【連載】

NASA、人類未踏の地・木星トロヤ群と金属の小惑星に探査機打ち上げへ

1 どこからやってきた? 木星トロヤ群小惑星の謎の解明を目指す「ルーシー」

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米国航空宇宙局(NASA)は1月5日(日本時間)、月・惑星探査計画「ディスカヴァリー計画」において、次に実施するミッションとして、木星トロヤ群小惑星を探査する「ルーシー」と、小惑星帯にある鉄やニッケルでできたM型小惑星「プシューケー」を探査する「サイキ」の2つを選定した、と発表した。

ルーシーは2021年10月に打ち上げ予定で、2027年に木星トロヤ群に到着。約6年かけて6つの小惑星に接近して探査する。一方のサイキは2023年10月に打ち上げ予定で、2030年にプシューケーに到着。周回軌道に入って探査を行う。

木星トロヤ群小惑星も、M型小惑星も、これまで地上や宇宙から望遠鏡で観測されたことしかなく、探査機が訪れて探査をするのは初めてとなる。この人類未踏の地に挑むのはどんな探査機なのか、またこれらの天体を探査する意義は何なのかについて見ていきたい。

木星トロヤ群小惑星を探査する探査機「ルーシー」の想像図 (C) SwRI/NASA

木星トロヤ群小惑星の想像図。あくまで想像図なので、実際より誇張して描かれている (C) NASA/JPL-Caltech

ディスカヴァリー計画

ディスカヴァリー計画はNASAの宇宙科学プログラムのひとつで、定期的にNASA内部や大学などから提案を集め、そのなかから優れたものを選び、実際に開発、打ち上げ、運用を実施する。計画は1992年に始まり、世界初の小惑星探査をなしとげた「ニア・シューメイカー」や、火星探査ローヴァーの「マーズ・パスファインダー」、彗星のかけらを持ち帰った「スターダスト」、彗星に弾丸を撃ち込んで探査した「ディープ・インパクト」など、これまで12機が同計画のなかで実施されている。

ディスカヴァリー計画のコンセプトは、1992年当時のNASA長官ゴールディン氏の掲げた「faster, better, cheaper (より早く、より良く、より安く)」という方針が根底にある。

当時、惑星探査機は大規模のものが多く、大きな成果が期待できる一方で、開発が長引き打ち上げ数や機会が少なくなったり、最新の機器が搭載できなかったり、参加できる科学者が限られていたりといった弊害も抱えていた。

そこで小規模な探査計画を数年おきに連続して立ち上げ、その時その時の科学者の要求に応じて、さまざまな天体へ続々と探査機を送り込み、常に最新の成果を得られるようにし、なおかつ小規模なのでコストも安価に済む、という考えからディスカヴァリー計画が立ち上げられた。もっとも、小規模でコストが安いとは言っても、1ミッションあたりの予算は400~500億円ほどで、今回は4億5000ドルとされる。他国、とくに日本からすれば十分潤沢な額である。さらにNASAにはディスカヴァリー計画よりも予算規模の大きなプログラムもある。

今回のディスカヴァリー計画の選定にあたっては、まず20を超える提案があり、そのなかからルーシーとサイキのほか、赤外線望遠鏡を使って地球に衝突する可能性のある小惑星を見つける「NEOCam」、金星を周回しながら地表を詳細に観測する「ヴェリタス」(VERITAS)、金星の大気に突入し、降下しながら大気を観測する「ダヴィンチ」(DAVINCI)の5つが候補に残り、そして今回、最終的にルーシーとサイキが選ばれた。

次期ディスカヴァリー計画のミッションとして選定されたルーシー(左)とサイキ(右) (C) SwRI and SSL/Peter Rubin

人類未踏の世界、木星トロヤ群小惑星

ルーシーが目指すのは木星のトロヤ群というところにある複数の小惑星である。トロヤ群は木星の公転軌道上の"前"と"後ろ"、違う言い方をすれば太陽と木星と正三角形をなす2つの場所のこと。より専門的な言葉でいうと、太陽・木星系のラグランジュ点のL4とL5を指す。

