フランスのスポーツカーブランド「アルピーヌ」。クルマが好きな人なら、一度ならずその名を聞いたことがあるはず。そのアルピーヌの伝説的なモデル「A110」が復活し、ルノー・ジャポンが日本で「アルピーヌ」ブランドモデルの輸入販売事業を行うことも正式に発表された。この機会に、今回はアルピーヌの歴史を振り返ってみよう。

数多く誕生したチューニングカーブランドの中でも稀有だったアルピーヌ

現代に蘇ったアルピーヌ「A110」

アルピーヌは1956年に誕生した。レーシングドライバーで、ルノーのディーラーの経営者でもあるジャン・レデレ氏が、ルノー・4CVをベースに独自のスポーツカー「A106」を作り上げ、販売したのが始まりだった。一介の自動車販売店の経営者が自動車メーカーを設立したようなものだが、こういったことは決して突飛なことではない。

1960~1970年代には、既存の大手自動車メーカーのモデルを独自にチューニングし、世界に名を馳せたハイパフォーマンスカーのブランドが相次いで生まれている。ドイツではメルセデス・ベンツに対してAMGやブラバス、ロリンザがあり、BMWにはアルピナがある。ポルシェにはルーフだ(ルーフだけは設立が古く、1939年となっている)。また、イタリアではフィアット車をチューニングしたアバルトが有名だ。

これらの中には、チューニングパーツの販売をメインとしていたブランドもあれば、エンジン以外を独自開発してオリジナルモデルを作り上げていたブランドもあった。ただ、アルピーヌのように設立の初期からきわめて独自性の高いオリジナルモデルを開発し、そして成功を収めたブランドは稀有だといえる。「A106」を発売したアルピーヌは後継モデル「A108」、そして伝説の名車「A110」を発売。さらに「A310」「GTA」「A610」と継続的に新型モデルを発売し、40年にわたって自動車メーカーとしての実績を積み上げた。

ルノーがアルピーヌ復活を決意するも、事態は混迷

前述したチューニングカーブランドのうち、その独立性を保って存続しているブランドはあまり多くない。チューニングベースを供給する自動車メーカーとの関係を深め、なんらかの形で取り込まれていくブランドが多いのだ。AMG然り、アバルト然り。技術があり、ブランド価値が高いほど自動車メーカーはそれを欲しがるから、チューニングカーブランドは自動車メーカーに取り込まれることが名誉であるともいえるかもしれない。

アルピーヌもその道をたどったといえる。オリジナルモデルは1991年に発売した「A610」が最後で、1995年にその生産を終えると、アルピーヌはその工場でルノーのスポーツモデルの生産を担当。同時にアルピーヌブランドは一旦途絶えることになった。

しかし、アルピーヌの人気は根強いものがあり、ルノーでは2007年にアルピーヌブランドを復活させると正式に発表している。ところが、アルピーヌの復活は順調ではなかった。復活の発表があってから5年も経過した2012年に、ようやくコンセプトモデル「A110-50」が発表された。

「A110-50」は、「A110」の誕生50周年を記念したモデルと説明され、順当に考えればこのモデルが市販化され、めでたくアルピーヌ復活となるはずだった。しかし「A110-50」発表の数カ月後、意外な発表がなされる。アルピーヌの復活にあたり、英国のケーターハムと提携するというのだ。

ちなみに、「A110-50」は実質的に「メガーヌ・トロフィー」ベースのチューニングカーにすぎず、新たに開発した新型モデルとは言いがたいものだった。このモデルはついに発売されることなく、さらにケーターハムとの提携も2年としないうちに解消された。この時点で、アルピーヌの復活が迷走していることは否定しようがなかったといえる。

ルノー単独でアルピーヌの復活が実現

2016年、ルノーはコンセプトモデル「アルピーヌ・ビジョン」を発表した。そのスタイリングは明らかに「A110」を意識したもので、今度こそ、アルピーヌ復活のために相応の熱意やコストを費やして開発されたモデルといえるものだった。しかも、発表と同時に市販化、さらには日本での販売も発表された。今年3月のジュネーブモーターショーにて、「ビジョン」はコンセプトモデルから市販バージョンへと進化し、その名も「A110」と変えて発表された。

そして今回、ルノーの日本法人であるルノー・ジャポンから、アルピーヌのブランドモデル販売の正式な発表がなされたのだ。ルノーがアルピーヌ復活を発表してから実に10年を経て、ようやく新型「A110」の日本上陸がほぼ確実なものとなった。

ライトウェイトの血統は受け継がれた

旧「A110」はルノー「8」(ユイット)をベースに作られたライトウェイトスポーツで、1963年に発売された。「8」はRRレイアウト、つまり、あのポルシェ「911」と同じリアエンジン・リアドライブを採用するセダンで、1リットル前後の4気筒エンジンを搭載する。

通常、チューニングカーブランドが発売するモデルは、オリジナルモデルとして販売される場合であっても、ベースモデルの面影を色濃く残しているものだ。しかしアルピーヌは例外で、ベースモデルの「8」が角ばった4ドアセダンであるのに対し、「A110」は流線型の2ドアクーペだ。そのボディはバックボーンタイプのシャシーにFRPのボディを被せたもの。「A110」はエンジンとRRレイアウトをベースモデルから受け継ぐが、それ以外は完全にオリジナルのモデルといえる。

RRレイアウトは、タイヤやサスペンションが進化した現在なら、改めて採用するメリットはほとんどない。しかし1960年代では、シンプルかつ軽量でありながら、強大なトラクションを実現できる合理的なレイアウトだった。「A110」は700~800kg台という軽量を武器にラリーで大活躍し、名車としての評価を不動のものとしている。

50年ぶりに復活する新「A110」はRRではなくミッドシップレイアウトを採用。ボディも大きくなり、旧「A110」の全長3,850mm・全幅1,450mmに対し、新「A110」は全長4,178mm、全幅はなんと1,798mmもある。サイズとしてはとてもコンパクトとはいえない。

しかし軽量という特徴は受け継がれた。新「A110」の乾燥重量は1,080kgにすぎない。高い衝突安全性が必須となっている現代で、この車重は驚異的といえる。ちなみに旧「A110」が開発された1960年代は、衝突安全性という概念そのものがなかった。

エンジンは252PSを発揮する1.8リットル4気筒ターボエンジンを搭載する。同じく4気筒ターボエンジンを搭載するミッドシップスポーツカーであるポルシェ「718 ボクスター」と比較すると、エンジンパワーは300PSと「718 ボクスター」が勝るものの、その車重は1,410kg(MT・乾燥重量ではなく車両重量)もある。

ルノーがライバルとして意識しているアルファロメオ「4C」との比較では、「4C」はエンジンパワーが240PS、乾燥重量が約895kg。新「A110」は「4C」より重いのだが、「4C」の車重は日本仕様の車両重量では1,050kgとなっており、仕様によって違いが大きいようだ。それでも「4C」のほうが軽いことは間違いないが、「A110」は後発だけに、総合的な実力は互角以上のレベルに到達しているはず。その走りを確認できる日は近い。