全国の市区町村からのマイナンバー通知が本格化してきました。

以前にもご紹介しましたが、地方公共団体情報システム機構が運営する個人番号カード総合サイトでは、各市区町村の郵便局への通知カードの差出し状況を確認できます。ここをみると10月20日を皮切りに、順次マイナンバー通知カードが発送されていることが分かります。そして、11月中にはすべての住民票を有する個人にマイナンバーの通知カードが届く予定です。

これまで、中小企業のマイナンバー対応の遅れだけでなく、個人レベルでのマイナンバー制度への認識も進んでいない状況が報道されていましたが、マイナンバーが届くことで個人レベルでの制度への認識が一気に進めば、おのずと中小企業のマイナンバー対応も加速せざるを得ない状況になってくると予想されます。

今回は、最新の中小企業のマイナンバーへの対応状況を確認しつつ、遅れた状況を取り戻すために、やるべきこと、できることを考えてみます。

中小企業のマイナンバー対応状況 最新調査から

10月にはいって公表された日本経済新聞の調査では、中小企業のマイナンバー対応状況について、「おおむね完了」6.6%、「作業中」15.5%、「計画中」20.4%と、対応準備を進めている中小企業がまだ50%に達していないことが報道されています。この調査では、準備が進んでいない中小企業は、「対応すべきことはわかっているが着手できていない」26.6%、「対応の必要があるかどうか分からない」24.0%、「対応することを考えていない」6.9%となっています。

「対応の必要があるかどうか分からない」や「対応することを考えていない」という回答からは、制度への理解が進んでいない状況がみえてきます。まだ、この状況にある中小企業では、1人でも従業員を雇用していれば源泉所得税や社会保険に関連した業務のために、従業員および扶養親族のマイナンバーを収集し取り扱うことになることを、まず次の政府公報オンラインサイトなどで確認してください。

そして、「対応すべきことは分かっている」という状況になったら、マイナンバーへの対応をできるところから、早速着手していきましょう。

まずは担当者を決め従業員へマイナンバーの提供を求める案内を

以前上記の政府公報オンラインサイトの、準備のための「6つの導入チェックリスト」を検討した際にも確認しましたが、まずマイナンバーを取り扱う担当者、責任者を決めましょう。

また、担当者や従業員の教育用にご利用をお勧めした政府インターネットテレビの事業者向けのマイナンバー制度案内の番組に、「マイナンバー導入のチエックポイント【事業者向け】」として「6つの導入チェックリスト」に基づく内容の番組が追加されています。この連載でご紹介した「マイナンバー 社会保障・税番号制度が始まります」<事業者向け編>とあわせて、まずは、担当者、責任者はこれらを視聴し、制度概要を理解しましょう。

その上で、急ぎ実施したいのが、従業員への案内です。

従業員への案内では、まず、マイナンバーの利用目的を提示して、従業員に本人および扶養親族のマイナンバーを企業に提供する必要があることを認識してもらいましょう。そして、実際に従業員からマイナンバーの提供を受けるまでのあいだ、届いた通知カードを扶養親族分も含めて失くさないように保管しておくよう案内しましょう。

自宅に不在のため通知カードを受け取れなかった従業員がいる場合は、再配達の申し込みで勤務先に配達してもらうこともできます。また、従業員の10月5日現在の住所地が住民票住所と異なる場合、郵便物の転送手続きをしていても通知カードは転送されませんので、現在の住所地の市区町村に転入届を出し、その上で通知カードを受け取れるように手続きする必要があります。

こうした情報も従業員に提供して、すべての従業員がマイナンバー通知カードを確実に受け取り保管できている状況、いつでも従業員などのマイナンバーを収集できる状況にしておきましょう。

マイナンバーの収集・保管 どういう方法で集め、どこで電子にする?

マイナンバーの収集を紙で行う場合、ひとつの方法として年末調整に際して従業員から提出される扶養控除等申告書にマイナンバーの記載をもとめ集めることが考えられます。実際に、この方法を考えている中小企業が多いと思われます。ただし、この方法をとると扶養控除等申告書は企業に保管義務があるため、マイナンバーが記載された書類として厳重な安全管理措置が必要となります。

扶養控除等申告書 安全管理措置への負担軽減のために平成28年以降もマイナンバーを記載しない方法も認める

この扶養控除等申告書については、平成28年分を今年中に提出する場合、法令上もマイナンバーの記載義務はありません。ただし、平成28年1月以降に提出する扶養控除等申告書には、法令上マイナンバーの記載が義務づけられています。

この件に関し、10月28日あらたに公開された国税庁のFAQの「源泉所得税関係に関するFAQ」のQ1-9では、平成28年1月以降に提出する扶養控除等申告書でも、給与支払者(事業者)と従業員とのあいだの合意に基づき、従業員が扶養控除等申告書の余白に「個人番号については給与支払者に提供済みの個人番号と相違ない」旨記載し、給与支払者がすでに提供を受けている従業員などの個人番号を確認し、その旨を扶養控除等申告書に表示すれば個人番号は記載しなくても差し支えないとしています。

つまり、扶養控除等申告書でマイナンバーを集めるのではなく、別の方法でマイナンバーを収集しマイナンバー管理システムに登録しておけば、来年以降も上記の方法により、従業員から提出される扶養控除等申告書にマイナンバーの記載は不要となります。これで、マイナンバーが記載された書類を保管する必要もなくなります。このQ1-9では、(注)として、「この取扱いは、原則として税務署に提出されることなく給与支払者が保管することとされている扶養控除等申告書について、給与支払者の個人番号に係る安全管理措置への対応の負担軽減を図るために、個人番号の記載方法として認めるものである(後略)」としており、政府としても中小企業等の負担軽減を考えて、こうした方法を認めているわけですから、これを利用して紙でのマイナンバー保管は一切行わないようにすることが安全管理面ではより良い方法といえます。

マイナンバーの収集はクラウド活用で

では、どのような方法でマイナンバーを収集し、マイナンバー管理システムに登録するのか? この点は、前回・前々回とマイナンバー管理システムについて検討してきましたが、クラウドのマイナンバー管理システムであれば、従業員本人がスマートフォンなどからマイナンバーを入力、通知カードなどの本人確認書類も画像データとしてアップロードできるので収集・本人確認もシステムで対応できます。マイナンバーが記載された紙をやり取りする必要もなくなるため、できればこうしたシステムを選択したいものです。ただし、中小企業ではリソースも少なく、ITに通じた人材がいないケースもあり、システム選択から導入まで自社で行うことが困難なことも想定されます。そのような場合は、前回提案したようなクラウドでマイナンバー管理が行える税理士に、マイナンバーの取り扱いを委託することも選択肢として考えてみることをお勧めします。

著者略歴

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。