これまで4回にわたり、日立システムズのオープンクラウドマーケットプレース「MINONARUKI(みのなるき)」の機能や特長、市場からの評価などについて紹介してきた。5回目となる今回は、実際に「MINONARUKI」を使ってクラウドサービスを導入し、日々の業務の改善に有効活用しているユーザー企業を訪問して生の声を伺った。

今回ご登場いただくのは、長野県産の新鮮な野菜をジャムやジュースなどに加工して全国の消費者にお届けすることで、家庭での豊かな食生活と地元の農業を支援している小池手造り農産加工所有限会社だ。

クラウド導入のきっかけは「偶然目にした新聞記事」

小池手造り農産加工所有限会社 代表取締役社長 小池伊佐子氏

信州南部、中央アルプスを望む長野県飯田市に本社を構える小池手造り農産加工所有限会社。同社は、地元の農家から持ち込まれた野菜をジュースやジャム、惣菜や調味料などに加工して全国の消費者へと届けている。そこには、「持ち味の香り、色を損なわない味」、「鮮度の良い原料のままの味」、「健康食品としての成分を活用した味」、「消費者のニーズに合わせた味」、「生産者のメリットのある味」という同社の基本方針が貫かれており、外食や加工食品が行き渡る現代人の食生活の中にあって、懐かしくも優しいおふくろの味を消費者へ届け続けているのである。

実際、後継者不足や輸入食材の台頭と言った理由から、日本の農家は厳しい経営を強いられている。しかし、天災や気候の変動の影響を受けにくく、規格外の作物も商品化することができる同社の農産加工は、農家に安定した収益向上をもたらすとともに、新たな地場産品の創出にも貢献しているのだ。

そうした小池手造り農産加工所では、昨年の夏の終わりに「MINONARUKI」の人気メニューの1つである中小企業向けクラウドサービス「Dougubako(どうぐばこ)」の弥生会計と販売管理サービスを導入、煩雑だった事務作業を効率化するとともに、日々の経営指標として役立てている。そのきっかけとなったのは、昨年5月に日本経済新聞に掲載された「MINONARUKI」の開設を報じた小さな記事だった。代表取締役社長を務める小池伊佐子氏は、その時の経緯を次のように振り返る。

「長いお付き合いのある経営コンサルタントの先生に会計事務を効率化できないかと相談していたところ、新聞を見た先生から『これは使えるんじゃないか』という提案がありました。当時、クラウドという言葉は、耳にすることはあってもどういうものかはよくわからない状態でしたが、信頼する先生の推薦であること、以前にPCのデータを紛失した際にWeb上に保管していた勤怠情報は無事だったことを思い出しトライしてみようと決断しました」

1ヵ月間の試用を行ったところ、期待を上回るその使い勝手に満足し、小池氏は10月に正式導入することを決めた。

コンサルタントとの二人三脚の関係を築く

設立から12年目を迎える小池手造り農産加工所だが、農産加工は法人となる以前から創業者であり小池氏の母親でもある小池芳子氏(代表取締役)が自営で営んでいた。小池伊佐子氏は、そんな母の活動を主に事務面から支えていたのだ。

「最初のうちはレシートや入金伝票をまとめて確定申告していたが、会社設立後は税理士に依頼するようになりました。これにより、税務署への申告は完璧にやってもらえるものの、財務会計に関わる書類をすべて預けてしまうので、データから経営を見ることができなくなってしまったのです。そこで、中小企業向けの売上や仕入れを管理できるPCソフトを導入しました。今思えば、これが当社の最初のIT化でした」と小池氏。

その後、先述の経営コンサルタントと知り合い、会計業務を委託するようになると、損益計算書などがすぐに出てくるだけでなく、収支に対するコメントやアドバイスも受けられるようになった。さらに、小池氏は決算書が読めるようレクチャーを受けるなど、コンサルタントとともに成長していく関係が築かれていったのである。

ところが、順調に業績を伸ばすなかで従業員や取扱い品目が増えてくると、会計や販売そして給与管理のソフトをバラバラで導入していたことが、業務処理において無駄を生じる原因となってしまった。加えて、創業者である母親から小池氏が社長を引き継いだことで、経営全般に目を向けねばならなくなったのだ。

「社長に就任したことで、事務作業を人に任せなければいけなくなりました。財務状況がわかる人が私以外にいないという状況だったので、人を育てながらITシステムをもう一段高いレベルに引き上げる必要があると感じていました」と小池氏は語る。

まさにこうした時期にコンサルタントが見つけたのが、先の「MINONARUKI」を報じる新聞記事だったのだ。その後の導入に至る経緯は前述の通りである。「導入作業はすべてコンサルタントの先生にお願いしました。長い付き合いの中で、当社が望む落とし所は十分に理解していると信頼していますので」と小池氏。

クラウド上の情報共有が経営効率化の決め手に

「Dougubako」の弥生会計と販売管理サービスを導入した小池手造り農産加工所では、現在のところ「まだ現金の入金処理を練習している段階」(小池氏)だというが、早くも劇的な効果が表れているようだ。

大きな変化は、経営データを現場の従業員と社長、そして経営コンサルタントがリアルタイムに共有できるようになったことだ。松本市内にあるコンサルタントの事務所と同社の距離は車で1時間半以上と離れており、これまでは電子メールとFAX、そして宅配便を組み合わせて、情報のやり取りを行っていた。

それがクラウド上で情報が一元化され共有できるようになったことで、当日の売上データをコンサルタントが夕方に確認して処理、必要であれば即座にアドバイスを送るといったように経営にスピード感がもたらされたのである。営業担当者も自分のPCから頻繁に売上のチェックが行えるようになり、より効果的な営業戦略を立てられるようになった。

こうした情報共有に非常に役立っているのが、「Dougubako」が提供する機能の1つ「保存フォルダ」だ。小池手造り農産加工所では、本来はユーザーアカウントごとに独立している保存フォルダを日立システムズに依頼してユーザー間で共有できるようにした。そのため、さまざまなデータが共有可能となったのである。

また、会社でやり残した業務を自宅で行う際も、かつてはUSBメモリなどにデータを保管していたため上書きして古いデータを消さないよう気を配る必要があった。しかし、クラウドに移行してからは、当然ながら場所を気にせず同じ環境でデータが使えるようになった。「私にとっては期待していなかった思わぬ恩恵を『Dougubako』から受けて、驚いております」と小池氏は笑う。

つい最近、そんなクラウドのメリットを象徴するようなちょっとした"事件"が起きたのだという。それは、ふとしたExcelの操作ミスで過去のデータを消失したというものだった。即座にコンサルタントが日立システムズのサポートに電話したところ、バックアップデータを復元して、その日のうちに解決することができたのである。「クラウドの利点を思わぬところで心の底から実感できました」と小池氏。

今後、小池氏は「Dougubako」を活用しながら、専任の事務担当者を育成しつつ経理情報と得意先情報などのさらなる一元化を図っていく構えだ。これからもずっと、ふるさとの味を全国の家庭に送り届け続けていく小池手造り農産加工所にとって、「Dougubako」の存在が経営にますます欠かせないものとなっていくことは間違いなさそうだ。