大手キャリアのスマートフォンを購入すると、iOSやAndroid標準のアプリだけでなく、非常に多くのアプリがインストールされていることが多い。スマートフォンに詳しい人にとっては邪魔なもののように見えるこれらのアプリだが、なぜ標準インストールされているのだろうか。

キャリアのネットサービスを利用しやすくしてもらう施策

大手キャリアのスマートフォンを購入すると、必ずといっていいほどプリインストールされているアプリの数々。その中にはAndroidやiOSなど、スマートフォンのOSに標準搭載のものや、スマートフォンメーカーが用意したアプリもあるのだが、それと同等、あるいは上回る数のキャリア独自のアプリが多数入っていることが多い。

大手キャリアのスマートフォンにはOS標準のアプリだけでなく、キャリアが用意したアプリが多数プリインストールされていることが多い

しかもこうしたプリインストールのアプリのいくつかは、端末にもよるが削除できない場合もあるようだ。なぜ自分にとって必要ないと感じるアプリがそんなにたくさん入っているのか? と疑問に思う人も多いことだろう。

だがキャリアのビジネスにとって、アプリのプリインストールは重要な意味を持っている。最近ではキャリアもさまざまなネットサービスを提供するようになっており、例えばNTTドコモは総合マーケットサービス「dマーケット」を提供。中でも「dTV」「dマガジン」などは、多くの利用者を抱える人気サービスとなっている。

NTTドコモは総合ネットサービス「dマーケット」に力を入れており、既に18ものサービスを提供しているほか、「dマガジン」などの人気サービスも輩出している

KDDI(au)であれば、月額372円で割引クーポンやアプリ、修理代金のサポートなどが利用できる「auスマートパス」がよく知られている。ソフトバンクも「スポナビライブ」など独自サービスのほか、最近では「Yahoo! Japan」のプレミアム会員相当のサービスが利用できるなど、グループ会社のヤフーと連携したサービスを強化している。

これらのサービスを利用してもらうためには、別途アプリをダウンロードしてもらうよりも、最初から端末にそのサービスのアプリが入っていた方が便利だ。しかもキャリアのサービスは多数存在するため、キャリア側がユーザーがどのサービスを利用するか、事前に把握してアプリの数を調節するというのは難しい。それゆえキャリアは最初から、多くのユーザーが使いそうなアプリを一通りプリインストールしているのである。

もちろん、ネットサービスをWebブラウザ上で提供するのであれば、せいぜいブックマークの数が増えるだけの話であり、ここまでユーザーに不満を抱かせることはなかったかもしれない。だが現在、多くの人達はさまざまなネットサービスをアプリから利用する傾向が強く、Webブラウザよりもアプリを利用している時間の方が長い人も多い。そうしたことからキャリア側も、自社サービスを利用しやすくするためには、アプリでサービスを提供する必要があったわけだ。

ユーザー増加が見込めない状況では必要不可欠な策に

そして現在、キャリアにとってこのネットサービスの利用を広げることが、ビジネス面でも非常に重要なテーマとなっている。その理由は、国内では携帯電話の契約者数が、現在以上に増える見込みがほとんどないためだ。

実際、電気通信事業者協会の公表資料によると、携帯電話の契約数は現在、約1.6兆にも達しており、既に日本の人口を超えている。今後見込める純粋な携帯電話の新規契約者は、現在の小学生以下の世代くらいだが、その子供世代も少子高齢化によって年々減少傾向にあり、大きな伸びはもう期待できないのである。

そうしたことからキャリアは2、3年前まで、番号ポータビリティ(MNP)で他社から乗り換えるユーザーに対してスマートフォンを「実質0円」など非常に安い価格で販売することにより、他社からユーザーを奪うことに力を入れてきた。だがこの販売手法が、料金の分かりにくさや端末を買い替えない人への不公平感を生むなどの理由から、2016年に総務省が事実上禁止。他社からユーザーを奪うのも難しくなってしまったのだ。

2015年末に総務省が実施した「携帯電話の料金その他の提供条件に関するタスクフォース」によって、スマートフォンの実質0円販売に大きなメスが入り、競争環境が激変した

しかも最近では、キャリアからネットワークを借り、コストを徹底的に削って安価な料金でスマートフォンを利用できるサービスを提供する、「格安SIM」「格安スマホ」などで注目される仮想移動体通信事業者(MVNO)が急速に台頭。キャリアは現在新たなユーザーを確保できない上にMVNOにユーザーを奪われ続けるという状況に追い込まれており、今後通信事業だけでは売上を伸ばせないことが明確となりつつある。

そこでキャリアは、既存の顧客に向けさまざまなサービスを提供して、残った顧客の1人当たりの売上を高めるべく、ネットサービスの充実に力を入れるようになったのである。実際NTTドコモは、「dマーケット」などのネットサービスを含む「スマートライフ領域」の売上が、全体の売上の約2割に達するまでに成長している。

NTTドコモのスマートライフ領域は年々拡大を続けており、事業全体の売上で2割、利益でも1割近くに達する規模となっている

特にスマートフォンの利用に慣れ、自分の好きなアプリだけを利用したい人からしてみれば、キャリアのプリインストールアプリは不要なものにしか映らないかもしれない。だが今後通信事業の拡大が見込めないキャリアにとって、自社ネットサービスの利用拡大は必要不可欠であり、幅広い人にサービスを知ってもらうためにも、最もユーザーの目につきやすく、利用がしやすいアプリのプリインストール施策が不可欠となっている。それだけに、大手キャリアのスマートフォンから不要なアプリアイコンがなくなる日は、おそらく「来ない」と言っても過言ではないだろう。