事前の予測以上にマイナンバー通知カードの配達に遅れがでるなか、すでに準備を整えている企業では、通知カードが届いた従業員から順次マイナンバーの収集を始めています。一方、まだマイナンバー制度への対応準備が整わないため従業員などからマイナンバーの収集が始められない企業では、年内に収集しようとしても残された時間がなくなってきました。こうした企業では、今から対応準備を整えて収集を始めるとなると、実際にマイナンバーを収集するのは来年になってしまうことも考えられます。

従業員などのマイナンバーの収集時期を来年に先延ばしした場合、どのような課題があるのか整理してみましょう。

従業員などのマイナンバー収集時期 今年中に収集できない場合は?

マイナンバー制度への対応準備を進めてきた企業が、従業員などのマイナンバーを今年中に収集するように計画していたのは、以下のような理由があるからです。

(1)マイナンバー通知カードが従業員などの手元に届いた直後のほうが確実に収集できるから(来年の年末に集めようとすると通知カードをなくした人がいる可能性があるため)

(2)現在在職中の従業員が平成28年1月以降中途退職した場合に、退職時に必要となる書類にマイナンバーが必要となるから

(3)雇用関係にある従業員やその扶養親族のマイナンバーは継続的に利用することが予定されているため、保管しておくことができるから

従業員などからのマイナンバー収集を年内はあきらめて来年に先延ばしする場合、上記の(1)および(2)について、どのように対処するか考えておく必要があります。

(1)への対処:通知カードの保管を徹底するよう従業員に案内する

日本郵便によれば12月20日までにはすべての市区町村で通知カードの初回配達が終了する予定としています。マイナンバーを収集する対象の従業員で通知カードが届いた人もいれば、いまだ届いていない人もいるといった状況の企業もあるかと思いますが、ほとんどの企業では、通知カードが従業員に届いた状況になっているのではないでしょうか。

制度への対応準備が整わないため、従業員などからの収集を先延ばしする場合は、従業員へのマイナンバー提供依頼を文書などで行う際に、従業員本人および扶養親族の通知カードが届いたら、企業が収集を開始するまでの間、扶養親族の分も含めて通知カードを失くさないように確実に保管しておくことを案内することです。すでに、従業員に対してマイナンバー提供依頼の案内を出している場合は、収集時期が来年になること、その時期がくるまでは通知カードの保管を徹底するように再度従業員に案内すると良いでしょう。なお、平成28年1月からマイナンバー(個人番号)カードの発行も始まりますので、年を越すとマイナンバー(個人番号)カードを取得している従業員もいることが考えられます。年を越してからマイナンバーを収集する場合は、収集時にマイナンバー(個人番号)カードを取得している従業員からは本人確認のためマイナンバー(個人番号)カードを提示してもらうことになりますので、その旨も書き添えて案内しておきましょう。

(2)への対処:従業員の退職など平成28年中にマイナンバーが必要となるケースを洗い出す

平成28年中に従業員などのマイナンバーを記載して作成しなければならない書類には、どのようなものがあるのでしょうか? まず、従業員が退職したケースで必要となるものを税の分野、社会保障の分野で見てみましょう。

  • 税の分野

従業員が年の途中で退職した場合、そこまでの給与所得について「給与所得の源泉徴収票」および退職金が支払われる場合は「退職所得の源泉徴収票」を作成し本人に交付しなければなりません。この本人交付の源泉徴収票については、[図1]のとおりマイナンバーの記載は10月2日の所得税法施行規則等の改正により不要となりましたので、これらの書類作成のためにマイナンバーを収集する必要はありません。

[図1]個人番号の記載が不要となる税務関係書類
国税庁ホームページより

ただし、役員が退職し退職金が支払われる場合の「退職所得の源泉徴収票」は翌年1月に「給与所得の源泉徴収票等の法定調書合計表」とあわせて税務署に提出することになりますが、この提出用の「退職所得の源泉徴収票」には退職した役員のマイナンバーが必要となります。この「退職所得の源泉徴収票」を作成するのは平成29年1月で良いのですが、退職してから一定期間経過後では退職者からマイナンバーを取得するのは手間もかかり難しくなる場合も考えられますので、あらかじめ在職中にマイナンバーを取得しておくほうがよいでしょう。

