前回までは、よりセキュアな取り扱いが求められるマイナンバー(個人番号)について、中小企業が担わなければならない役割や、マイナンバーの取り扱いに際して必要となる準備などを詳細にみてきました。

今回は、この連載の最終回として、マイナンバー制度のもう一つの番号である法人番号についてみていくとともに、マイナンバー制度の将来像と中小企業への影響を考えてみます。

法人番号はどのように使われるのか

マイナンバー制度ともよばれる社会保障・税番号制度では、どうしてもマイナンバー=個人番号に焦点があてられた記事が多くなりがちですが、この番号制度では法人に対しても番号があらたに付番されることになっています。

この法人番号は、国の機関、地方公共団体、会社法その他の法令の規定により設立登記した法人などに、国税庁が付番する13桁の番号です。

法人番号も平成27年10月以降、書面により各法人に国税庁長官より通知されます。中小企業などの場合は、登記されている本店または主たる事務所の所在地に通知されることになります。

マイナンバーは特定個人情報として様々な安全管理措置のもと取り扱わなければなりませんが、法人番号はインターネット(法人番号公表サイト)を通じて公表されることが予定されており、その取り扱いは大きく異なっています。

国税庁が開設する法人番号公表サイトでは、法人情報として番号・名称・所在地が公開され、検索機能やデータダウンロード機能、Web-API機能(システムから法人情報直接取得するためのインターフェースの提供)などが提供される予定です。こうして法人番号が公開されることにより、

「わかる」・・・法人番号により企業等法人の名称・所在地がわかる
「つながる」・・・法人番号を軸に企業等法人がつながる
「ひろがる」・・・法人番号を活用したあらたなサービスがひろがる

ことが期待されています。

法人番号がふられることで中小企業にとってどのような影響があるのか、現状の情報では計りかねるところがあります。社会保障や税の分野で、法人名などの記載が必要となる書類では法人番号の記載が求められるようになりますが、行政機関での法人番号を利用した情報連携がはかられていけば、これらの行政手続における届出・申請などの簡素化などのメリットも見えてくると考えられます。一方、民間で法人番号の活用がどのように進み、その結果中小企業にどのような影響がでてくるのかは、実際の運用が始まってみないとわからないというのが正直なところです。

マイナンバー制度の将来像 マイナポータル

政府が示すマイナンバー制度実施の流れ(※)では、平成29年1月から個人ごとのポータルサイト「マイナポータル」が運用開始することとなっています。この「マイナポータル」では、自分のマイナンバーをいつ誰が何のために行政機関などに提供したのかなどの情報が確認できる機能が提供される予定です。

そして、平成29年7月には、政府機関と地方公共団体等も含めた情報連携がスタートし、そこに民間企業等も連携することで、暮らしがもっと便利になるようなワンストップサービスができるように構想されています。

(※)政府公報 リーフレット「いよいよマイナンバー制度が始まります」より

平成27年6月19日の日本経済新聞朝刊一面に、「医療費控除 領収書不要に」という記事が掲載されました。この記事では、医療費控除の申告をする場合に必要となる医療費の領収書がマイナンバーの個人用サイト(マイナポータル)にネット上で通知されることにより、電子申告する際には領収書の内容入力も不要となるとしています。

この記事にあるようなことが実現するためには、健康保険組合が保有している医療費の情報とマイナンバーが結びつく必要があります。こうした構想を推進している政府の「IT総合戦略本部」が公表しているマイナンバー関連の今後の活用についての検討資料を見ると、マイナンバー(個人番号)カードによるワンカード化ということが構想されています。その一環として、マイナンバーカードを健康保険証として利用できるようにすることが検討されており、その実現がベースとなって、日本経済新聞の記事にあるような「医療費控除」の話も現実のものになります。

また、保険会社などからは保険料の支払証明書などもマイナポータルへ電子交付されるような構想もあり、さらに民間企業をまきこんで様々な書類の電子交付が実現しマイナポータルへ集約されていくとなると、現状のような年末調整業務はマイナポータルに交付されるデータで電子的に完結するような社会になっていく可能性もあります。

法人向けにも個人向けのマイナポータルのような、法人番号をキーとした同様のサービスを提供する構想も考えられているようです

マイナンバー制度は、「行政の効率化」、「国民の利便性向上」、「公平・公正な社会の 実現」を目指し、社会的基盤(インフラ)となることが期待されている制度です。

そして、マイナンバー制度がインフラとして機能する社会は、上記でみてきたマイナポータルに代表されるような、インターネット以前の紙ベースで情報が行き交うアナログ社会から、電子データで情報がやりとりされるIT社会への大きな変革ともいえます。

紙から電子中心の本格IT社会への対応こそが中小企業の課題

マイナンバー制度が中小企業に与える影響をみてきたこのシリーズでは、前回まで直近で必要となるマイナンバーへの対応を中心にみてきました。正直なところ、「負担ばかりが増えて・・・」というのが、当面の対応を考えたときの、中小企業や中小企業から委託されてマイナンバーを取り扱う税理士・社会保険労務士の方々の感想ではないでしょうか。 しかし、前項のようにマイナンバー制度の将来像まで見とおして考えると、紙から電子データが主となる本格的なIT社会の到来を見すえた対応を、中小企業も課題として見据えておく必要があります。

これから行うマイナンバーへの対応も、そこに向かう第一歩として、先進のITを上手に活用して、より安全な対応とすることが大事です。前回、税理士事務所などにマイナンバーの取り扱いを委託する場合の、より安全な対応としてクラウドシステムの活用を検討しました。中小企業および中小企業の委託を受けてマイナンバーを取り扱う税理士事務所などの方々には、マイナンバー対応はもちろん自らの主業務に、こうした先進のITを積極的に取り入れていくことでマイナンバー制度の将来に備えていくことをご提案いたします。

著者略歴

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。