予定の「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」(以下「合計表」)には、提出者の「個人番号又は法人番号」欄が追加されています。が、この欄を使用するのは平成28年分以後の「合計表」(平成29年1月提出分)からとなりますので、平成27年分の「合計表」として平成28年1月に提出する場合は、この番号欄には何も記載しないで提出することになります(国税庁 国税分野における社会保障・税番号制度導入に伴う各種様式の変更点 21ページ参照)。したがって、今年の年末調整業務に関わって税務署や市区町村に提出する書類については、「合計表」が様式のみ変わるものの、メインとなる源泉徴収票や支払調書などではマイナンバー制度で変わるものはありませんし、マイナンバーの記載が求められるものはありません。

ただし、今年の年末調整時に従業員から提出を求める「平成28年分 給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」(以下「扶養控除等申告書」)には個人番号欄が設けられています。従業員に対して、この平成28年分の「扶養控除等申告書」にマイナンバーを記載して提出を求めることで、マイナンバーの収集に使うこともできますが、これを今年中に提出する場合は、法令上もマイナンバーを記載する必要はありませんので、企業に保管義務のある「扶養控除等申告書」でマイナンバーを収集するかどうかは慎重に検討する必要があります。また、平成28年1月以降に「扶養控除等申告書」を提出する場合も、従業員が「個人番号については給与支払者に提供済みの個人番号と相違ない」旨を「扶養控除等申告書」の余白に記載し、給与支払者(事業者)が既に提供を受けている従業員などのマイナンバーを確認、また確認した旨を「扶養控除等申告書」に表示すれば、マイナンバーの記載はしなくても良いことになっています(国税庁 「源泉所得税関係に関するFAQ」 Q1-9参照)。企業に保管義務のある「扶養控除等申告書」にマイナンバーを記載すると従来にも増して厳重管理が必要となります。マイナンバーをシステムで管理するのであれば、マイナンバーを「守る」ために安全管理措置を講じなければならない書類を持たないという観点から、今年提出を求める「扶養控除等申告書」にはマイナンバーを記載しないようにしたいものです。そして、別な方法でマイナンバーを収集してシステム管理できるようにしておけば、来年以降も「扶養控除等申告書」にマイナンバーを記載する必要はありません。 ここで課題となるのは、平成28年以降従業員から「扶養控除等申告書」の提出を受ける前までに、「扶養控除等申告書」にマイナンバーを記載する以外の方法で、マイナンバーを収集し、システムで管理している状態にしておくことです。従業員の入社時にも「扶養控除等申告書」の提供を求めることになりますが、平成28以降はこの「扶養控除等申告書」にマイナンバーの記載を求めずにすむように、入社時に別途の方法でマイナンバーを新入社員から取得できる仕組みを作っておく必要があります。

来年の年末調整 マイナンバー制度で変わる書類を確認する

来年の年末調整で最も大きく変わる帳票は、源泉徴収票(税務署提出用および受給者交付用)と給与支払報告書です。[図1]のとおり、これまで摘要欄に氏名などを記載すれば良かった扶養親族について、配偶者やその他の扶養親族それぞれの個人番号の記載が必要となるため、新たに個々の扶養親族ごとの氏名・個人番号欄が設けられ、用紙サイズもA6からA5に変わります。

[図1]をみると、来年の年末調整で使用することになる源泉徴収票と給与支払報告書では、これまでと同様に全体的に同じような項目が配置された様式になっていますが、大きく異なる部分があります。国税で利用する源泉徴収票では、扶養控除の対象にならない「16歳未満の扶養親族」には個人番号欄がなくマイナンバーの記載は不要になっており、控除対象の扶養親族分のみマイナンバーを記載するようになっています。これに対して、地方税で利用する給与支払報告書では、「16歳未満の扶養親族」も市・県民税の計算に必要なため、個人番号欄が設けられマイナンバーの記載が必要となっています。これと連動して平成28年分の「扶養控除等申告書」でも、「住民税に関する事項」として用意されている「16歳未満の扶養親族」欄に個人番号欄が設けられています。

[図1]平成28年分の源泉徴収票(左:国税庁ホームページより)と給与支払報告書(右:総務省ホームページより)

