マイナンバー制度のもう一つの番号、法人番号も10月22日から通知が始まり、国税庁が運営する法人番号公表サイトでの法人番号の公表も10月26日より、通知が始まった地区の法人から順にスタートしています。法人番号の通知・公表開始スケジュールによると、この記事が掲載される頃には、一部地方を除いて大半の法人企業に法人番号が通知され、公表されているはずです。

法人番号については、この連載でも一度とりあげましたが、最新情報をみていきながら、中小企業に与える影響を考えてみます。

社会保障および税の分野での法人番号利用に備えた準備

実務面では、平成28年1月から、マイナンバー(個人番号)と同様に法人番号も社会保障や税の分野の諸手続きに利用されることになります。

社会保障の分野では、平成28年1月からマイナンバーが必要な手続きとして、「雇用保険被保険者資格取得届」などの雇用保険関連の手続きがあります。これらの手続きでは、対象となる被保険者のマイナンバーの記載は必要となりますが、雇用する側の事業主については法人番号の記載は不要となるようです。同分野で今のところ予定されている平成28年1月から法人番号の記載が必要となる手続きは、「雇用保険適用事業所設置届」と「雇用保険適用事業所廃止届」の2つだけなので、すでに適用事業所となっている法人では、この分野で法人番号が必要となる手続きは当面ないとみてよいようです。

一方、税の分野では[図1]のように法人税や消費税の申告書、法定調書などが法人番号記載の対象となります。

[図1] 税務関係書類の法人番号記載時期
税務関係書類の番号記載時期(国税庁)より法人分のみ抜粋

法人税申告書や消費税申告書は、自社の法人番号を記載することになりますので、通知された自社の法人番号をきちんと管理しておけばよいことになります。また、これらの申告書の作成を税理士に委託している場合は、税理士に自社の法人番号を必要な時期までに知らせる必要があります。

以上の申告書などは、自社の法人番号を記載すれば済むのですが、注意が必要なのは法定調書です。支払調書に記載しなければならない支払先が個人事業主の場合はマイナンバーの記載が必要なのと同様に、支払先が法人の場合は法人番号の記載が必要となります。法人番号はマイナンバーと異なり公開される番号ですので、マイナンバーのように「守る」ための措置などは必要ありませんが、あらかじめ取引先から法人番号を知らせてもらうか、法人番号公表サイトで確認するなどの準備は、支払調書に番号の記載が必要となる時期までに済ませておく必要があります。

法人番号公表サイト 実運用スタート

その法人番号公表サイトですが、10月5日マイナンバー制度施行と時を合わせてオープンし、10月26日からは通知された順に法人番号などが公表されています。

[図2]法人番号公表サイト

もともと法人番号は、1.会社法その他の法令の規定により設立の登記をした法人、2.国の機関、3.地方公共団体のほか、これら以外の法人または人格のない社団などであって、法人税・消費税の申告納税義務または給与などに係る所得税の源泉徴収義務を有することとなる団体に対して指定されることになっています。そして、この法人番号公表サイトでは、1.商号または名称、2.本店または主たる事務所の所在地、3.法人番号の基本3情報と呼ばれる情報が公開されます。また、今後は公開後の変更履歴(商号の変更、本店の移転など)も、基本3情報とあわせて確認できるようになります。

さらに、この法人番号公表サイトでは、検索機能・データダウンロード機能・Web-API機能が用意されています。

検索機能

検索機能では、法人番号から検索して商号や所在地を調べること、法人の商号および所在地などから検索して法人番号を調べることができます。支払調書で必要となる取引先の法人番号については、法人の商号および所在地などから検索して法人番号を調べることで、記載すべき法人番号を容易に入手することができます。ただし、似たような商号の法人がある場合や移転後変更登記をしていないため所在地が把握している住所と異なる場合などもあります(*)ので、このサイトで調べると同時に直接取引先にも確認をとることをお勧めします。

(*)法人番号の通知書は、登記している本店または主たる事務所の所在地に送られます。本店の移転後、変更登記を行っていない法人などは、郵便物の転送サービスを利用していれば、通知書は現在の本店所在地に転送されますので、通知書を受け取ることはできますが、法人番号公表サイトに公開される所在地は、登記上の所在地が公表されますので、その点注意が必要です。取引先への信用を考えると、公表される所在地は取引先に知らせている住所と一致していることも重要ですので、本店の移転後変更登記を行っていない法人は早めに法務局や税務署へ移転手続きされることをお勧めします。

データダウンロード機能

ダウンロード機能では、法人の基本3情報を各月月末時点での全件データファイル(各都道府県別)と日次の差分データファイルでダウンロードして入手できます。実際にこれらのファイルが作成されるのは、全国の法人の法人番号が公表される11月末からとなりますので、ダウンロードが可能になるのは12月1日からとされています。新規設立法人にDMを送付するなどの営業活動を行う場合、この差分データファイルのダウンロード機能を利用することで、無料で新規設立法人の名称・住所データを入手できることになりますので、こうした営業活動を行っている中小企業などには、利用価値のある機能となります。

Web-API機能

Web-API機能では、利用者のシステムからリクエストを送信することで、指定した法人番号の法人に関する情報や、指定した期間および地域で抽出した法人の差分情報を取得するためのシステム間連携のインターフェースが提供されます。法人番号を指定してダウンロードする機能では、条件指定することにより指定した法人の変更履歴も併せて取得することもできます。差分情報をダウンロードする機能では、取得期間を指定しリクエストすることで、指定した期間における法人番号指定、商号・所在地の変更および登記記録の閉鎖などの事由に係る情報を取得することができます。所在地(都道府県・市区町村)および法人種別を条件に追加し、取得する情報を絞り込むこともできます。なお、このWeb-API機能を実際に利用できるようになるのは、ダウンロード機能と同様に12月1日からとなっています。 今後、DMの宛名書きに利用されるようなソフトウェアの分野では、このWeb-API機能に対応した製品が出てくることが予想されます。

法人番号特有の目的 新たな価値の創出とは

マイナンバー制度の目的として、「行政の効率化」、「国民の利便性の向上」、「公平・公正な社会の実現」が掲げられています。法人番号も同様の目的をもって導入されるわけですが、法人番号特有の目的として、「新たな価値の創出」ということが掲げられています。政府広報などでは、「民間による利活用を促進することにより、番号を活用した新たな価値の創出が期待される」としています。

全国のすべての法人の情報が、法人番号を含む基本3情報および変更履歴のデータベースとして公開されます。これをベースに、基本3情報以外の企業情報を独自に付加して利用価値の高いデータベースを提供する、そのようなサービスがでてくる可能性もあります。 さらに、EDI(電子データ交換)の推進といった分野での法人番号の利用が考えられます。すでに業界によってはデータ形式など規格が決められているEDIですが、企業コードとして現在利用されているものを法人番号に統一し、請求書などのデータに活用するようになっていけば、EDI(電子データ交換)の利用がより広範囲に広がり、中小企業も巻き込んで、企業間での紙の書類のやりとりが電子データに置き換えられていき、中小企業においても取引の効率化が進むといったことも期待されます。

いずれにしても、「新たな価値の創出」という目的は、民間での積極的な法人番号の活用があって初めて実現されるものであることは間違いありません。法人番号をめぐる今後の民間企業の動きに注目したいところです。

著者略歴

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。