マイナンバーの通知カードの配達がはじまったことがニュースになり、いよいよ全国の住民票を有する個人にマイナンバーの通知カードが11月中には届けられる状況となってきました。個人レベルではマイナンバーが届いて初めて、マイナンバー制度を知ることになる人もいるかと思われますが、中小企業のマイナンバー対策としては、いよいよ待ったなしの状況になってきました。

前回は中小企業のマイナンバー対策としてシステム選びをテーマに、中小企業で利用されることの多い、家電量販店のソフトウェアコーナーなどで販売されている給与計算パッケージソフトのマイナンバー対応を見てきました。

今回は、ITベンダーなどによりマイナンバー管理に特化して開発・提供されているシステムを中心に、システムの対応内容などをみていきましょう。

ITベンダーなどが提供するマイナンバー管理システム

ITベンダーが企業向けに提供するマイナンバー管理システムは、同じベンダーでも大手になると、マイナンバー管理に特化して提供されるものと、従来から提供している給与計算システムのマイナンバー対応として提供されるものとがあります。給与計算システムのマイナンバー対応として提供されるものは、もともとの給与計算システムがオンプレミスのシステムであれば、マイナンバー対応もオンプレミスのシステムとして提供され、そこにある課題は前回みた給与計算のパッケージソフトとほぼ同様の課題がみられます。

では、マイナンバー管理に特化して提供されるシステムはどうなっているのでしょうか。 これらのシステムの多くが「収集・保管サービス」として、従業員などマイナンバーの持ち主である本人から直接マイナンバーを収集し、保管もクラウド上のデータセンターで行うシステムになっています。これらクラウドサービスで提供されるマイナンバー管理システムの特徴を、収集・保管・利用・提出というマイナンバー取り扱いのプロセスに沿って、みてみましょう。

マイナンバーの収集 従業員などが直接入力する仕組みと郵送などで集めたマイナンバーの入力代行

中小企業がマイナンバー対策で、最初に直面する課題がマイナンバーの収集です。従業員数が少なくても、従業員だけでなくその扶養親族の分までマイナンバーを集めなければなりませんし、本人確認も行わなければなりません。

クラウドサービスとして提供されるマイナンバー管理システムでは、従業員が本人および扶養親族のマイナンバーをスマートフォンやパソコンなどから入力できる仕組みを提供しています。その前提として、あらかじめ企業が年末調整システムなどで管理している従業員および扶養親族の情報をCSVなどでクラウドサービスに取り込んでおく、あるいは従業員がみずからWeb上で本人および扶養親族の情報を入力していくことになります。いずれの場合も、各従業員にマイナンバー管理のクラウドサービスにアクセスできるようにID・パスワードが払い出され、従業員はそのID・パスワードを使ってサービスにログインしてマイナンバーを登録することになります。

そして、本人確認のための資料、番号確認ための通知カードなど、本人(身元)確認のための運転免許証などを画像データとしてアップロードできるようになっています。クラウドサービスの特徴としてアクセス権限さえあれば、クラウド上のデータベースに登録されたマイナンバーや本人確認書類の画像データは中小企業の担当者などと共有することができますので、担当者はパソコンの画面上で本人確認することができるようになります。

この仕組みのメリットは、中小企業で担当者が扶養親族も含めた全従業員分のマイナンバーを入力する手間がかからないこと、従業員が中小企業の担当者にマイナンバーを記入した用紙や本人確認資料を受け渡すことによる紛失や漏えいリスクを限りなくゼロにできることです。

ただし、従業員のなかにはみずからマイナンバーの入力ができないケースもあります。そのような場合は、必要な書類を郵送してもらいマイナンバーの入力代行をおこなうサービスもあります。入力代行の場合は通常のサービス利用料金とは別に料金がかかるケースもありますので、そこは要チェックです。

また、このマイナンバーの収集で、支払調書で必要となる個人の支払先も対象となっているかも、要チェックのポイントとなります。支払先も対象となっているシステムでは、従業員の場合と同様に、支払先の個人がマイナンバーを入力し本人確認書類をアップロードできます。また、本人確認書類などの郵送により入力代行にも対応しています。

マイナンバーの保管 クラウド上のデータセンターで保管 「持たない」管理を実現

クラウドサービスとして提供されるマイナンバー管理システムでは、本人の入力であれ、入力代行であれ、入力・登録されたマイナンバーはクラウドのデータセンターに保管されます。一般的にクラウドのデータセンターでは24時間365日の有人監視で入退室を管理するなど、通常の中小企業では実現できないセキュリティ対策が講じられていますので、企業内のパソコンやサーバーなどでマイナンバーを保管する場合に比べて、より安全な環境でマイナンバーを管理することができます。

そして、なによりもマイナンバーを企業内に「持たない」管理ができますので、安全管理措置への対応でも、特定個人情報保護委員会のガイドラインで、マイナンバーデータなどを取り扱う情報システムを管理する区域(管理区域)に対する物理的安全管理措置(ガイドラインでは鍵のかかる部屋で管理し入退室管理を行うこと、盗難防止のためにセキュリティワイヤで固定することなどが例示されています)は、基本マイナンバーの保管という面だけでみていけば必要なくなってきます。