年末調整業務では、税額計算に関係する控除対象の扶養親族に注意が集中しがちですが、来年の年末調整で作成する給与支払報告書では、控除対象の扶養親族だけでなく、直接年末調整の計算には関係ない「16歳未満の扶養親族」のマイナンバーも記載が必要となりますので、従業員からマイナンバーを収集する際は、「16歳未満の扶養親族」のマイナンバーも確実に収集しておく必要があります。

その他の支払調書 マイナンバーが必要となるケースを確認する

年末調整業務で作成した源泉徴収票および「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」を平成29年1月に税務署に提出する際、多くの企業では「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」や「不動産の使用料等の支払調書」などの支払調書を作成し、一緒に提出することになります。平成29年1月に提出する平成28年分のこれらの支払調書では、「支払を受ける者」の欄に番号欄が設けられ、「支払を受ける者」が法人の場合は法人番号を、個人事業主の場合はマイナンバーを記載することになります。

[図2]平成28年分 報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書
国税庁ホームページより

「支払を受ける者」が法人の場合は、法人番号の記載が必要となりますが、この法人番号は公開される番号であり、国税庁の法人番号公開サイトで検索して取引先の法人番号を確認することもできます。平成28年分の支払調書を作成するのが、平成29年1月であることを考慮すると、法人の取引先からの法人番号の取得については、来年中のいずれかの時期に行えばよいことになります。

「支払を受ける者」が個人事業主の場合は、個人事業主のマイナンバーを取得する必要があります。この場合は、従業員の場合と同様に、来年の今頃に収集しようとしてもマイナンバー通知カードをなくしてしまっている方もでてきてしまい、取得に手間取るケースも想定されます。できれば、従業員からのマイナンバー収集と同様に早めに収集したいものです。ただし、継続的な取引先であり、年間での支払金額がそれぞれの支払調書の作成条件となっている金額を超えることが確実なケース以外は、あらかじめマイナンバーを収集し保管することができません。まずは、平成28年1月に作成する支払調書について、「支払を受ける者」が個人事業主であり、毎年支払調書を作成している取引先を確認しましょう。税理士など個人で士業を営む方にそれぞれの専門業務について業務委託しているようなケースや、事業所や駐車場などを個人の方から賃貸しているケースなどが該当すると思われます。一方、講演料や原稿料の支払いで平成28年1月に「報酬、料金、契約金及び賞金の支払調書」を作成するケースでは、契約などで継続的な講演や原稿の執筆を依頼しているような取引先以外は、平成28年中に支払調書の作成要件を満たすことになった時点でしか、マイナンバーを取得することはできません。

以上を確認の上、継続的な取引先については、早めにマイナンバーの収集ができるように取引先への案内など早めの準備を進め、スポットで講演や原稿の執筆を依頼し支払調書の作成が必要となるようなケースは、平成28年中に支払調書の作成要件を満たすことがわかった時点で、取引先からマイナンバーを取得できるようにマイナンバーの提供を依頼するなど準備していく必要があります。

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結局、年末調整業務および法定調書の作成業務で、来年を見据えて準備すること、そのもっとも大きな課題は、前回もみてきたように、必要な時期までにマイナンバーを確実に収集できるようにするということになります。そして、このマイナンバーの収集では、退職者がでることなどや、先延ばしすることで通知カードをなくしてしまう人もでてくることを考慮し、安全管理措置など必要な準備を整えしだい収集することをお勧めします。

その上で、年末調整業務および法定調書の作成業務で使用しているシステムがパッケージソフトの場合、ベンダーが来年の必要な時期までに様式の変更などに対応してバージョンアップしてくることになりますが、実際に年末調整業務を行う際には、これまで業務に携わってきた従業員の誰でもが作業できるようにするため、また、のぞき見などによる漏えいリスクを徹底して軽減するために、マイナンバーを見ることなく作業できることがデフォルトになっているかなど、マイナンバーの取り扱いに係る機能について早めにベンダーに確認し、マイナンバーの収集から利用・提出にいたるまでの機能に不足を感じるようであれば、使用するシステムの変更も視野に入れて準備していくことをお勧めします。

著者略歴

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。