そろそろ新年を迎えるころになると、よく「今年こそはブログを始めたい! あるいは、続けたい! でもどうやったら続きますか?」という相談をされたりします。僕は文章を書くのが大好きなので、中毒のように文章を書いているうちになんとなくブログを書くようになったのですが、佐々木さんはブログを書くようになったきっかけなんてありましたか?

佐々木 そうですね。私はライフハックにおける心理学的要素というテーマにとても魅力を感じていました。しかし、話題としてはマニアックすぎて、書籍になるとか、そういう研究をして生きていこうとは思いもよりませんでした。そこであてどもなく、ウェブ日記というかたちで、そんな話を書いていたことがあるのですが、そのうちに「ブログ」という技術が登場して、ウェブ日記をブログへ移行したいと強く感じるようになって、それで始めました。

ブログという形式がとても魅力的だったということですか?

佐々木 実は、ブログという形式自体は、好きになれませんでした。というのも、「ライフハック」を「心理学的に切る」うちに、「何か」が見えてくるのではないか、というのが出発点でしたから、調査してレポートをまとめていくようなつもりでいたのです。なのに、いちいち「日付」という形式で縛られて、「日記」のように見えてしまうというのは、決して都合のいいことではなかったんです。

ああ、僕も日記を書くのは嫌でしたので、その感覚はわかります。なんだかもっと完成した何かを書こうと思うと、日記的な形式はむしろ足枷になるとブログを始める前は思ったものです。2005年にライフハックがブームになって、2007年にブログを始めるまで、2年近く「いつか日本語でブログを書く」と念じていたのですが、なんだかこの「完璧主義」が抜けずにいつまでも始められずにいたのです。

佐々木 しかし、堀さんはLifehacking.jpを始められたんですよね? そして今でも続けられていますが。

いきなりモチベーションに火を付けてくれたのは、43FoldersのMerlin MannとミュージシャンのJohnathan Coultonが「趣味でもプロになれ」というテーマで対談をしているのを聞いたときです。彼らはプロのようにコンスタントにプロダクトを生み出すことでニッチなブランド力が生まれるという話をしていて、まだ方向性を見いだせていない作家やミュージシャンこそ、たくさんものを作ることでそれが急に見えるようになってくるという逆説的なコツを教えてくれていたのですが、その一言で悟りが開いたというのか、開眼してしまったんですね。次の日には、Lifehacking.jpが始まりました(笑)。

佐々木 ブログが魅力的だったのは、形式が勝手に整うところだったと覚えています。ウェブ日記ではそこで苦労していたので。だから、「たくさんのものを作る」ということになれば、ウェブ日記よりもブログのほうがずっと理想的な技術でしたね。問題は、「たくさんのものを作る」に至るまで、継続できるかどうかにかかってくるのだと思います。僕はその点ではあまり苦労せずに済みました。

「続けるハック」っていつも質問されますが、僕もこれは不思議と苦労を感じません。続けること自体が楽しい、というのは説明しづらい状態ですけれども。

佐々木 アントニオ・ダマシオという脳科学者が言っていることなのですが、人は一貫して不快なものから遠ざかり、快楽へ近づく脳を持っているそうです。しかもそれは意識に上らないという。経験的によく思うことなのですが、習慣というのは、「気づいたら習慣になっている」ような気がしますね。脳が快を求める傾向というのは、無意識的に働いて、しかもとても強いようなのです。ブログが続く人は、自分のブログを繰り返し読み返している人だと思います。それが快感だと感じる人は、ほとんど無意識のうちに「自分のブログを読むために書く」ようになるわけです。すると、いつしか「気づいたら続いていた」ということになるのでしょう。

よいブログを書くには、まず自分で自分のブログを読み返してみる。自分のブログをよく読むことで、その反作用として書く習慣が身についてくる。

読み返せる、ということは「研ぎすまされた自分の興味の世界を作れるか?」という風にも言えますね。逆説的に聞こえそうなんですが、ブログを続けるコツって、もちろんモチベーションの問題もあるのですが、テーマをどれだけ減らせるかも重要だと思うのです。「自分の扱うものはこれとこれだけ」と決めることで、情報集めに使うRSS登録件数も減りますし、情報収集も楽になりますし、ニッチなブランド力も高まりますし、なによりも万人受けを目指すことなく、好きなことだけに集中できるから楽ですよね。自分にとって書きやすいですし、書いている毎日の方が自然になってきます。

手を広げると、話題をなんでも追いかける目立たないブログになってしまう。あえてテーマを減らして研ぎすますことで、際だった個性が手に入るだけでなく、更新のための手間も減る

佐々木 2010年からブログを始めたいと思う方はぜひ、一番「濃いネタベスト10」から始めて、全部書いたら読み返してみることをおすすめします。「それではすぐにネタ切れになってしまう」と思うかもしれませんが、騙されたと思ってやってみてください。読み返してみて十分に面白いと思う頃には、新しいネタがどんどん頭に生まれてきているはずです。

その通りだと思います。「誰も自分のブログを読んでいない」とおっしゃる方もいますが、そんなときに時事ネタや誰もが扱ってる話題の追随に流されずに、あくまで自分の好きなことを30日間ほど偏執的に書き続けるのがいいと思います。1月が終わる頃には、どんな濃いブログができていることか(笑)

対談後記(堀正岳)

続かないブログの多くは、テーマが定まっていない、話題が定まっていない、誰に読んでほしいという読者が定まっていないなど、一言でいうならアピールできる「濃さ」が足りないものが多いように思います。これまでブログを続けられなかった人は、思い切ってテーマをしぼりこんで、その範囲で自分が持っている最良のコンテンツを星座のように散りばめてみてください。それを続けるうちに、記事と記事のつながりから新しいネタがどんどんと生まれる「ブログ脳」が誕生するはずです。

佐々木 正悟(ささき しょうご)
心理学ジャーナリスト

「ハック」ブームの仕掛け人の一人。専門は認知心理学。 1973年北海道旭川市生まれ。97年獨協大学卒業後、ドコモサービスで働く。2001年アヴィラ大学心理学科に留学。同大学卒業後、04年ネバダ州立大学リノ校・実験心理科博士課程に移籍。2005年に帰国。 著書に、ベストセラーとなったハックシリーズ『スピードハックス』『チームハックス』(日本実業出版社)のほかに『ブレインハックス』(毎日コミュニケーションズ) 『一瞬で「やる気」がでる脳のつくり方』(ソーテック)などある。

ブログ「ライフハックス心理学」を主催

堀 E. 正岳(ほり まさたけ)
ブロガー・気候学者

1973 年アメリカ・イリノイ州エヴァンストン生まれ。筑波大学地球科学研究科(単位取得退学)。理学博士。地球温暖化の影響評価と気候モデル解析を中心として研究活動を続けている。その一方でアメリカでライフハックが誕生したころからその流行を追い続け、最新のハックやツール、仕事術や自己啓発に至る幅広いテーマをブログ Lifehacking.jp で紹介している。 著書に、「情報ダイエット仕事術」(大和書房)、「英語ハックス」(日本実業出版社、佐々木正悟氏との共著)、Lifehacks PRESS vol2(技術評論社、共著)がある。ブログ「Lifehacking.jp」を主催