いまや日産の看板モデルとなった「セレナ」。その新型モデルに自動運転技術「プロパイロット」が搭載されることが話題となった。このところ、「エコ」「安全」と並んで自動車開発のキーワードとなっている「自動運転」。日本のメーカーでこのワードを大々的に掲げるのは初めてだから、注目を集めるのも当然だろう。

新技術「プロパイロット」を搭載した新型「セレナ」は8月下旬発売予定

ただし、「プロパイロット」は「自動運転技術」であって「自動運転」ではない。「自動運転技術」という言葉の意味するところは、どうやら「自動運転につながる技術を利用して運転支援を行う」ということのようだ。「プロパイロット」はハンドルに手を添えていなければいけないなどの制限はあるものの、アクセル、ブレーキ、ステアリングを車両が自動制御して走行する。注目に値する機能であることは間違いない。

同様の機能は他メーカーでもすでに実用化されているが、「プロパイロット」は渋滞時の停止、発進から時速100kmまでカバーする。これは日本初の快挙となる。メルセデス・ベンツなど海外の高級車ブランドも同様の機能を提供しているが、価格がまったく異なる。「プロパイロット」はたった1台のカメラによる撮影と画像解析によって高度な機能を実現しており、低コストなのが特徴だ。これによって、従来は高級車の特権だった高度な運転支援機能が、低価格モデルに普及するきっかけになるかもしれない。

たとえば、自動車の安全性を大きく向上させる自動ブレーキは長い間、高級車だけに装着できる高価なオプション装備だった。それを日本メーカーでは富士重工業(スバル)が「アイサイト」として低価格に提供し、海外メーカーではフォルクスワーゲンが同社で最もコンパクトなモデルである「up!」に標準装備したことで一気に普及した。「プロパイロット」も同様に、普及の起爆剤になる可能性を秘めている。

各メーカーの自動運転への取組みを振り返る

日産は「"やっちゃえ"NISSAN」のキャッチコピーが耳に残るテレビCMで、自動運転への取組みをアピールしているが、これを見てやや唐突に感じた人もいるかもしれない。それまで、あまり自動運転に熱心なようには見えなかったからだ。しかし、振り返ってみるとそうでもない。何を隠そう、「プロパイロット」の中核的な機能であるレーンキープサポートを世界で初めて実用化したのは日産なのだ。

時は2001年、車種は「シーマ」だった。そのシステムもカメラで道路上の車線を認識し、ステアリングを自動制御するもので、「プロパイロット」と基本的に同じといえる。さらにこの「シーマ」は、速度を自動調整するアダプティブクルーズコントロールも搭載していた。「プロパイロット」の原型がすでにできあがっていたといっていいだろう。

この「シーマ」と並んで自動運転を先取りしたような機能を実現していたのが、トヨタ「プリウス」の2代目モデルだ。ハンドル操作を自動化して、車庫入れや縦列駐車をクルマ任せにできる「IPA(インテリジェントパーキングアシスト)」を世界初搭載した。「シーマ」から2年後、2003年のことだ。

IPAは駐車という限定的な状況ながら、自動運転の象徴ともいえる「手放し運転」を可能とした。実際、IPAによる車庫入れの様子は、ビジュアルとして非常にインパクトがある。IPAは進化を繰り返し、販売絶好調の現行「プリウス」にも搭載されている。しかし、トヨタはこの先進的な機能を積極的に宣伝しているようには見えない。

あまり宣伝していない点では、スバル自慢の「アイサイト」も同じだ。「アイサイト」は2008年に登場した総合的な安全技術で、ステレオカメラによる前方の撮影と、その画像処理システムを核とする。

「アイサイト」自体はスバルが盛んにプロモーションしたため、認知度はきわめて高く、その目玉機能である自動ブレーキは他メーカーも追随して普及が加速した。販売面でもスバルの大躍進の立役者となるなど、「アイサイト」の功績は非常に大きい。

しかし、2014年に登場した「アイサイト(ver.3)」でレーンキープ機能が加わったことはあまり知られていない。アダプティブクルーズコントロールとあわせて、「アイサイト」は2014年の時点で「プロパイロット」とほぼ同様の機能を実現しているのだ(対応する速度域などの違いはあるが)。

自動運転にスポットを当てた日産、英断となるか

トヨタやスバルがこうした高度な運転支援機能をあまり積極的に広報しないのは、過度に、あるいは誤解を含んだ注目が集まるのを避けるためと推測できる。「自動運転」という言葉はわかりやすいがゆえに、一人歩きしてしまう危険をはらんでいる。「自動運転だから一人歩きするのは当たり前」……などと冗談を言っている場合ではない。

現在、世界中で自動運転のような機能を搭載した自動車が販売されているが、そのすべてはあくまで運転支援機能であって、運転するのはつねに人間のドライバーだ。そこを「自動車が目的地まで運んでくれるような自動運転」と誤解するとどのような悲劇が起きるか、それはテスラ「モデルS」による死亡事故が示したといえる。

米国の高級電気自動車メーカーであるテスラモーターズは、アダプティブクルーズコントロールとレーンキープに加えて、レーンチェンジまで自動化した運転支援技術を「オートパイロット」の名で実用化した。このオートパイロットモードでの走行中に死亡事故が発生している。詳しい原因などは調査中だが、ドライバーが前方の安全確認を怠らず、ブレーキを踏んでいれば防げた事故であることは間違いないようだ。

新型「セレナ」で搭載される「プロパイロット」は高速道路の単一車線での自動運転技術とされている。今後、2018年に複数レーンでの自動運転技術、2020年までに交差点を含む一般道での自動運転技術を投入予定だという

こういった状況を考えると、日産が「プロパイロット」を「自動運転技術」と銘打ったことは問題ないのか? という気がしないでもない。しかし、こういった問題は単に慎重であればいいというわけでもないだろう。スバルが「アイサイト」を大々的にプロモーションしたことで自動ブレーキの普及が促進されたのと同じように、自動運転も誰かが先導的な役割を果たし、広く一般ユーザーに訴求しないと、なかなか普及しない。

もちろん、悲劇的な事故が起こらないように、日産は「プロパイロット」について十分な説明と注意喚起をする必要がある。それはつまり、「自動運転や運転支援の技術はここまで来ていますよ。でもこんな限界、問題点がまだありますよ」とユーザーに語りかけることだ。そうすれば、当然ながらユーザーからのフィードバックが返ってくる。ユーザーは自動運転や運転支援のどの部分を最も評価するのか、逆にどの部分に拒否反応を示すのか。それは、自動運転に向けて技術開発を進める自動車メーカーにとって、何よりも重要なデータとなるはずだ。