ただし、次項でみるようにマイナンバーを利用する際に、クラウド上のデータベースからマイナンバーを取り出し、企業内のパソコンなどに登録して利用するようなシステムでは、保管から利用のプロセスでマイナンバーを「持たない」ままの運用ではなくなりますので、上記のような管理区域に対する物理的安全管理措置を中小企業の規模に応じて講じておく必要があります。

マイナンバーの利用 CSV出力・API連携など

収集・保管をメインなサービスとするクラウドのマイナンバー管理システムでは、どうしても源泉徴収票や支払調書などの作成でマイナンバーを利用する際、企業が源泉徴収票などの作成に利用しているソフトウェアにマイナンバーを取り込むために、クラウド上のマイナンバー用のデータベースからCSV出力などによりマイナンバーを取り出すことになります。中小企業が利用する源泉徴収票などの作成用のソフトウェアがオンプレミスのシステムであれば、企業内のパソコンに利用時だけは一時的にマイナンバーを登録して使用することになってしまいます。API連携の場合も、マイナンバーを取り込むシステムがオンプレミスのシステムであれば、同じ課題に直面することになります。こうしたケースでは、クラウドのマイナンバー管理システムを利用する場合でも、マイナンバーを利用して源泉徴収票などを作成する際には企業内のパソコンでマイナンバーを一時的に登録して利用することになりますので、それに応じた物理的安全管理措置は講じておかなければなりません。

クラウドのマイナンバー管理システムを提供するITベンダーが、クラウドで源泉徴収票や支払調書などの作成システムを提供している場合は、そのシステムを利用することで、マイナンバーを「持たない」ままマイナンバーの利用まで運用することができます。マイナンバー利用時の紛失や漏えい等のリスクを軽減するために、現状使用している給与計算など源泉徴収票や支払調書の作成に利用しているソフトウェアの切り替えを考えることも、マイナンバー対策の選択肢として考えてみたいところです。

マイナンバーの提出 電子申告・申請まで対応したシステムは数少ない

クラウドのマイナンバー管理システムを利用して、源泉徴収票などを作成する場合、クラウドの給与計算システムとそのまま連携して利用しない限りは、前項でみたようなオンプレミスのシステムとの併用により、紛失や漏えい等のリスクは軽減できません。

そして、マイナンバーを記載した源泉徴収票などの提出においても、紙に出力して書面で提出するシステムが大半ですので、ここでも紛失や漏えいリスクに備えて安全管理措置を講じる必要があります。

クラウドで源泉徴収票や支払調書などの作成システムを提供しているケースでも、企業用に提供されているものでは、紙に出力して書面で提出するシステムが多く、電子申告・申請でマイナンバーを電子のまま提出できるものは少ないのが現状です。クラウドでマイナンバーを「持たない」まま利用から電子申告・申請までできるシステムが、企業にとって見合う料金で利用できるようであれば、最優先の選択肢として考えると良いのではないでしょうか。

クラウドで税理士と連携して電子申告までできるシステムを考える

ITベンダーが提供するクラウドのマイナンバー管理システムは、前回みた給与計算のパッ ケージソフトに比べて、マイナンバーの収集や保管においては、企業の負荷を軽減するシステムといえますが、料金面では割高になることは否めません。また、先にみたとおりマイナンバーの利用や提出では、「持たない」まま利用・提出までできないケースもあり、この点はシステム選択にあたっては要チェックのポイントとなります。

特に提出シーンについては、税務申告を主業務とする税理士向けのシステムでは電子申告まで対応しているシステムがほとんどであり、この点を考慮すると、自社ですべて処理するのではなく、税理士にマイナンバーを記載した源泉徴収票など法定調書の電子申告の代理送信を依頼することも選択肢として考えてはいかがでしょうか。ただし、この場合、税理士が事務所内でマイナンバーを管理するシステムを利用している場合は、従業員などからのマイナンバーの収集、税理士事務所への受け渡しのシーンで、紙やデータで受け渡すことになり紛失や漏えいリスクへの対応などの負荷はどうしてもさけられません。

これに対し、税理士が利用するシステムがクラウドであれば、マイナンバーの管理において、先にみたとおり収集は従業員など本人が入力することで完了しますし、保管では企業にとって「持たない」管理が実現します。そして源泉徴収票など法定調書の作成・提出を税理士に委託することによって、「持たない」まま電子申告での提出まで完結します。このようにクラウドで税理士と連携することができれば、マイナンバーを守るという点ではより安全な仕組みで、かつ税理士というプロのアドバイスも受けながら安心の運用を実現することができるのではないでしょうか。

中小企業のマイナンバー対策としてシステムの選択肢をみてきましたが、自社処理を前提にした場合、前回みた給与計算のパッケージソフトでは安全管理面の負荷を負わざるを得ませんし、パッケージソフトによっては支払調書未対応など足りない機能をどう補うのかといった課題をかかえることになります。また、今回みたクラウドのマイナンバー管理システムも、収集にかかる手間や安全管理面の負荷は軽減できても、マイナンバーの利用や提出での課題がのこります。

であれば、最後にしめした選択肢、クラウドで税理士と連携して収集の手間を省き「持たない」まま利用から電子申告までできるシステムを、税理士と相談して選択することを考えてみてはいかがでしょうか

著者略歴

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。