スマートフォンを内線にすることで社内外の業務連絡の効率化を進めるとともに、六本木ヒルズと虎ノ門ヒルズにある2つのホテルをまたいだ内線化を実現して業務効率化を図っているグランドハイアット東京。同ホテルでは、どのようにしてスマートフォンを活用した内線環境改善を進めていったのか、同社の担当者に話を聞いた。

スマホを内線化

六本木ヒルズの一角で運営している「グランドハイアット東京」は、都内でも有数のラグジュアリーホテルとしても知られている。そのグランドハイアット東京で昨年11月に進められたのが、スマートフォンを内線にして業務を効率化する取り組みだ。

内線電話は通常、社内にPBX(構内交換機)を設置して各部署の固定電話に配線し、それを通じて利用するのが一般的だ。だが、グランドハイアット東京では、スマートフォンからも内線電話をかけたり受けたりできるようにしたことで、ホテル内のどこにいても社員同士で連絡が取り合えるほか、外出中も内線で通話できるようにしたことで、社員同士の連絡にかかるコストの削減にもつなげている。

なぜ、グランドハイアット東京ではスマートフォンを用いた内線環境を構築するに至ったのだろうか。

人材開発部 セキュリティーマネージャー総務の森谷 猛晴氏によると、同社でも元々はPBXによる通常の内線電話環境と、ホテル内で連絡を取り合うためのPHSによる内線システムを導入していたという。

だが、PHSではホテル内に設置したアンテナの範囲でしか通話ができず、駐車場やホテルと隣接する「六本木ヒルズ森タワー」など、ホテルから少しでも離れた場所に移動してしまうと連絡がとれなくなることが多かったのだそうだ。

また、外回りが多い営業部門の社員の場合には、外出先から会社と連絡をとるための携帯電話と、内線用のPHSの2つを同時に持ち歩く必要があった。当然ながらPHSと携帯電話の2台持ちは煩雑になるし、会社に連絡をとるたびに通話料がかかるなど、コスト面の問題も抱えていた。

コストとのバランスが重要

森ビルホスピタリティコーポレーション 人材開発部 セキュリティーマネージャー総務 森谷 猛晴氏

そこでグランドハイアット東京では、PBXを更新するタイミングが近づいた2年前に、内線電話の見直しを実施するべく検討を進めていった。そうした中で候補に挙がったのが、NTTドコモの「オフィスリンク」であったと、森谷氏は話す。オフィスリンクは固定電話だけでなくスマートフォンも内線として活用できるようにするNTTドコモの内線ソリューションだ。NTTドコモのエリア内であれば全国どこでも内線による通話ができることから、外出先の社員と通話しても通話料がかからずに通話できるようになることが特徴となる。

そもそもグランドハイアット東京を運営しているのは、「森ビルホスピタリティコーポレーション」という企業である。同社は昨年オープンした虎ノ門ヒルズでも高級ホテル「アンダーズ東京」を運営していることから、先行してアンダーズ東京にオフィスリンクを導入したとのこと。それによって高い業務効率化が実現できたことから、グランドハイアット東京にもオフィスリンクを導入。スマートフォン1台で内線と外線ができる環境の実現に至ったのだそうだ。

オフィスリンクを導入する際に気を遣ったポイントの1つは「電波環境」。構内PHSではエリアの狭さによる電話の切断などが問題となっていたが、オフィスリンクの導入でNTTドコモのネットワークに切り替わったことに加え、小型のアンテナやフェムトセルをホテル内にくまなく設置したことで、電波環境も改善。PHSでは実現できなかった、地下や駐車場などでの内線通話も可能になったとのことだ。

そしてもう1つのポイントは、利便性を高めながらも、いかにコストを抑えるかということ。実際グランドハイアット東京では、コスト削減のためデータ通信は利用せず、音声通話のみの料金プランを契約することで、コスト削減を図っているそうだ。また導入した端末の数も、全社員のうち管理職クラスと、ハウスキーパーやフロントなどホテル内での移動が多い人、そして外回りが多い営業職のみに絞っており、「社員700人のうち、180人くらい」(森谷氏)になるとのことだ。

新たに導入したスマートフォンにも、コスト削減に向けた強い姿勢を見ることができる。外部との接触が多い管理職や営業職にはiPhoneを持たせているが、ホテル内の勤務が主となる社員が利用する端末としては「GALAXY S II SC-02C」を導入している。

GALAXY S II SC-02Cを活用している

そもそも、通話のみに利用するのであれば、必ずしもスマートフォンを導入する必要はないように思える。だが、森谷氏によると、PHSからスマートフォンに変更したことで、通話以外にも大きなメリットが得られるようになったとのこと。特に大きかったのは、端末の電話帳の共有ができるようになったことだという。

PHSでは人員の増加や異動などに応じて、内線の電話帳をその都度、端末ごとに変更する必要があった。だがスマートフォンでは電話帳の自動更新や共有ができることから、100台以上の端末の電話帳を書き換える手間が必要なくなった。もちろん、データ通信非対応の契約では、スマートフォンの電話帳の自動更新はできない。そのため現在は、電話帳の更新時だけ社内のWi-Fi環境に接続する形をとっているとのことだ。

ちなみにオフィスリンクには、既存のPBXをそのまま生かしつつ、オフィスリンクを導入する「お客様PBXタイプ」と、クラウドに設置されたPBXを用いて内線環境を実現する「仮想PBXタイプ」の2種類が用意されている。後者であればPBXの設置が不要になり、管理コストなどを削減できることから、利便性が高いように感じるが、グランドハイアット東京では新しいPBXを導入し、前者のスタイルでオフィスリンクを採用するに至ったと森谷氏は話す。

その大きな理由は、ホテルの客室にも内線電話を活用しているため、クラウドのPBXでは機能が足りないからとのこと。ホテルのシステム全体を考え、ビジネスとサービスの両面の親和性を図るためには、やはり社内にPBXを設置する必要があったようだ。PBXを社内に持つことを生かし、1台のPBXを、仮想的に2台のPBXとして活用することにより、グランドハイアット東京とアンダーズ東京とでPBXを共有している。これにより双方のホテルで相互に内線通話ができる環境を実現しているほか、宿泊予約も同じ交換台で受け付けるなどして、業務の効率化を図っているのだそうだ。

さらにグランドハイアット東京では、スマートフォンによる内線環境を整備したことを生かし、通話以外の面でも業務効率を高めるための取り組みを進めていくという。中でも森谷氏が期待をかけているのが「HotSOS」だ。

これはホテルの業務を支援するソリューションで、客室マネージャーがハウスキーパーに指示を出したり、ハウスキーパーが見つけた設備の故障を、素早くメンテナンス対応するエンジニアに連絡したりできるなど、ホテル内の情報共有をしやすくするものだ。既にアンダーズ東京ではHotSOSを導入し、業務の効率化を実現していることから、グランドハイアット東京でもいち早く導入したいとしている。

HotSOSアプリ

だが、HotSOSを導入するにはデータ通信が必要であり、先に触れた通りグランドハイアット東京ではデータ通信の契約を行っていない。そこで同社では、現在ホテル全体に客室用のWi-Fi環境とは別となる、業務用のWi-Fi環境を整備することで、データ通信の対応、ひいてはHotSOSの導入を進めていくという。