【連載】

中小企業にとってのマイナンバー制度とは?

3 すべての中小企業が「個人番号関係事務実施者」へ

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「個人番号関係事務実施者」とは?

前回は、マイナンバー制度とはどのような制度なのか、その概要と今後のスケジュールを整理してみてきました。マイナンバー制度のなかで中小企業は「個人番号関係事務実施者」という役割をおうことになります。今回は「個人番号関係事務」とはどのような事務なのか、それを行う「個人番号関係事務実施者」に求められる役割などをみていきます。

個人番号関係事務実施者とは

マイナンバー制度では、1人でも従業員を雇用している事業者であれば、自分以外のマイナンバーを取り扱うことになります。

特定個人情報保護委員会の「特定個人情報の適正な取扱いに関するガイドライン(事業者編)」(以下「ガイドライン」)では、従業員を有する事業者、中小企業が、他人のマイナンバーを取り扱うことを、個人番号関係事務と呼んでいます。

具体的には、従業員などのマイナンバーを源泉徴収票や健康保険・厚生年金保険被保険者資格取得届などの書類に記載して、行政機関や健康保険組合などに提出する事務が、個人番号関係事務に該当します。そして、この事務を行う事業者や担当者および事業者の委託を受けて個人番号関係事務を行うものを、個人番号関係事務実施者と呼んでいます。

小規模な事業者であっても、法で定められた社会保障や税などの手続きで、従業員などのマイナンバーを取り扱うことになりますので、すべての中小企業が個人番号関係事務実施者となります。小規模な事業者は、個人情報保護法で定める義務の対象外ですが、番号法で定められる義務は規模にかかわらず、すべての中小企業に適用されることになります。

個人番号関係事務を適正に実施するために知っておくべきこと

個人番号関係事務を適正に実施するためには、番号法や「ガイドライン」で示されている「してはならないこと」「しなければならないこと」をきちんと確認しておくことです。 この回では、「してはならないこと」を中心に知っておくべきことを整理してみましょう。

マイナンバーの利用制限

マイナンバーの利用範囲は、法律に規定された社会保障、税および災害対策に関する事務に限定されています。一般の中小企業の場合は、社会保障および税の分野に限定されていると考えれば良いでしょう。

個人情報保護法では本人の同意があれば、他の用途に個人情報を利用することができましたが、マイナンバーはたとえ本人の同意があっても、社会保障および税の事務以外で利用することはできません。たとえば、社員番号にマイナンバーを流用することはできません。

マイナンバーの提供の求めの制限、収集制限

利用に制限がありますので、従業員などにマイナンバーの提供を求め、収集する場合も、社会保障および税の事務を利用目的とする範囲でしか、提供を求めることおよび収集することはできません。

前項の例のように、社員管理のためにマイナンバーの提供を求め、収集することはできません。

マイナンバーの提供制限

中小企業がマイナンバーを提供できるのは、社会保障および税に関する事務のために従業員などのマイナンバーを行政機関や健康保険組合などに提供する場合に限られます。

たとえば、系列会社間で従業員が出向などで移動した場合に、系列会社間でマイナンバーを提供することはできません。この場合、出向先の会社は改めて本人にマイナンバーの提供を求め、収集しなければなりません。

マイナンバーの保管(廃棄)制限

マイナンバーは社会保障および税に関する事務を処理するために収集、保管するわけですから、それらの事務を行う必要がある場合に限り、保管し続けることができます。継続的な雇用契約がある場合、従業員などから収集したマイナンバーを源泉徴収や健康保険・厚生年金保険などの関連事務で翌年以降も継続的に利用することが予定されますので、継続的に保管することができます。

ただし、講演や原稿などを依頼し、支払調書を作成するために、講演者や原稿の執筆者から提供を受けたマイナンバーは、翌年以降同じ講演者や執筆者に依頼する予定がない場合は、継続的に保管することはできません。こうしたケースでは、必要がなくなったマイナンバーをできるだけ速やかに廃棄しなければなりません。

番号法の罰則規定

「ガイドライン」では、「しなければならない」および「してはならない」と記述されている事項について従わなかった場合、法令違反と判断される可能性があるとしています。法令違反と判断されると、罰則が科される可能性もでてきます。

