週末の夜、駅近のスペインバルに女性が2人……

その2人は、一見してなごやかに恋愛話をしているようでした。週末の夜、駅の近くのこじんまりとしたスペインバルにて。話題は、片方の女性(仮にミツコとします)が最近言い寄られたという話。それ自体は何ら不思議ではないけど、どこか違和感がある……。

ミツコは目の前の女友達に、やれ先日の会社の飲み会でダレソレの視線をほしいままにした、やれ上司にバーに誘われた、と熱弁しています。もう、熱弁も熱弁。そのプレゼン力に、そのほとばしる熱意に、思わず私は耳を傾けたわけです、小エビのアヒージョもそこそこに。

対してミツコの女友達のほうというと、至極穏やかに、物腰柔らかに受け答えしています。ミツコを褒め、持ち上げ、一切否定しない。菩薩か、マリア様か、はたまたミツコのカウンセラーなのか。

ミツコ「でね、そのときAさん(上司)がバーに誘ってきてね」
女友達「へー、すごーい!」
ミツコ「でも私は断ったんだけど!」
女友達「えー、そうなんだ!」

……聞きました? 相手の女友達ときたら、「へー」「そうなんだ」「すごーい」という、対つまらない話用の兵器を3つ連続で使って全身から苦痛の症状を訴えています。にもかかわらずです。

ミツコ「私、会社ではお酒飲めない系で通ってるから。うふふ」
女友達「女の怖さを感じるよね~(笑)」

それでもなお、女友達のほうは、「女の怖さを感じる」などとミツコの女としてのプライドをくすぐる褒め言葉を投げかけているのです。なんなの。何かのセミナーなの? 褒め続けるワークショップか何かなの? ツボ売るの?

「相手を褒める一辺倒」「攻守交代の瞬間がない」会話

この2人の会話の中で最も妙だと思う点に、「相手を褒める一辺倒」「攻守交代の瞬間がない」が挙げられます。通常、仲の良い女友達が2人で話す場合、相手の言動についての不備を指摘したり、会話に出てくる人物について検証したりし、適度な間合いで攻守交代を繰り返して進んでいくもの。本来ならもっと、ミツコの言う"上司のAさん"を槍玉にあげたり、ミツコの語る恋愛テクについて異を唱えたり、するものじゃないの、と。で、ある程度のところでミツコが聞き役に回るんじゃないの、と。あまりに、攻守のバランスが悪すぎるのです。

腑に落ちない気持ちを抱えながら、帰り際にミツコのほうの顔をちゃんと見ることができて、答えがわかった。私の席からは、女友達(吉高由里子似)の顔しか見えていなかったのです。ミツコは、光浦靖子似でした。つまり、吉高由里子が、光浦靖子に、「女の怖さを感じるよね~(笑)」って言っていたわけです。女の怖さを感じたのはこっちだよね……。

「不自然にホメられたらツボ売りと思え!!」(イラスト: 朝井麻由美)

攻守バランスの悪い会話……女2人の関係性は?

この会話における女友達(吉高)の心情を述べるとしたら、たぶん、こうです。

●自分が吉高で、相手が光浦で、という客観的事実については自覚している。

●数少ない(であろう)ミツコの恋愛エピソードにツッコミを入れてしまったら、上から目線に見えてしまう。ゆえに、褒め一辺倒しか手立てがなかった。

●ミツコのことは大事な友達だと思いつつも、いくばくかの優越感がある。

もしも、たとえ吉高と光浦の組み合わせだったとしても、攻守バランスよく会話していれば特に違和感は持たなかったんですけどね。皆様におかれましても、街中で女2人が話していた際、あまりに片一方が相手を持ち上げてばかりだったら、2人の関係性を疑って下さいね。対等な関係じゃないか、または、ツボを売るかセミナーに勧誘しているかのどちらかです。

<著者プロフィール>
朝井麻由美
フリーのライター・編集者。主なジャンルはサブカルチャー/女子カルチャーなど。体当たり取材が得意。雑誌「ROLa」やWeb「日刊サイゾー」「マイナビニュース」などでコラム連載中。近著[構成担当]に『女子校ルール』(中経出版)。Twitter @moyomoyomoyo