イングランド北部の文化の中心地、ヨークまではロンドン(キングス・クロス駅)から電車で2時間。ちょうど、スコットランドの首都エディンバラとロンドンの中間に位置しています。

ステーション・ロード(Station Road)から臨むヨーク・ミンスター

紀元前71年にローマ人がこの地に都市を築いて以来、デーン人、ヴァイキング、ノルマン人など度々の異なる民族の侵入を受け、幾度となく破壊と建設を繰り返してきたヨーク。異なる民族の異なる時代の文化が共存する、独特の雰囲気を持つ美しい街で、「イギリス歴史の縮図」とも言われるほどです。ローマ人によって築かれた街を取り囲む城壁や、街のあちこちに残る、ノルマン言語に由来する地名(「通り」を意味するgateや、「城門」を意味するbarなど)からもその名残が窺えます。

最初に城壁を築いたのはローマ人ですが、現在残っている城壁のほとんどはノルマン人によって築かれたもので、全長はなんと約5キロにも及びます(現存する中世の外壁としてはヨーロッパ最大)。また、城壁には正門であるミクルゲート・バー(Micklegate Bar)、現存する最古の城門と言われるブーサム・バー(Bootham Bar)、凝ったデザインの美しいモンク・バー(Monk Bar)、最も保存状態がよいウォームゲート・バー(Walmgate Bar)の4つの城門があり、城壁沿いを一周して、これらの城門を比較してみるのも面白いでしょう。

ヨーク大聖堂側から眺めるブーサム・バー。その一部はローマ時代に作られた

ヨークの街は見所が多く、ざっと見てもまるまる1日はかかってしまいます。主な観光名所は大聖堂周辺に集中しているので、まずこの周辺の見所を押さえてから、ゆっくりと街の見物を楽しむのがよいでしょう。

まず、最初に訪れたいのはヨークの街のシンボル、ヨーク・ミンスター(York Minster)。ヨーク駅を降り立つと目に飛び込んでくる城壁に沿って歩き、ウース川(River Ouse)を渡ると、ヨーク・ミンスターが正面にその壮麗な姿をあらわします。

ウース川にかかる、レンダル橋(Lendal Bridge)

レンダル橋の側で見かけた古い建物。こう見えてもカフェ

ヨークの街のシンボル、壮麗なヨーク・ミンスター

ヨーク・ミンスター(は、第4回のカンタベリー大聖堂と肩を並べるほどの権威を持ち、英国国教会北管区の本山として知られています。建物はイギリスで最大のゴシック様式であるばかりでなく、内部のステンドグラスも中世のものでは世界最大級のものとなっています。特に、東側の壁にあるステンドグラスは、高さ約23メートル、幅約9メートルもあり、非常に見ごたえがあります。私もイギリスで数々の大聖堂を見てきましたが、迫力といい、美しさといい、一番感動を覚えたのがこのヨーク・ミンスターです。

ヨーク・ミンスターの周辺は、イギリスの中世の街の雰囲気が最も濃く残るエリア。中世の街の典型である、複雑に入り組んだ狭い石畳の通りの両側には、煉瓦やティンバーからなる古い建物がずらりと並んでいます。

(上)目を奪われるほどに美しい、ステンド・グラス(ヨーク・ミンスター内)(右)広々としたヨーク・ミンスターの中。内部からもこの大聖堂がいかに大きな建物であるかよく分かる

チョークで絵を描くパフォーマンス中の、大道画家(ヨーク・ミンスター前)

シャンブルズ(Shambles)は、その代表的な例。中世の建物がそのままの形で保存されています。当時は肉屋が軒を連ねていたというこの通りの建物は、上の階にいくほどせり出した、風変わりな造りになっています。そのわけは、せり出した部分に肉を吊るし、できるだけ日光を避けて肉が長持ちさせるため。それらは当時の人々の工夫によるものですが、現在は小粋なお店が軒を連ね、当時の肉屋通りの面影はまったくと言っていいほどありません。

中世の雰囲気たっぷりのシャンブルズ

シャンブルズの"せり出し部分"で突然のにわか雨に雨宿りする人々

シャンブルズのすぐ裏手には、火曜日から土曜日まで食料品や生活用品などを売る店のストールが立ち並びます。このマーケットには、観光客もさながら地元の人も多く訪れます。私はここで、良質の毛糸玉に巡り会えましたよ!

ヨーロッパ最大の城壁があるのなら、ヨークにはさぞ大きな古城があるに違いない、と思われるかもしれませんが、ヨークの古城はその期待に反して小じんまりとしたものです。ノルマンが築いた城にあたるのが、街の中心部の南東側に位置するクリフォーズ・タワー(Clifford’s Tower)。ランドマークでもあるこの場所から見下ろすヨークの街の景色は実に見事です。向かいには、ヨークのヴィクトリア朝時代の様子などを再現した人気の博物館、キャッスル・ミュージアム(Castle Museum)があります。

丘の上にそびえ建つ古城。丘の上から街が一望できる

古城の向かいに位置する、キャッスル・ミュージアム(Castle museum)。民族博物館となっている

また、ヨークは「鉄道の街」としても有名で、世界中の鉄道マニアがぜひ訪れてみたい場所の一つにもなっています。イギリス最古にして(1928年創立)、世界最大規模の鉄道博物館(York Railway Museum)があり、世界初の蒸気機関車、ロケット号の復元車両やヴィクトリア女王を乗せた車両など、現代までの数々の機関車や客車が展示されています。家族連れの方も存分に楽しめる博物館です!

ヨークシャー・ミュージアム・ガーデンズ(Yorkshire Museum Gardens)内の風情のある修道院跡

ちなみに、ヨークのあるヨーク州は「ヨークシャー・プディング(Yorkshire pudding)」の発祥地。日曜日にパブなどでサンデー・ローストを頼むと必ずついてくるのが、ヨークシャー・プディングなのですが、プディング(イギリスではデザートの意味)というよりは、シュークリームくらいの大きさのしっとりとした食感のパイのようなもの。イギリスの家庭料理では定番中の定番のヨークシャー・プディングを、ヨークのパブで召し上がってみてはいかがでしょうか。

次回は、世界最大のミステリーの一つ、巨大な奇岩で有名なストーンヘンジへと出かけます。