番号法では、個人情報保護法よりも罰則の種類が多く、法定刑も重くなっているので注意が必要です。

番号法で規定されている罰則には、国の行政機関や地方公共団体の職員などを対象にしているものと、民間事業者や個人を対象としているものがあります。

下の表は民間事業者や個人を対象としている罰則規定と対応する法定刑を整理したものです。

主体 行為 法定刑
個人番号利用事務、個人番号関係事務などに従事する者や従事していた者 正当な理由なく、業務で取り扱う個人の秘密が記録された特定個人情報ファイルを提供 4年以下の懲役 または200万円以下の罰金(併科されることもある)
業務に関して知り得たマイナンバーを自己や第三者の不正な利益を図る目的で提供し、または盗用 3年以下の懲役 または 150万円以下の罰金(併科されることもある)
主体の限定なし 人を欺き、暴行を加え、または脅迫することや財物の窃取、施設への侵入、不正アクセス行為などによりマイナンバーを取得 3年以下の懲役 または 150万円以下の罰金
偽りその他不正の手段により通知カード又は個人番号カードの交付を受けること 6か月以下の懲役 または 50万円以下の罰金
特定個人情報の取扱いに関して法令違反のあった者 特定個人情報保護委員会の命令に違反 2年以下の懲役 または 50万円以下の罰金
特定個人情報保護委員会から報告や資料提出の求め、質問、立入検査を受けた者 虚偽の報告、虚偽の資料提出、答弁や検査の拒否、検査妨害など 1年以下の懲役 または 50万円以下の罰金

(内閣官房 よくある質問 (FAQ)より)

この中でも最も重い法定刑のものは、個人番号利用事務、個人番号関係事務などに従事する者や従事していた者が、正当な理由なく、業務で取り扱う個人の秘密が記録された特定個人情報ファイル(※)を提供するケースで、4年以下の懲役または200万円以下の罰金となっています。

また、前項で取り上げた制限事項を守らず特定個人情報保護委員会の命令を受け、それに違反したケースでも2年以下の懲役または50万円以下の罰金となっています。

個人番号関係事務実施者となるすべての中小企業では、限られたリソースのなかでマイナンバーを取り扱うことになりますが、罰則の適用を受けるような事態を避けるためにも、マイナンバー制度への対応をしっかり準備していかなければなりません。

特定個人情報ファイル:個人番号をその内容に含む個人情報ファイル(個人情報データベースなど)

著者略歴

中尾 健一(なかおけんいち)
アカウンティング・サース・ジャパン株式会社 取締役
1982年、日本デジタル研究所 (JDL) 入社。30年以上にわたって日本の会計事務所のコンピュータ化をソフトウェアの観点から支えてきた。2009年、税理士向けクラウド税務・会計・給与システム「A-SaaS(エーサース)」を企画・開発・運営するアカウンティング・サース・ジャパンに創業メンバーとして参画、取締役に就任。マイナンバーエバンジェリストとして、マイナンバー制度が中小企業に与える影響を解説する。

