盗み聞きするならルノアール

盗み聞きをしに行くならルノアールって決めています。盗み聞き界では比較的メジャーなスポットではありますが、あの場所にはこの世界の闇が詰まっているのです。行くとだいたい何かの契約を交わしていて、その多くが浄水器や台所用品、よくて保険。まれに、ワークショップらしき催しをやっていることも。

何かを力説する男女一組&教えを請う若い女性2人の、4人の組み合わせと隣の席になったときは、見つめあって「ありがとう、ありがとう、ありがとう……」と繰り返し声に出すワークショップをやっていて、それを見て私、一生ルノアールに添い遂げることを誓ったのでした。その4人は、最終的に宇宙と繋がっていました。

午前11時、おばさま女子会

そんな懐の深いルノアールではありますが、奴らも一応、喫茶室。別段、お金とかスピリチュアルが絡んでいないお客さんだってちゃんといます。午前11時頃。お昼より少し前の中途半端な時間帯に、主要駅から少し離れた住宅街のルノアールへ行くと遭遇しやすいのが、おばさま女子会です。

午前中の家事も一段落ついて、近所の友人と喫茶店へとしゃれ込んだ、といったところでしょうか。ぞろぞろと4、5人で、アイスティーや柚子ティーを注文します。面々は、「これ女子会だからグワッハッハッハッ!!」と、ときどき照れつつ「女子会」だと強調。いいねぇ。いくつになっても"女子"を気取りたいようでもなく、ちょっとそう言ってみたかったのよ感がひしひしと伝わってきて好感が持てます。

ボスとおぼしきノブ子……はっきりした力関係

しばらく観察していると、どうやら、会話の主導権は基本的にボスとおぼしき真ん中に座っている女性(仮にノブ子とします)が握っている模様。ノブ子「ヨシ子(仮名)はダメよ! その色は似合わないのよ! もっと濃い色を使わなきゃ」などと、ヨシ子へのダメ出しに次ぐダメ出し。

この集団はそれぞれの力関係がはっきりしているようで、ノブ子中心にまわる流れに乗っかっていく横の席のヒデ子(仮名)。黙ってニコニコ頷いている向かいの席のヤス子(仮名)。もう、こうなったら、ちょっとした戦国時代です。私の頭の中では、ノブ子が天下統一しかかっていて、すんでのところで、ホトトギスのことも殺してしまへ、とかやり出しかねない状態に……。

「女子会の布陣」(イラスト:朝井麻由美)

と、こんな具合に終始和やかに会は進んでいたのでした。文字面にすると少々物騒ですが、油断すると鉄砲隊とか出てきそうですが、本人たちは至って楽しそうなんですよね。各々が各々の役割を理解していて、ノブ子はノブ子の、ヨシ子はヨシ子の、場を仕切って毒を吐く立ち位置、それを受ける立ち位置、と暗黙の了解のようなものがあります。

20代後半の女子会でも同じことが……

それにこれ、何もおばさま女子会に限った話ではないはず。と思っていたら、やっぱり後日、20代後半女子の集いにて同じ構図になっているのを見かけました。舞台をルノアールからフルーツパーラーに変えて。アラサーだし、うちらこうやって女子だけでかたまっちゃうからダメじゃん?」などとよくある恋愛論を語って、ダメ出しをするボス格のA子、されるB子、経過を見守るC子。おばさま女子会とまったく同じ経過をたどっていました。女子だけで集まったときに最も起こりがちな布陣なのかもしれません。

本人たちは互いに何ら不満はない(ように見える)とはいえ、外側から見ている身としては、場がノブ子やA子のオンステージになっているのはなんとも滑稽。そしてこれ、その集団の中での年齢やキャラなどの立ち位置によっては、実は多かれ少なかれ誰でもなりかねないポジションです。もしも今後の人生で、うっかり自分がノブ子のように振る舞ってしまったら、自害していきたい所存です。本能寺あたりで。

<著者プロフィール>
朝井麻由美
フリーのライター・編集者。主なジャンルはサブカルチャー/女子カルチャーなど。体当たり取材が得意。雑誌「ROLa」やWeb「日刊サイゾー」「マイナビニュース」などでコラム連載中。近著[構成担当]に『女子校ルール』(中経出版)。Twitter @moyomoyomoyo