慶応大 天野教授のポストムーアへのアプローチ

慶應義塾大学(慶応大)の天野英晴 教授はポストムーアの時代に重要なことは、新しい多様なデバイスを接続し、それをシステムとして統合することであるという。

ポストムーアへのアプローチを発表する慶応大の天野教授

そのためには、柔軟性を持ち、ソフトウェア、ファームウェアを内蔵するHub Chipの開発が必要であるという。Hub Chipはチップ間を無線結合する「Through Chip Interface(TCI)」、スイッチに内蔵されるアクセラレータ、再構成可能なスイッチ、FPGA、CGRA(coarse-grained reconfigurable architecture)などを内蔵する。

ポストムーアの時代には多様なデバイスを接続して、システムとして統合することが必要になる。そのためには多種のデバイスが繋げる柔軟性の高いHub Chipが重要になる (以降の図の出典は、天野教授の発表スライド)

ベースとなるHub Chipは、無線結合のTCI(図では○で表されている)とリコンフィギュラブルなスイッチ、FPGAで構成されている。これにFPやCGRAを加えることも考えられる。

ベースとなるHub Chipは、無線結合のTCI(図では○で表されている)とリコンフィギュラブルなスイッチ、FPGAで構成されている

そしてベースチップの上に光インタコネクトチップや新しいアーキテクチャのコンピューティングチップ、新メモリなどのチップを載せ、TCIでベースチップと接続する。

ベースとなるHub Chipは、無線結合のTCI(図では○で表されている)とリコンフィギュラブルなスイッチ、FPGAで構成されている

ベースとなる技術その1は、磁界で複数枚のチップと信号の送受を行うTCI技術である。TCIはコイルの位置が合っている必要はあるが、物理的にチップを接着する必要は無いので、個別のチップを作って置いて、重ね合わせは後で決めればよい。また、この図ではチップをユーザが交換できると書かれているが、10μm以下の厚みのチップをユーザがフィールドで扱うというのは難しいのではないかと思われる。

ベースチップの上に光インタコネクト、新しいコンピュートチップ、新メモリなどをドーターチップとして載せ、TCIで結合する

ベースとなる技術その2は、スイッチの中にアクセラレータを組み込むというものである。筑波大が開発したPCIeでGPU間の通信を可能にするPEACHチップの機能を拡張して、集合通信などの機能をPEACHに持たせてCPUを使わず集合通信を行う。PEACHが違いを吸収してGPUとFPGAを単一の通信方法で協調利用できるようがするなどの使い方が考えられる。

PEACHの機能を拡張して、集合通信の処理を持たせるなどのアクセラレータ機能をスイッチの中に埋め込む

そして、各ノードはルータを中心として、4方向の隣接ノードと接続するポートを持つ。さらに、ルータからAlteraのAvalon Busを使って演算機構、メモリなどを接続する。

各ノードは、4方向の隣接ノードと接続するポートを持ち、ルータはこれらのポートと内蔵する演算機構ややメモリとの接続を行う

ポストムーアの時代には、デバイス単体の性能改善は限られるので、適材適所でいろいろなデバイスを集積して使うことが必要になる。したがって、どのようにして、これらをうまく接続し統合するかが重要であり、システム全体の性能、電力を如何に上手く最適化するかがポイントであるという。

ポストムーアの時代は、ヘテロなデバイスをどのように接続し、うまく動かして性能、電力を最適化することがポイントになる

ムーアの法則が止まってしまうと、これまでのように汎用CPUの性能を一本調子に改善することはできない。このため、さらに性能を上げるためには、適材適所の専用アーキテクチャのプロセサを使ったり、FPGAやCGRAなどの再構成可能なデバイスを使ったりして効率の良い専用プロセサを作って組み込む必要があるという点では、3人の先生の意見は一致している。

ただし、東大の工藤先生は超広帯域の光スイッチを使って大きな単位での可変接続を目指しているのに対して、慶応大の天野先生はTCIを使うハブチップでの小さな単位での可変接続を目指している点が異なる。九大の井上先生は、ヘテロの多様性を利用する電力、性能の最適化が重要と指摘していた。