こんにちは(サンフランシスコ時間 12/14 午前6時)

佐々木 こんにちは(日本時間 12/14 午後11時)

今回は私がサンフランシスコに出張しているので時差つきの対談になっているのですが、ネットの技術で場所を問わずに仕事ができる時代になったとはいえ、時差と人間の体力の限界だけはなかなか超えられませんね。

佐々木 『仕事をするのにオフィスはいらない』(光文社)という佐々木俊尚さんの著書のお話ですね。私もあの本を読んで大変面白いと思ったのですが、ふだんから飛行機で海外へ出張する人はともかく、国内で、通勤電車が主要な乗り物という私たちには、あまり関係のない話のようにも思えたのですが。

私も最初この本の一番の目玉は「出先で仕事をする」の部分だと思ったのですが、滅多に時差を越えることなく、ふだんはオフィスにいて働いている人にとっては「アテンション・コントロール」のお話の方が参考になる点は多かったように思います。「仕事はどこでもできる」ということを受け入れると、あとは「いますべきか」「いまそれをするだけの集中力が残っているか」という判断基準だけが残っているという話です。

佐々木 ロバート・E・セイヤーという心理学者が『毎日を気分よく過ごすために』(三田出版会)という本の中で、1日の精神的なエネルギーサイクルという概念を提唱しているのですが、いつでもどこでも仕事ができる環境が整ったら、次には「そのタイミングできちんと仕事ができるか?」ということと「必要な際にエネルギーが残っているか?」を問題にしなければならないわけですね。そうしないと、環境がいくら整っていたとしても、時間を活性化することができませんから。

たとえばiPhoneを使えば電車の中で立っていても文字が素速く入力できる

43FoldersのMerlin Mann氏も生産性というものは、結局「時間」と「アテンション」の管理が本質なんだという結論に達していましたが、それに近いですね。

佐々木 少し具体的に考えると、普通の私たちとしては、どんなところで、どのようなツールを使えば、あらゆる時間を活性化する方向へ近づけるでしょうか?

おそらく、ふだん普通にオフィスで働いている人が無理をして外で仕事をするよりも、ふだん活性化できていなかった時間を利用できないか再検討するのが「ふつうの人のためのノマドワーキング」なのでしょうね。たとえば、Pocket Wi-Fiのようなツールが人気なのも、これまで使えなかったちょっとした移動時間、ちょっとした喫茶店での時間を仕事場に変えるために利用されてるのでしょう。

一方で、今回の出張で発見したのが飛行機のなかのような強制オフラインの環境では、先にお題を持ち込んでおいて、ポメラを使って執筆をするのがとても効率的だということでした。ポメラはテキストしか書けないという特徴がありますし、編集能力も限られていますので、飛行機内では「書きかけ」の原稿が大量に生まれました。でも書きかけだけでも作っておけば、あとでゼロから書くよりもずっと楽なんですね。ネットは使ってませんが、これも「飛行時間」の活性化という意味で立派なノマドワーキングといえると思います。

飛行機の中のような強制オフラインの環境ではポメラが力を発揮する

佐々木 私の行動範囲内でいえば、やはりiPhoneを使うことで、これまでではまず無理だったような時間の活性化ができるようになっています。具体的にいうと、電車の中で立っていてもすぐにネットにつなぐことができて、すぐに文字入力ができるので、メールの返事を電車内から戻すということが多くなってきました。問い合わせ内容も決まっているし、参考資料もいらないので、非常に限定された環境でもできます。ある意味ではこれを書斎でやるのはもったいないですよね。

そう、そういう「時間差」を生み出して、日常にちょっとした近道を作るのが「僕らのノマドワーキング」だという気がしますね。ノマドワーキングに限らず、ライフハック的な時間管理って日本の企業風土ではなじまないという人もいるのですが、企業風土が僕らの頭の中まで支配できるわけではないのですから、頭のなかは自由でいたいものですね。さて、それではこちらはそろそろ朝の仕事の時間ですので、行って参ります。

佐々木 ではこちらはそろそろ就寝の時間ですので、おやすみなさい。

対談後記(佐々木正悟)

今回の対談中に強く感じたことは、「場所も時間も選ばない」方へ向かって仕事の環境が改善すればするほど、ますます「人間の側の制約」にこそ注意を払う必要があるということでした。すなわち、私たちは疲れますし、おなかも減りますし、眠る必要もあります。そうした私たち自身の制約にあわせて、より自由なワークスタイルを確立していくことが、これから追求する価値のあることだと思います。

佐々木 正悟(ささき しょうご)
心理学ジャーナリスト

「ハック」ブームの仕掛け人の一人。専門は認知心理学。 1973年北海道旭川市生まれ。97年獨協大学卒業後、ドコモサービスで働く。2001年アヴィラ大学心理学科に留学。同大学卒業後、04年ネバダ州立大学リノ校・実験心理科博士課程に移籍。2005年に帰国。 著書に、ベストセラーとなったハックシリーズ『スピードハックス』『チームハックス』(日本実業出版社)のほかに『ブレインハックス』(毎日コミュニケーションズ) 『一瞬で「やる気」がでる脳のつくり方』(ソーテック)などある。

ブログ「ライフハックス心理学」を主催

堀 E. 正岳(ほり まさたけ)
ブロガー・気候学者

1973 年アメリカ・イリノイ州エヴァンストン生まれ。筑波大学地球科学研究科(単位取得退学)。理学博士。地球温暖化の影響評価と気候モデル解析を中心として研究活動を続けている。その一方でアメリカでライフハックが誕生したころからその流行を追い続け、最新のハックやツール、仕事術や自己啓発に至る幅広いテーマをブログ Lifehacking.jp で紹介している。 著書に、「情報ダイエット仕事術」(大和書房)、「英語ハックス」(日本実業出版社、佐々木正悟氏との共著)、Lifehacks PRESS vol2(技術評論社、共著)がある。ブログ「Lifehacking.jp」を主催