ニューヨーク国際自動車ショーにて、スバル新型「インプレッサ」が発表された。5世代目となる同モデルは、単に「インプレッサ」の新型というだけでなく、スバルの新世代プラットフォーム「SUBARU GLOBAL PLATFORM」を初めて採用したモデルとしても注目を集めている。今後10年ほどの長きにわたって、スバルの新型モデルはすべてこのプラットフォームが採用されることになるようだ。

スバル新型「インプレッサ」(5ドア / セダン)

そこで疑問に思う人も多いかもしれない。そもそもプラットフォームとは何か? メーカーによっても少しずつ意味するところが違っていたりするのだが、一般的にはボディのフロアパン部分、そこに固定されるサスペンション、ステアリングといった構成部品の総称だ。エンジンとトランスミッションを組み合わせたパワートレインを含む場合もある。

プラットフォームがクルマの性能を決定づけるベースとなる

日本語では「車台」と訳されることもあるが、この言い方だとモノコックシャシーが普及する以前の自動車に採用されていたフレームと誤解されやすい。フレームはそれだけで必要な強度を持っていて、単一のパーツの名称だ。プラットフォームに含まれるフロアパンはモノコックシャシーの一部なので、これ単体で必要な強度はない。ルーフまでを含むボディと接合することで初めて必要な強度を持つことになる。また、プラットフォームはサスペンションなど数多くの部品を含んでおり、単一の部品の名称ではない。

かえってわかりにくくなるかもしれないが、プラットフォームを無理矢理に例えれば「そば屋のつゆのようなもの」といえるかもしれない。そば屋にはいろいろなメニューがあるが、基本的につゆは1種類だ。また、メニューのバリエーションは天ぷらだ、月見だと単にトッピングが違うだけではなく、つゆ自体も熱かったり冷たかったり、濃さが違ったりと自在に変化する。それでも味の基本は変わらない。

プラットフォームも、上に乗るボディはセダンだったりハッチバックだったり、あるいはSUVだったりする。また、車種によってホイールベースが変わったりパワートレーンが変わったりする。しかし、同じプラットフォームを使う限り、どのように変化しても設計の基本的な部分、方向性は統一されることになる。

ちなみに、乗用車用のプラットフォームを流用して開発したSUVを「クロスオーバーSUV」という。かつて、オフロードを走るクルマにはがっちりとしたラダーフレームを採用するのが一般的だったが、乗用車用プラットフォームを使い、オフロードモデルとオンロードモデルのいいとこ取りをすることで大ヒットした。

そば屋のたとえ話に戻るが、そば屋には「包丁三日、延し三月、木鉢三年」という格言がある。そば打ちというと、棒で麺を伸ばし、包丁で切る作業が注目されるが、じつはこれらの作業は3日とか3カ月で習得できる。しかし、その前段階の木鉢でそば粉をこねる作業は3年かけないと習得できず、ここが大切なのだという意味だ。では、つゆはというと、「つゆ一生」といわれる。やれ二八そばだ、十割そばだと麺ばかり注目されるが、最も大切かつ難しいのはつゆであり、一生かけて追求しなければならないということだ。

クルマのプラットフォームも同じ。新型モデルが登場するとエクステリアデザインや豪華な装備が注目されるが、クルマの性能を決定づけるベースとなるのはプラットフォーム。これが駄目だと、どんなにかっこいいデザインでも、いいクルマにはならない。

新プラットフォームから見える「スバルが繰り出す次の一手」は?

新開発のプラットフォームを採用した新型「インプレッサ」が注目されるのは、もちろん「インプレッサ」自体の魅力もあるが、スバルの新世代プラットフォームが多くの人の興味を引くからだ。現在のスバルは水平対向エンジン専門のメーカーとなっている。身近な日本メーカーなので忘れてしまいがちだが、改めて考えると、これほどユニークで独創的な自動車メーカーは世界中を探しても他にない。同時に、日本のメーカーではマツダと並んで近年勢いを感じさせるメーカーでもある。そのスバルが繰り出す次の一手、それがこのプラットフォームから見えてくるのだ。

ごく大まかな特徴を挙げると、「SUBARU GLOBAL PLATFORM」は従来比1.7~2倍の剛性アップと、1.4倍の衝撃吸収性を実現し、操縦性や安全性を高めた。また、共振やひずみを分散することで高い快適性を実現したという。他にもさまざまな最新技術が投入されているのだが、エンジンなどと違い、プラットフォームの特徴は素人にはわかりにくい。

「SUBARU GLOBAL PLATFORM」は「2025年までを見据えた次世代プラットフォーム」だという

そこで、プラットフォームそのものではなく、それをスバルがどのように発表しているかに注目すると、ちょっと面白い。

たとえば「SUBARU GLOBAL PLATFORM」は重心位置を下げてハンドリングを向上させている。これは普通ならスポーツ性の高さとしてアピールするべきポイントだろう。しかし、スバルの資料によれば、俊敏なハンドリングによって危険回避しやすくなり、アクティブセーフティが向上したとされている。また、剛性が高まったことで直進安定性が向上しているが、これは将来の自動運転走行を見据えたものだと説明している。

これはつまり、スバルはこれから安全性を重視し、自動走行をめざしてやっていきますよ……という意思表示とも取れる。また、「SUBARU GLOBAL PLATFORM」はEVやハイブリッドにも対応できるという。これはもちろん、近い将来にEVやハイブリッドモデルを発売する意思があるということだ。

スバルはすでに「XV」や現行「インプレッサ」でハイブリッドモデルを発売しているが、これはトランスミッション内にモーターを内蔵し、ガソリンエンジン用のプラットフォームに無理なく搭載できるタイプ。「SUBARU GLOBAL PLATFORM」がハイブリッドに対応しているということは、逆にいえばプラットフォームレベルで対応が必要な本格的なハイブリッドに挑戦するということかもしれない。

生産台数の半数以上を北米でさばくスバルがハイブリッドを重視しているとしたら、これまでより日本市場を重視するということなのか、あるいは北米でもこれからはハイブリッドが必要という判断なのか。はたまたトヨタとの関係から来る事情なのか。ちょっと気になるところだが、それよりもまず、「SUBARU GLOBAL PLATFORM」の実力がいかほどのものなのか、そこに注目したい。「インプレッサ」の発売が待たれるところだ。