ここは太陽の重力と木星の重力、そして物体にかかる遠心力の3つの力が釣り合うため、小惑星などが安定して存在し続けることができる。実際、木星のトロヤ群にはこれまでに発見されているだけでも、実に6000個を超える小惑星があることがわかっている。

木星トロヤ群の場所を示した図。中央に太陽、右に木星があり、それと正三角形となる図の上下にある、小惑星(緑色の点)が集まった場所がトロヤ群 (画像はパブリック・ドメイン)

しかし、この木星トロヤ群小惑星がどうやってできたのかは、まだ謎につつまれている。今から約46億年前に太陽系ができた際、木星やその衛星になりきれなかった残骸がその正体だとかつては考えられていた。ところが2005年に、エッジワース・カイパーベルト天体(EKBO)という、木星より、さらに海王星よりも外側にある天体がやってきて、現在の木星トロヤ群小惑星の位置に収まった、という説が唱えられ始めた。

一方、火星と木星とのあいだの小惑星帯(メインベルト)にある小惑星は、木星の重力の影響で惑星になれなかった残骸と考えられている。そこで小惑星帯の小惑星と、木星トロヤ群にある小惑星とを比べることで、木星トロヤ群小惑星が本当にEKBOからやってきたものなのかどうか、そして太陽系ができたころの姿はどのようなものだったのかを知ることができると考えられている(詳細は『この宇宙に帆を広げて - JAXAの「宇宙帆船」が赴くは木星トロヤ群小惑星 (1) 「木星トロヤ群小惑星」の素顔を明らかにするミッション』をご参照ください)。

ルーシーが解き明かす太陽系の起源

これまで木星トロヤ群は、地上や宇宙から望遠鏡で観測されたことしかなく、ただの1機も探査機が訪れたことはない。その未踏の世界に、ルーシーが初めて訪れる。

ルーシーはNASAと米国の研究機関サウスウエスト研究所(SwRI)が主導するミッションで、その名前は1974年に発見された、約318万年前に生きていたとされる1人のアウストラロピテクスの化石「ルーシー」にちなんでいる。今ではルーシーよりもさらに古い時代に生きていた人の化石が発見されているが、人類の進化の歴史を紐解くにあたって大きな手がかりとなった。探査機のルーシーも同じように、太陽系の誕生の歴史を解明するための手がかりをつかむことを目指している。

ルーシーの想像図 (C) SwRI/NASA

打ち上げは2021年10月の予定で、まず2025年4月に火星と木星のあいだの小惑星帯にある小惑星「ドナルドジョハンソン」を探査する。小惑星帯は本来の目的地ではないものの、木星圏までの航路の途中でちょうど通過するため、観測しない手はないといったところだろうか。この天体は直径3.9kmで、表面の岩石の中に有機物などを多く含むと考えられている「C型小惑星」と推定されている。

ちなみにドナルドジョハンソンという名前は、化石人類のルーシーの発見者であるドナルド・ジョハンソン氏にちなんでいる。よくできた話だが、もちろんこれは仕組まれたもので、2015年に、当時まだ愛称のなかった「1981 EQ5」という小惑星をルーシーがちょうど通過し観測できることがわかり、それならばと、後付けでドナルドジョハンソンと名付けたのである。

ドナルドジョハンソンを通過後、さらに航行を続け、2027年8月に木星圏に到達する。そしてまず、木星前方のトロヤ群(L4)にある小惑星「エウリュバテース」を探査する。エウリュバテースは直径64kmのC型小惑星と推定されている。

続いて同年9月には「1999 WB2」を探査する。この星は直径21kmで、有機物を含む、ただしC型よりもさらに原始的な「P型小惑星」と考えられている。

2028年4月には「レウコス」を通過。レウコスは直径34kmで、P型小惑星のように、有機物を含むもC型よりもさらに原始的で、またトロヤ群小惑星の大部分を占めると考えられている「D型小惑星」とみられている。さらに同年11月には「オルス」を探査する。オルスは直径51kmのD型小惑星と考えられている。