国税分野では以上のような対応になりますが、地方税分野では従業員が中途退職し、退職時までの給与が30万円を超えている場合は、給与支払報告書を作成し翌年1月に退職時の住所地の市区町村に提出しなければなりません。この給与支払報告書には退職した従業員本人および扶養親族のマイナンバーを記載しなければなりません。退職後の従業員から扶養親族まで含めたマイナンバーを取得することが難しいことは容易に想像できますし、退職時にトラブルなどがあるとその時点でのマイナンバーの取得が難しくなることも想定されますので、従業員からのマイナンバーの収集は早めに行うほうがよいことは間違いありません。

  • 社会保障の分野

社会保障の分野では、従業員が退職した場合、各種保険の被保険者喪失届を関係機関に提出することになります。これらの被保険者喪失届へのマイナンバー記載時期については、雇用保険は平成28年1月から、健康保険・厚生年金保険については平成29年1月からとなっています。したがって、来年の1月以降従業員が退職した場合には雇用保険被保険者資格喪失届に退職する従業員本人のマイナンバーを記載してハローワークへ提出しなければなりません。給与支払報告書のことも考慮すると、やはり従業員からのマイナンバーの収集は早めに行いたいものです。

マイナンバーの収集時期 その他に考慮しておきたいこと

扶養控除等申告書 平成28年以降もマイナンバーを記載しないためには

以前にも書きましたが、「給与所得者の扶養控除等(異動)申告書」(以下「扶養控除等申告書」)については、平成28年分を今年中に提出する場合、法令上マイナンバーの記載義務はなく、平成28年以降提出する場合も一定の条件を満たせばマイナンバーは書かなくても良いことになりました(国税庁 源泉所得税関係に関するFAQ Q1-9 参照)。

マイナンバーをシステムで管理するならば、マイナンバー記載の書類をできるだけ紙で保管しないようにするのが安全管理上も大事なポイントとなります。もともと企業に保管義務のある扶養控除等申告書に、平成28年以降法令上マイナンバーを書かなければならないことは、そういう観点からは悩みの種でした。それが、マイナンバーを書かなくても良くなったわけですから、これを活かさない手はありません。

平成28年以降提出の扶養控除等申告書にマイナンバーを書かなくても良いようにする条件とは、(1)給与支払者と従業員の間でマイナンバーを記載しない方法について合意しておくこと、(2)給与支払者が保管しているマイナンバーが扶養控除等申告書でマイナンバーの記載を省略した従業員本人および扶養親族を適切に紐付けられるように管理されていること、ということになります。

この(2)を満たすためには、平成28年以降従業員が扶養控除等申告書を提出する以前に、従業員本人および扶養親族のマイナンバーを扶養控除等申告書に記載しない別な方法で収集しておく必要があります。継続して雇用している従業員が平成28年以降に扶養控除等申告書を提出するのは、来年の年末調整時期となりますので、最低限それまでに従業員などのマイナンバーを収集しなければなりません。

従業員などのマイナンバー ハローワーク、健康保険組合への提供

厚生労働省が公表している事業主向けの資料(厚生労働省 社会保障・税番号制度の導入に向けて)では、「既存の従業員・被扶養者分の個人番号について、平成28年1月以降いずれかの時期に、健康保険組合・ハローワークにご報告のお願いをする予定」としています。この報告時期は未定ですが、報告の期限までに一定の猶予期間がとれるように「報告のお願い」がされるとしても、全従業員の本人および扶養親族のマイナンバーを提出するわけですから、報告期限以前に従業員本人および扶養親族のマイナンバーを全従業員分収集しておかなければならないことになります。

従業員などからのマイナンバーの収集は、税の分野でも、社会保障の分野でも、中途退職する従業員がでてくる可能性や、健康保険組合・ハローワークへの従業員などのマイナンバー提供を考慮しておかなければなりません。とすると、年内に収集できないとしても、来年のできるだけ早い時期に収集できるように準備することが次善の策といえます。マイナンバー制度への対応準備がまだこれからという企業では、以上のようなことを考慮して、今からでも対応準備を進められることをお勧めします。

著者略歴

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。