ここしばらく、自動車メーカーの提携や協業のニュースが相次いだ。ダイハツを完全子会社化したトヨタが、今度はスズキと技術開発などの分野で協業を検討すると発表。ホンダは二輪業界の話ではあるが、ヤマハ発動機と原付一種の共同開発などに向けた検討を開始すると発表した。そして経営危機に陥っている三菱自動車は、日産の傘下に入ることが報じられ、大きなニュースとなった。

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これらのニュースは提携や協業の質がどれも違うし、それぞれ背景や事情もまったく異なる。しかし、わずかの間にこういったニュースが集中したので、やはり日本の自動車業界は急速に再編されていくのかという印象を多くの人が抱いたことだろう。

それぞれに異なる3つの提携や協業には、ひとつだけ共通点がある。それは、敵対関係とまではいえなくとも、決して蜜月関係ではないメーカーが手を結ぶ意外性が感じられることだ。トヨタとスズキは、直接的にはライバルでも敵対関係でもないが、トヨタはダイハツを傘下に収めたばかり。そのダイハツとスズキは長きにわたって日本の軽自動車でトップシェアを争い合っている最大のライバルだ。

ホンダとヤマハ発動機は原付一種領域での協業に向けた業務提携の検討を開始

ホンダとヤマハの協業のニュースは、原付一種のみという、市場規模からいえば決して大きくない話であるにもかかわらず、非常に大きく報じられた。両社が二輪の分野でライバルであったことに加え、敵対していた過去の因縁があるからだ。

1980年前後にスクーターブームが巻き起こったとき、ホンダとヤマハは後に「HY戦争」と呼ばれる激しいシェア争いを展開。行きすぎた争いは販売価格の下落、リベートの横行などさまざまな弊害を生み、消耗戦となっただけでなく、原付市場そのものを衰退させる結果さえ招いた。もちろん、これはすでに30年以上も前の昔話にすぎないが、現在でも両社が二輪業界の双璧であり、ライバル関係であることは変わりない。

日産が三菱自動車を傘下に収めた事情は他の例と違いすぎるし、もともと業務提携を行っていたから蜜月関係だったともいえるだろう。しかし、日産は三菱の起こした燃費偽装問題で多大な損害を被り、いわば裏切られた形。絶縁状をたたきつけてもおかしくない状況の中での買収劇だったといえる。

企業同士の提携や買収は、もはや「結婚」とは呼べなくなった

自動車業界では、これまでにもさまざまな再編の波があった。1998年にはダイムラー・ベンツ(現在はダイムラー)がクライスラーを買収して巨大自動車メーカー、ダイムラー・クライスラーが誕生した。これを発端に、年間生産台数が400万台以下のメーカーは生き残れないとする考えが浸透し、世界中の自動車メーカーが「400万台クラブ」の一員になろうと合併を模索した。

それ以前・以降にも自動車業界の提携や買収、合併はいくつも例があり、日本メーカーが関わっているものだけでも、いすゞとGM、スズキとGM、マツダとフォード、三菱とクライスラー、ホンダとローバー、それに忘れてはいけない日産とルノーの例がある。

これらは企業同士の結婚に例えられることが多い。合併するときは「相思相愛」などと報道されるし、ダイムラー・クライスラーが解体されるとき、「不幸な結婚の終焉」と報じられたことは有名だ。かつて、自動車メーカー同士が手を取り合うスタイルとしては、2つの企業が1つに統合される合併や買収(「M&A」という言い方が流行したりもした)が多かったことから、結婚に例えるのは自然な比喩表現であったといえる。

しかし、最近報じられているケースでは、前述の通り蜜月関係ではなく、ライバル同士が突然手を結んだことで大きなニュースとなった。合併や提携のスタイルも時代とともに変化してきたということか。いや、的確にいえば、よりシビアな判断がなされるようになってきたといえるかもしれない。

いま、自動車業界の状況はきわめて厳しい。環境技術や自動運転など莫大な資金がかかる技術開発が必須とされる一方で、市場規模は従来のような右肩上がりが約束されているわけではないのだ。国内の市場に限れば、すでに縮小に転じているとの見方もある。このような状況の中では、「生き残るために必要なら、敵と手を結ぶこともいとわない」というシビアな姿勢が必要だ。

もはや企業同士の合併や提携を「結婚」などと平和的に表現するのは適当ではなくなった。代わって「Win-winの提携」といった表現が使われるようになったが、互いにとってはっきりしたメリットがあるかどうかが問題ということだろう。

もうひとつ、合併や提携のスタイルがかつてより多様化していることも最近の傾向だ。かつては自動車メーカー同士が一心同体となるのか、ならないのかという二者択一のようなところがあった。しかし現在では、日産と三菱自動車のように買収して傘下に収めるといったスタイルもあれば、ホンダとヤマハのように限定的な分野でのみ提携することも頻繁に行われている。

また、同時に複数の提携を結ぶことも、かつてはあまりなかったが、現在では普通だ。スズキとの提携を検討していると発表したトヨタは、同時にスバルやマツダとも関係を深めているし、かと思えばBMWとスポーツカーを共同開発している。三菱自動車を買収した日産はルノー・日産アライアンスの一員だが、メルセデス・ベンツと提携し、メルセデス・ベンツ製エンジンを「スカイライン」に積んだりもしている。

国内自動車メーカーの大再編はあるのか

スズキとトヨタも業務提携に向けた検討を開始した

トヨタがスズキとの提携検討を発表したことをきっかけに、トヨタを軸とした国内自動車メーカーの再編が活性化するとの見方が有力になっている。その背景には、そもそも日本には自動車メーカーが多すぎる現状がある。少量生産のメーカーを除外した乗用車のメーカーに限っても、トヨタ、ホンダ、日産、三菱、スバル、マツダ、スズキ、ダイハツと8社もの自動車メーカーが日本にはあるのだ。

もちろん、こんな国は他にあまりない。メーカーが多ければ、互いに競い合って技術開発が進むメリットがあるが、人材や生産拠点などのリソースが分散して非効率になる面もある。日本車が世界を席巻していた頃は良かったが、厳しい状況となっている現在では、メーカー集約によるスケールメリットが必要というわけだ。

しかし、実際に再編が起きるかどうかはわからない。軸になるとされるトヨタにしても、グループを急速に拡大しようとしているわけではない。たしかにダイハツは完全子会社化したが、スバルとの関係は資本提携であって傘下に収めたわけではないし、マツダとの関係もそれほど強いつながりではない。スズキとの話にしても、環境分野での協業だ。となると、日本で再編が起きるとしても、そのスタイルは吸収合併やグループ化よりもはるかにゆるやかなつながりになるのかもしれない。