そして、ミッションの締めくくりとして、2033年3月には木星後方のトロヤ群(L5)にある「パトロクロス」を訪れる。パトロクロスは直径113kmのP型小惑星で、また直径104kmのP型小惑星「メノイティオス」と共に公転している、二重小惑星であると考えられている。

打ち上げからミッション終了まで約12年、木星トロヤ群の探査だけでも約6年という長期のミッションになる。

ルーシーの探査計画の案 (C) USRA-Houston

これらはすべてフライバイ観測と呼ばれる、観測対象の天体のそばを通過する瞬間を狙って、その天体にカメラやセンサを向ける、というやり方で観測する。多くの惑星探査機のように周回軌道に乗ってじっくり観測するようなことはできないが、そのぶん必要なエネルギーが少なく済むため探査機を小規模にでき、また複数の天体を観測できるという利点もある。

ルーシーの機体や観測機器は、2015年に冥王星を探査し現在は別の天体に向けて航行中の探査機「ニュー・ホライズンズ」や、現在小惑星「ベンヌ」に向けて航行中の探査機「OSIRIS-REx」の技術を活用して造られる。たとえばカメラはニュー・ホライズンズに搭載されているものを改良したもの、熱放射分光計はOSIRIS-RExに搭載されているものと同型のものを搭載し、開発・運用メンバーも参加するという。

最も異なるのは電源で、ニュー・ホライズンズはプルトニウム238が崩壊するときに出る熱を利用して発電する放射性同位体熱電気転換器(RTG)を搭載しているが、ルーシーは巨大な円形の太陽電池をもつ。ニュー・ホライズンズが訪れた冥王星は太陽の光がとても弱いためRTGを使わざるを得なかったが、木星では冥王星ほど太陽光が弱くはなく、しかしそれでも探査機を動かすためには巨大な太陽電池が必要、という事情がある。

ルーシーの主任研究員を務めるHarold F. Levison氏は「ルーシーによる木星トロヤ群小惑星の探査はとてもユニークな機会です。トロヤ群小惑星は、太陽系のなかの外惑星をつくった原料の残りであり、また太陽系の歴史を解き明かす重要な鍵を握っていると考えられています。人類の祖先の化石であるルーシーのように、探査機ルーシーも太陽系の起源の理解において、革命をもたらしてくれるでしょう」と語る。


そしてNASAはルーシーと同時に、小惑星帯にある鉄やニッケルでできたM型小惑星「プシューケー」を探査する「サイキ」も選定した。M型小惑星もまた、まだ探査機が訪れたことのない未踏の地である。

(第2回に続く)

【参考】

・NASA Selects Two Missions to Explore the Early Solar System | NASA
 https://www.nasa.gov/press-release/nasa-selects-two-missions-to-explore-the-early-solar-system
・Southwest Research Institute (SwRI) 2017 News Release - SwRI to lead NASA’s Lucy mission to Jupiter’s Trojans
 http://www.swri.org/9what/releases/2017/nasa-lucy-mission-jupiter-trojan.htm#.WG7iNWVDSHs
・http://www.hou.usra.edu/meetings/lpsc2016/pdf/2061.pdf
・https://planetary.s3.amazonaws.com/assets/resources/NASA/Lucy_Flyer.pdf
・The impact rate on giant planet satellites during the Late Heavy Bombardment in the Nice 2 Model
 http://www.lpi.usra.edu/meetings/lpsc2013/eposter/2772.pdf
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インデックス

連載目次
第3回 日本が逃す木星トロヤ群小惑星への一番乗り、逃すかもしれない小惑星資源
第2回 宇宙に行って惑星の内部を直接探る - 金属質の小惑星に挑む「サイキ」
第1回 どこからやってきた? 木星トロヤ群小惑星の謎の解明を目指す「ルーシー」
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