名車「モンキー」が50年の歴史に幕

オートバイにまったく興味のない人でも、その名前だけは知っていたと思われるホンダ「モンキー」。この歴史的な名車が、ついに生産を終了すると発表された。厳しくなる排気ガス規制の影響だが、当然ながら惜しむ声は大きい。

ホンダ「モンキー・50周年アニバーサリー」

「モンキー」は1967年に初期型の「Z50M」が発売され、今年で50周年となる。これまで幾度となくモデルチェンジや改良を繰り返してきたが、コンパクトでシンプルな車体、カブにも搭載される空冷単気筒SOHCエンジンは不変。現在もカスタムベースなどの用途で人気があり、古いモデルはコレクターズアイテムとして驚くほどの高値で取引される。

そんな「モンキー」の生産終了は、注目度の高い東京モーターサイクルショーのプレスカンファレンスで発表された。ホンダモーターサイクルジャパン代表取締役社長の加藤千明氏は、「モンキー」のみならず、原付バイクの現状と今後について、少し不自然と思えるほどの熱弁をふるっている。

いわく「各社も国内モデルについてはかなり生産の打ち切りを進めている」。いわく「2021年には、さらに厳しい規制がまた来る。やはり50ccというものの限界がある」。いわく「2030年になったとき、原付一種が内燃機関を主体としたもので存続できるかというと、私は非常に厳しいと思う」。

要するに、このままでは原付バイクは存続できない状況であり、それはメーカーの努力で打破できるレベルのものではない、という主張だ。こうした原付バイクの現状は、知っている人ならとうに常識となっていることなのだが、注目が集まるカンファレンスであえて訴えた意図はどこにあるのか。

125ccモデルが多数登場したモーターサイクルショー

ホンダが厳しい現状を訴えたのは、原付の中でも「原付一種」と呼ばれる、排気量50cc未満のバイクだ。その上の「原付二種」つまり125cc未満のモデルには、また別の動きがあった。今年のモーターサイクルショーで原付二種の新しいモデルが多数登場したのだ。

最も注目すべきは、スズキの「GSX-S125」だろう。最新のストリートファイター(レーサーレプリカをよりストリート向けとしたバイク)のラインアップである「GSX-S」シリーズの末弟となるわけだが、そのエンジンは「GSX-R600」のエンジンの1気筒分を参考に新開発されたもので、非常にハイパワー。車重もクラス最軽量になるとみられている。発売の正式な発表はまだないが、発売されればクラス最速マシンとなることは間違いない。

スズキ「GSX-S125」

カワサキ「Z125 PRO」

カワサキからは、発売されたばかりのニューモデル「Z125 PRO」のスペシャルエディションが展示された。このモデルもストリートファイターにカテゴライズされるもので、実用性をあえて無視したようなアグレッシブなスタイリングが特徴だ。ヤマハからは発売間近のスクーターのニューモデル「アクシスZ」が展示された。ホンダから新しい原付二種の発表はなかったが、市販モデルには「グロム」「CRF125F」「PSX」「リード125」「ディオ110」など、4メーカー随一のラインアップをそろえている。

このように原付二種のモデルが多数登場したのは、もちろんこのクラスの人気が高まっているからに他ならない。そして、これはちょっとした事件といえる。125ccのバイクは海外では非常に人気が高いが、日本では長年にわたって「無風地帯」と呼ばれたクラスだ。4メーカーがどのようなモデルを出してもまったく売れないため、ロードスポーツモデルは国内市場で絶滅したほどである。

状況が変わったのはこの数年。スズキやヤマハのアジア向けモデルが販売店によって輸入販売されるようになり、それらのモデルの人気がいずれも高いことから、4メーカーがニューモデルを投入することとなった。これまで数十年にわたってまったく人気がなかったのに、どうしたことだろう。

原付一種ではパワー不足 - 通勤や配達の主役は原付二種に

原付二種の人気が高まった理由はいろいろ考えられるが、原付一種の衰退と強い関連があることは間違いない。原付一種はかつて2ストモデルが大半を占めたが、排気ガス規制の強化で2ストモデルは姿を消した。これはすべての排気量で同様なのだが、他の排気量では4ストモデルがあるから大きな問題にならなかった。しかし原付一種だけは話が違う。排気ガス規制に対応した4ストエンジンでは、非常に非力にならざるをえないのだ。

もちろん、現在市販されている原付一種のモデルは、いずれも4ストエンジンでありながら通常の使用では問題ない走りを実現している。とはいえ、かつての2ストモデルのパワフルな走りとは比べるべくもない。新聞配達などの重い荷物を積む用途や、坂道の多い地域では、あまりに非力すぎるとの声も出ている。

それなのに、排気ガス規制はさらに厳しくなる。その結果、販売を取りやめるモデルが多数あることは、冒頭で紹介した加藤千明氏の言葉通りだ。

こうしたことから、原付二種に乗り換える人が増えている。自動車で通勤している人なら、通勤中のバイクにピンク色のナンバープレートが増えたことを実感しているだろう。原付二種は原付一種ほどではないにしても、十分に税金などの維持費が安く、経済性は非常に高い。それでいて、最高速度は自動車と同じ、2段階右折も必要ない。高速道路こそ走れないが、魅力の大きい乗り物なのだ。

免許制度の改善が急務に

では、それほど魅力の多い原付二種が、長年にわたって日本で不人気だったのはなぜか。原付一種に2ストモデルがあった頃は、日本の道路事情では原付一種で十分だったから、ということがひとつ。もうひとつは免許取得のハードルが非常に高いためだ。

いま、運転免許をなにも持っていない人が免許を取得する場合、原付免許ならペーパーテストを受けるだけで取得でき、費用もきわめて安い。しかし、原付二種を運転するのに必要な小型二輪免許を取得するには、自動車学校で学科26時間と実技12時間(AT限定は9時間)をこなさなければならない。費用は20万円近くもかかる(試験場で一発合格をめざす方法もあるにはあるが、一般的ではない)。

普通免許所持者なら、学科は1時間で済むし、実技も少し短くなるから、あらたに小型二輪免許を取得して原付二種を購入する人が増えてはいる。しかし若い人を中心に、小型二輪免許を取得したくても高額すぎて困っている人もいる。これは「趣味で乗りたいバイクに乗れない」という娯楽の話ではない。いまの日本では多くはないのだろうが、生活の足として、仕事の道具として、原付を必要としている人は確実にいるのだ。

ちょっと大げさな言い方になるが、原付一種は日本の国民にとって、最も手軽な移動手段として大きな役割を果たしてきたし、いまも果たしている。思えばホンダの始まりも、本田宗一郎氏が戦後の混乱期に遠くまで食料を買い出しに行く人のために、自転車にエンジンを取り付けた原付バイクを製造、販売したことだった。その原付一種が、まるごと消えようとしている。

その代替となるべき原付二種は、免許取得が難しい。これでは、生活の足を奪われる「原付難民」が発生してしまう。本来であれば、原付一種の衰退が決定的になった時点で、メーカーと国が協力して手を打つ必要があったのではないだろうか。

解決策として考えられるのは、免許制度の改革だ。ここで「普通免許で原付二種に乗れるようになる」といった話がインターネットを中心に広まっているのを思い出した人もいるだろう。これはデマに近いもので、そのような動きは一切ない。ただし、小型二輪免許の取得をいまより容易にする方向で改善する動きはあり、いちおう前進もしているようだ。小型二輪免許に限らず、日本では運転免許の取得のハードルが高いのは周知の事実。それを是正する意味でも、小型二輪免許の取得を容易にするよう、改善を望みたい。