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インデックス

連載目次
第69回 マイナポータルおよびマイナンバー制度情報連携 試行運用開始
第68回 法人税等の電子申告義務化に向けた基本計画
第67回 2017年 「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」をみる(3)
第66回 2017年 「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」をみる(2)
第65回 2017年「世界最先端IT国家創造宣言・官民データ活用推進基本計画」をみる(1)
第64回 特別徴収税額通知書 “官”からマイナンバーがやってきた
第63回 デジタルファーストを目指す政府 法人税電子申告義務化へ
第62回 電子申告とマイナンバー制度
第61回 「特別徴収税額決定通知書」へマイナンバーが記載され通知されることの影響
第60回 マイナポータル・行政機関間での情報連携 本格運用は10月以降へ
第59回 1月~3月 マイナンバーの本格利用の時期を終えて
第58回 政府が進める「デジタルファースト」への流れとマイナンバー制度
第57回 マイナンバー本格利用 次は所得税確定申告
第56回 マイナポータル 2017年7月本格スタートのサービス概要
第55回 2017年におけるマイナンバー制度の動き
第54回 2017年におけるマイナンバー利用の動き
第53回 年末調整直前 今からでも間に合うマイナンバー対策 その4
第52回 年末調整直前 今からでも間に合うマイナンバー対策 その3
第51回 年末調整直前 今からでも間に合うマイナンバー対策 その2
第50回 年末調整直前、今からでも間に合うマイナンバー対策 その1
第49回 マイナンバーカード・マイナポータルの活用促進をめぐる総務省の動き その2
第48回 マイナンバーカード・マイナポータルの活用促進をめぐる総務省の動き その1
第47回 マイナンバー制度、今後のスケジュールを再整理する
第46回 なかなか進まない支払先からのマイナンバー収集
第45回 経済産業省版法人ポータル(β版)など法人番号をめぐる動き
第44回 行政側のマイナンバー制度へのシステム対応 現状の動きを確認する
第43回 中小企業・小規模事業者からマイナンバー取り扱いの委託を受ける税理士の現状
第42回 マイナンバー対応 準備を順調に進めている企業と進まない企業
第41回 世界最先端IT国家創造宣言とマイナンバー制度
第40回 マイナンバーが記録されているパソコンは修理できない?
第39回 平成28年度税制改正でマイナンバーの取り扱いはどう変わったのか?
第38回 動き出した企業版マイナンバー(法人番号)の利用が与える影響
第37回 マイナンバーカードは民間活用でどのようなメリットがもたらされるのか
第36回 多くの企業がメリットを感じない、マイナンバー制度の課題を考える
第35回 新入社員を迎える季節 継続的にマイナンバーを管理・運用できる体制作りを
第34回 中小企業のマイナンバー対応 システム選択? 外部委託? 現状の傾向を探る(2)
第33回 中小企業のマイナンバー対応 システム選択? 外部委託? 現状の傾向を探る(1)
第32回 あいつぐマイナンバー制度のトラブル 中小企業への影響を考える
第31回 個人事業主のマイナンバー利用 今後のスケジュールを整理する
第30回 マイナンバー利用開始1カ月 マイナンバー利用の課題を考える
第29回 マイナンバーの取り扱い 中小企業から委託を受ける税理士などの最新動向
第28回 マイナンバーとマイナンバーカードの役割を考える
第27回 マイナンバー利用開始 すぐマイナンバーの記載が必要な書類・時期を再整理
第26回 平成27年分年末調整業務進行中 来年を見据えて準備しておきたいこと
第25回 マイナンバーの収集、今年中に収集するか? 来年に入って収集するか?
第24回 マイナンバーの通知と中小企業の取り組み 最新状況
第23回 中小企業向けマイナンバー商戦 現状整理
第22回 マイナンバー制度への対応を中小企業の本格IT化のきっかけに
第21回 法人番号の通知・公表スタート 中小企業に与える影響を考える
第20回 マイナンバー通知本格化 いよいよ本番 中小企業のマイナンバー対策
第19回 中小企業のマイナンバー対策 システム選びが成否をにぎる? (その2)
第18回 中小企業のマイナンバー対策 システム選びが成否をにぎる? (その1)
第17回 マイナンバー利用開始 間近に迫る 今中小企業は何をすべきか?
第16回 マイナンバー通知カードの送付始まる 待ったなしで始まるマイナンバー制度
第15回 税理士などにマイナンバーの取り扱いを委託する場合のシステム連携の課題
第14回 マイナンバーの保管・廃棄 システムで異なる安全管理措置
第13回 マイナンバーの利用・提出 よりセキュアに対応するためにほしい機能
第12回 マイナンバーの収集 システムで異なる業務運用
第11回 IT活用で対応するマイナンバー対策 システム比較
第10回 マイナンバー対策を契機にIT活用を見直す
第9回 法人番号とマイナンバー制度の将来像
第8回 マイナンバーの取り扱いを税理士事務所などに委託する場合
第7回 マイナンバーの保管、利用シーンで求められる安全管理
第6回 マイナンバーの収集で注意すべきこと
第5回 マイナンバー制度 中小企業に与える影響
第4回 中小企業が「個人番号関係事務実施者」として行う実務内容と必要な準備
第3回 すべての中小企業が「個人番号関係事務実施者」へ
第2回 マイナンバー制度の概要と今後のスケジュール
第1回 マイナンバー制度で業務のここが変わる!

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