【連載】

日本メーカーが大苦戦!マシンビジョンの世界で何が起きているのか?

7 BtoCエンベデッド・ビジョン市場の隆起と工業用カメラメーカーの戦い方

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エンベデッド・ビジョンと呼ばれる市場が現在大きく隆起しようとしている。そもそも画像処理の歴史は1960年代にさかのぼるが、その頃から例えばステレオビジョンと呼ばれる、人間の目のように2つのカメラを用いて高さ情報(奥行情報)を得るアルゴリズムは存在していた。しかし、それを演算するCPUが存在しなかったために、実アプリケーションで採用されることはなく机上の理論にとどまっていた。それが90年代のPC向けCPUの目覚ましい性能向上により、PCが工業用画像処理の世界で採用されるようになり、ようやく机上の理論が日の目を見る時代が訪れた。工場の中で用いられる各種装置やロボットには、PCという大きな筐体を設置するスペースが存在したからである。

工場内の画像処理のイメージ (出所:川田工業)

その後、スバルが世界で初めてステレオビジョンによって自動車を緊急停止させる機能の量産化に成功した。これまで工場の中でPCを用いて処理されてきた画像処理が、自動車の上でも実現される時代が来たのだ。もちろんPCを自動車に搭載することはできない、つまりはARMのような組込機器向けCPUの演算能力が高まったことにより、いよいよ画像処理が工場の外でも本格的に採用される時代に入ったことを意味する。ARMだけでなく、Xilinx、QUALCOMM、NVIDIAといったさまざまなチップメーカーが、画像処理に特化した専用CPU(SoC)をリリースしていることからも、この市場が隆起していることが見て取れる。

スバルの運転支援システム「アイサイト」のステレオカメラ (出所:富士重工業)

従来、工業用途の画像処理は1000億円程度の市場であったため、そこで活躍する技術者の数は限られていた。しかし、BtoC市場が画像処理を採用し始めると、シリコンバレーを中心とする優秀な技術者が大挙して画像処理の研究開発をすることとなり、技術革新がさらに加速する状況となっている。自動車の自動走行などはその典型的例であるが、それ以外にも写真の自動仕分けのための顔認証などその用途はさまざまである。以下に画像処理が用いられる産業を、カメラのコストが高い順に並べて記す。

コンシューマー向けカメラを製造しているメーカーと、FA向けのカメラを製造しているメーカーとでは、カメラの設計コンセプトも設定する価格もまったく異なる。工業向け画像処理では(1)長期保証、(2)高品質、(3)高性能が求められる。工業向けのユーザーからすると、コンシューマーのカメラは毎年のようにモデルチェンジしてしまうと装置を開発しなおす必要があったり、ちょっとした静電気で壊れてしまったり、メーカーは不具合解析などに付き合ってくれない、画質は品質検査を行うのに耐えうるものではなくといったことが理由で大きな隔たりがある。

例えば、ロボット掃除機に搭載するカメラは、室内の様子が見れればいいので画質は極めてシンプルなものしか取れない。そして、静電気によって壊れてもそこまで大きな問題はないため、基板設計の際には保護回路などを設ける必要がないのでコストも下げられる。センサーがモデルチェンジしても部屋の絵に大きな影響を与えないので、カメラがモデルチェンジすれば新しいモデルを搭載すればいいだけである(画質が変わることでシステム全体を再設計する必要はない)。

しかし、前述の通りFA市場が成熟化してきた現在において、FA向けカメラメーカーは新たな活路を見出すために下方向に市場規模を拡大しようとしている。コンシューマー向けや自動車向けのカメラメーカーたちもその市場規模を拡大しようと、(1)長期保証、(2)高品質、(3)高性能をできるだけカバーする形で上方向に進出している。近い将来のうちに、FA市場の中で戦い合っていたカメラメーカーたちは、コンシューマー向けカメラメーカーという新たな競合と中間層の市場で激突することになるであろう。

それぞれの市場において、(1)長期保証、(2)品質、(3)性能、(4)価格という観点でそれぞれの異なる要求がある。いずれにしてもキーとなるのは、求められる性能を、いかに低コストで提供できるかにかかっている。そのためには、求められる機能を求められる分だけ搭載して無駄を一切削る、そしてコストが抑えられる部材をあらゆる市場から発掘して採用する、といった絶え間ない努力が必要となる。

これまでは2次元のカメラについて議論してきたが、もう1つ忘れてならないのが3次元カメラの出現である。高さ情報(奥行情報)を得るためにさまざまなセンサーがこれまで研究されてきたが、いよいよここでも大きなブレークスルーが起ころうとしている。次回は3次元カメラの市場について詳しく解説する。

著者紹介

村上慶(むらかみ けい)/株式会社リンクス 代表取締役

1996年4月、筑波大学入学後、在学中の1999年4月、オーストラリアのウロンゴン(Wollongong)大学に留学、工学部にてコンピュータ・サイエンスを学ぶ。2001年3月、筑波大学第三学群工学システム学類を卒業後、同年4月、株式会社リンクスに入社。主に自動車、航空宇宙の分野における高速フィードバック制御の開発支援ツールであるdSPACE(ディースペース、ドイツ)社製品の国内普及に従事し、国内の主要製品となる。2003年、同社取締役、2005年7月、同社代表取締役に就任。

同社代表取締役に就任後は、画像処理ソフトウエアHALCON(ハルコン、ドイツ)を国内シェアトップに成長させ、産業用カメラの世界的なリーディングカンパニーであるBasler(バスラ―、ドイツ)社と日本国内における総代理店契約を締結するなど、高度な技術レベルと高品質なサービスをバックボーンとした技術商社として確固たる地位を築く。次のビジネスの柱として2012年7月にエンベデッドシステム事業部を発足し、3S-SmartSoftware Solutions(スリーエス・スマート・ソフトウェア・ソリューションズ、ドイツ) 社の国内総代理店となる。

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インデックス

連載目次
第11回 ハイパースペクトルカメラの構造と低価格化のトレンド
第10回 ハイパースペクトルカメラとスペクトル解析の世界
第9回 三次元センサ ToF技術の応用と課題
第8回 カメラは2次元画像から+αの時代 - 「カメラ」から「センシングデバイス」
第7回 BtoCエンベデッド・ビジョン市場の隆起と工業用カメラメーカーの戦い方
第6回 ARMやLinuxといった組み込み環境の充実が新たな潮流を生む
第5回 画像処理は工場の外へ、エンベデッド・ビジョンの幕開け
第4回 マシンビジョンをリードするBaslerはレッドオーシャン化する市場でこう戦う
第3回 CCDからCMOSへ、日本が乗り遅れたセンサーのトレンド
第2回 日本がついていけなかったインターフェーストレンドの変化
第1回 マシンビジョンとは

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