前回は"負け組"の敗因が「損切りができないことにある」という結論を導き出しました。この「損切りができない」ことにより、二つの問題が見えてきました。その一つ目は、「模擬売買研修」が期限限定であったために、損失額が拡大したままタイムリミットとなってしまったことです。この点に関しては、一般の取引では無関係のように思われるかも知れません。

しかし、ここで再認識していただきたいのは、取引期限と資金量は同じ要因と考えられるということです。「損切りができない」トレードは、資金が底を尽いた時が期限切れとなり、その時点での損失額は、すでに挽回不能までになっているでしょう。このパターンがトレードにおける最大の悲劇になります。

「損切り」を"知っていること"と"実行すること"との間に存在する深い溝

「損切りができない」ことによる二つ目の弊害は、「他のトレードチャンスを見逃してしまうこと」にありました。実は、これがもっとも重要なポイントになります。簡単な例を用意してみました。【別表5】は、勝率が同じ50%の「Aさん」と「Bさん」のトレードを表しています。この表にあるように、売買の勝ち負けが順番に繰り返すパターンは、いかに勝率50%といえども実売買においてはまず起こりえませんが、ここでは便宜上の表現であることをご了承ください。

【別表5】

「Aさん」は、6回の売買で3勝3敗の取引となっていますが、一方の「Bさん」は、2回目の負けが発生した時点で、トレードが中断されている点に注目してください。また、このBさんの2回目の負けに関しては、いまだ現在進行形であるとお考えください。そうしますと、この表からだけでも「"負け組"のトレード回数がなぜ少ないのか」と同時に、「なぜ他のトレードチャンスを見逃してしまうのか」を、明確にご理解いただけるものと思います。

少々前振りが長くなってしまいましたが、これまでお話してきたように、"負け組"が"負け組"から離脱する手段として最も有効であろう方策は、「損切りの実行」にあるわけです。さらに、それは単なる「損切り」ではなくて、「早めの損切り」でなければ意味をなしません。これが最終的な結論になるのですが、これが結論であるならば、おそらく「今さらながらの話」であり「良く知っている話」ではないでしょうか。つまり、問題の本質は、「損切り」と言う言葉ではなくて、その実行が難しいという点にあるわけです。知っていることと実行していることの狭間(はざま)には、簡単には埋められないほどの深い溝が存在するようです。

従来のシストレでは"勝つ確率の高い売買ルール"が実行されないケースも

まずは、「早めの損切り」が、いかに重要であるかをもう一度再確認してください。その上で、「それでも損切りには抵抗がある」という方は、ここから始める話に進んでいただきたいと思います。

「システムトレード」とは何ぞや、という話ですが、このコラムでは、システムトレードの具体的な構築や検証といった点には触れません。その類(たぐい)のレポートや解説などは、現在巷(ちまた)にあふれています。また、ひまわり証券のホームページにも、システムトレードに関連するオンデマンドセミナーが多数用意されておりますので、参考にしてください。

「システムトレードとは何か」ですが、これを文章にしますと、「主にテクニカル分析を駆使し、過去データから"勝つ確率の高い売買ルール"を見つけ出し、そのルールに従って機械的かつ継続的に取引する手法」となります。この文にある"勝つ確率の高い売買ルール"に関して補足しておきますと、それは、勝率が90%とか95%という意味ではありません。それは、トータルでの結果において継続的な利益が得られるであろう売買ルールを意味します。従って、売買システムによっては勝率が30%~40%しかないものも存在しますので、このような売買システムは、利食いよりも損切りの回数が多くなることになります。

いかなる「システムトレード」であったとしても、この「損切り」は必然的に発生します。そうしますと「損切りのできない」方には不向きな手法では、といった疑問が生じることでしょう。確かにその懸念は現実のものでした。ただし現在、それは過去形で表現される問題になっています。

これまでの「システムトレード」は、過去データに基いて構築された売買ルールから、その条件を満たした時点で売買サインが出現、そのサインによってトレードがなされたのですが、その売買サインを実行するのは人的な作業によるものだったわけです。このことにより、発注作業の時点において「損切りができない」という問題が大きな障害となって、せっかくの"勝つ確率の高い売買ルール"が実行されないケースが存在していたのです。また、近年ではFXのように24時間のトレードが可能になりましたが、生身の人間が24時間モニターをチェックできるわけもなく、時として貴重な売買サインも認識されずにすぎ去ってしまうことになります(続く)。

執筆者プロフィール : 久保修眞(くぼ しゅうま)

ひまわり証券 情報企画チーム マネージャー。大学卒業後、一貫して先物取引やFXを中心とした相場関連業務に従事。30年にわたる経験で培われた相場やトレードに対する深い洞察力をベースに、現在は投資セミナーの企画・プロデュースや、メールマガジン『どるうえざー』の執筆活動などを展開している。著書に『為替取引・7日間速攻ゼミ-誰にでもできる身近な資産運用』(同友館)などがある。