大手キャリアが採用するモバイル通信方式は、4Gに関しては同じ通信方式で一本化されているものの、3Gに関してはKDDI(au)だけ、他の2キャリアと異なる通信方式を採用している。それにはかつて、通信方式を巡る壮絶な争いがあったことが大きく影響している。

自社の3Gネットワークの利用を激減させているau

スマートフォンで音声通話やデータ通信をするのに用いる、モバイル通信の通信方式。現在主流となっている第4世代(4G)の通信方式に関しては、NTTドコモ、KDDI(au)、ソフトバンクともに「LTE-Advanced」という通信方式を採用している。それゆえどのSIMを挿入しても利用できる「SIMフリー」のスマートフォンに、どのキャリアのSIMを挿入しても問題なく利用できると思われるかもしれないが、実はそうとは限らない。

その主因の1つに挙げられるのが、4Gの1つ前の世代となる第3世代(3G)の通信方式の違いである。NTTドコモとソフトバンクは、3Gに「W-CDMA」という方式を用いているが、auだけは「CDMA2000」という別の方式を用いているのだ。

特にこの違いが影響してくるのが音声通話である。SIMフリースマートフォンの多くは、主としてデータ通信に4G、音声通話に3Gを用いることが多い。だが3Gの通信方式に関しては、世界的に広く普及しているW-CDMA方式のみを採用しており、CDMA2000方式を採用しているものはほとんどない。そのためauのSIMを挿入しても、音声通話が利用できないSIMフリースマートフォンが多いのだ。

そうしたことからauは現在、4Gのネットワークで音声通話をする「VoLTE」(Voice over LTE)に力を入れるなど、全ての通信を4Gのネットワークでこなし、3Gのネットワークの利用を縮小している。実際auから販売されているスマートフォンの大半は、既にCDMA2000方式に対応していない。データ通信だけでなく音声通話にも4Gを用い、3Gに関しては国際ローミング用にW-CDMA方式のみを備えているものがほとんどなのだ。

auが販売しているスマートフォンは、4Gのネットワークで通話をする「VoLTE」に対応している一方、CDMA2000方式による通話や通信には対応していないものが大半を占める

また最近では、「iPhone 8」「iPhone 8 Plus」がauの3Gネットワークに非対応となったことが話題となった。それくらいauは今、世界的にマイナーな通信方式となってしまったCDMA2000を排除することに躍起になっているのだが、なのであればなぜ、auは3GにCDMA2000方式を採用したのか?という点に疑問を持つ人も多いのではないだろうか。

CDMA2000方式の採用に至る紆余曲折とは?

その理由は、3Gのさらに1つ前となる、第2世代(2G)の通信方式の時代にまでさかのぼる。当時日本のキャリアは、いずれも「PDC」と呼ばれる日本独自の通信方式を用いていたのだが、KDDIの前身となる第二電電(DDI)と日本移動通信(IDO)の2社が、クアルコムが開発し、米国や韓国などで採用が進んでいたCDMA2000方式の前身、「cdmaOne」方式を1998年に採用したのである。

cdmaOne方式はPDC方式より後に開発されたので通話音質が高く、しかもCDMA2000方式へ移行しやすいなどのメリットがあった。同じPDC方式を用いていてはNTTドコモと差異化ができず勝ち目がないと判断したことから2社はcdmaOne方式の採用に至り、これら2社と国際電信電話(KDD)とが合併し、2000年にKDDIとなってからは、そのままcdmaOne方式からCDMA2000方式へと移行している。

auのcdmaOne方式の携帯電話は、アンテナ上部が銀色なのが特徴となっていた

だがそこに至るまでには大きな紆余曲折があった。実は合併した3社は当初、3Gでは世界的にW-CDMA方式が広まると見て、CDMA2000方式への移行はせず、W-CDMA方式を採用する方向に傾いていたのだ。

しかしその方針に異を唱えたのがクアルコムだ。当時3Gの通信方式を巡っては、日本や欧州を中心としたW-CDMA陣営と、米国を中心としたCDMA2000陣営とが激しく争っており、中でもクアルコムはCDMA2000陣営の中心的存在だった。もしKDDIがW-CDMA方式を採用すれば、CDMA2000陣営は日本での足場を失いかねないことから、クアルコムは自身がキャリアとして3Gの電波免許割り当てに参入しようとするなど、KDDIに揺さぶりをかけてCDMA2000方式の採用を迫ったのである。

最終的にはKDDIが折れる形でCDMA2000方式を採用するに至ったのだが、ではKDDIにとってCDMA2000方式の採用はメリットがなかったのかというと、実はそうでもない。先にも触れた通り、CDMA2000方式はcdmaOne方式からアップデートがしやすかったため、PDC方式からW-CDMA方式へと、全く異なる通信方式を採用した他の2社と比べ、auは3Gへの移行をスムーズに進められたのだ。

そこでauは、「着うた」「着うたフル」などの音楽配信サービスや、データ通信の定額サービスなど、3Gの(当時としては)高速な通信速度を生かしたサービスを次々と展開。スマートフォンが普及する以前の2000年代前半から中盤にかけて、auはCDMA2000方式の恩恵によって人気を獲得し、契約数を伸ばすことができたである。

だがスマートフォンの登場によって端末開発の効率化、グローバル化が進み、世界的に多く採用されているW-CDMA方式のみに対応したスマートフォンを開発するメーカーが増えた。そうしたことから、採用するキャリアが少ないCDMA2000方式を用いているauが、一転して不利になってしまったわけだ。4Gの次の世代となる第5世代(5G)の通信方式が登場し、普及するまで3Gの利用は続くと見られることから、auはいましばらく辛抱の時期が続くといえそうだ。