堀正岳(以下 堀) 年末が近くなると手帳のシーズンという感じですが、佐々木さんはもう来年の手帳は買われましたか? それともiPhoneだけですべてをマネージメントしますか?

佐々木正悟(以下 佐々木) メインはiPhoneですが、ごく一時的なタスクはロディアに書き、検討を加えたいようなアイディアについてはモレスキンを援用します。

僕がモレスキン愛好家ということを僕のブログを読んでいる人はご存じだと思いますが、今年は思い切ってモレスキンのデイリー・ダイヤリーを買って、自分の時間ログをつけようかと思っています。予定を入れたりする、いわゆる手帳の役割はiPhoneが中心ですが、こうした時間の使い方のキャプチャーは紙でやろうかと思っています。

佐々木 最近は「手帳」と一口に言っても、実に様々なものが出回ってきましたね。

でも実はここ数年、これまでの固定化されたシステム手帳から「さらに自由な手帳」へと移行するようなトレンドがみえる気がしています。手帳の使い方が理解され、定着するにつれて、多くの人がそうした「自分らしさ」を求めて移行しているのかなあ、と。

佐々木 自分に合わせて自由に選択したいという潜在的な欲求に、市場がやっと応えられるようになったということかもしれませんね。

手帳って、「自分の手帳こそ最高」とみんな思うものですからどれが正解ということはないですが、あえてここではフリースタイルの手帳の代表例として「ほぼ日手帳」と「モレスキン・デイリー・ダイヤリー」のスタイルを比較してみたいと思います。

ほぼ日手帳

モレスキン

佐々木さんは、ほぼ日手帳使われたことがあるのですよね?

佐々木 はい。2年ほど使ってみました。僕は「ある日の自分にお知らせをする」ために、できるだけ「未来を埋める」ような使い方をしていました。

「未来を埋める」んですか? それって予定を決めるのとは違うのですね。

佐々木 たとえば、11月23日(月)は「フィットネスクラブ休み」というようなことをその日付にメモ書きしておく。そして、毎朝「その日の自分へのニュース」を確認する習慣をつけていました。この仕組みで、「その日に注意すべきこと」を忘れなくなると言うのが狙いでした。

以前に堀さんが、玄関前にゴミ袋を置くと、ゴミ出しを忘れない、というライフハックを紹介されていましたが、僕の場合はほぼ日手帳を使ってそれを時間軸の上で実現したかったのです。

なるほど、システム手帳でもできそうですが、ほぼ日手帳のフリーな感じが、不思議とこういう使い方を引き出すのがわかります。

佐々木 なぜこれがほぼ日手帳だとよかったかというと、基本的に「1日分」しか見えないので、その日のことに集中できたからだと思います。スペースも大きいので、「ニュース」を好きなだけ書き込めましたし。

実は僕も一時期使ったことがあるのですが(今は奥さんに譲ってます(笑))、ほぼ日の方眼は気持ちのいい大きさで、文字やイラストを描きたくなってきます。アイディア、イラスト、写真や雑誌記事のスクラップを自由な場所に配置して矢印でつないでゆくのが楽しかったです。

モレスキン

モレスキン・デイリー・ダイアリー

佐々木 堀さんはモレスキンをお使いですが、今年買ったというデイリー・ダイアリーをどう使う予定でいるのか、詳しく教えていただけますか?

たぶん、とても変な使い方になりそうなのですが、将来の予定や連絡先、ToDoはiPhoneを使っていますので、紙の手帳は「時間をどのように利用したか」というログのために利用すると思います。今年モレスキンは、ものすごい数のカレンダー手帳をだしているのですが、ウィークリー手帳はこの目的には少し手狭なので、ページ数は大きいですがデイリーにしています。

佐々木 あえてうかがいますが、モレスキンを選ぶ利点は?

なんといってもモレスキンの場合、文字を書きやすい罫線と、酷使に耐える堅牢さが魅力です。長い間保存したい情報ですから、少しお金がかかってもそれは投資だと思っています。文字で物事をとらえる人には、迷わずモレスキンをおすすめしています。

手帳選びのポイントは

よく思うのですが、手帳って、人生の伴侶のようにいつも「向き合って」いるものですので、将来の予定や希望、現状に対する反省といったものをいれてゆくと長続きすると思っています。こうしたファジーなデータはiPhoneは苦手ですよね。

佐々木 特に今のように、デジタルツールが急速に発達してきた環境では、「手帳」の特徴とは「紙ということ」だと思います。紙のメリットは「書き込むためのモチベーションが圧倒的に少なくてすむこと」だと感じます。「書いた方が話が早いのだけど、面倒で書かないためにあとで残念なことになる」というタスクを色々抱えているなら、自分のためのノートはなにか一冊持っていた方がいいように思います。

そうですね。それぞれのひとにとって「紙でないと書けない情報・想い」といったものがあるはずで、それが詩だったり、イラストだったり人それぞれなので、iPhoneなどのデバイスからはみだした「想い」を受け取るのに最もよい紙面を選ぶのが、あまり口にされない手帳選びのポイントという気がします。あとは手帳に対する「愛」でしょうか(笑)。

対談後記

毎年この季節になると「どの手帳を選ぼうか?」「どの手帳が自分に向いているだろうか」と悩んだり、最新の人気の手帳に心が移ろう時期です。しかし、あまり不用意に目新しい手帳を選んでも、「自分自身を手帳に入れてゆく」のではなくて「手帳に自分を合わせる」ことになりかねません。

フリースタイルの手帳はこうした心配なしに、自分の想いを自由に書いてゆくのに最適な反面、埋めるのに経験が必要なのも事実です。そうしたときには、数日でかまいませんので、一日の最後に今日の出来事と明日の予定をすべて手帳の紙面でキャプチャーしてみる練習をしてみましょう。あなたは文章で物事をとらえるでしょうか? それともイラストが多いでしょうか? あるいは若干のフォーマットが合った方が楽にスペースを埋められるタイプでしょうか?

数日のこの練習が、あなたにぴったりの、来年の手帳を探すヒントになるはずです。

佐々木 正悟(ささき しょうご)
心理学ジャーナリスト

「ハック」ブームの仕掛け人の一人。専門は認知心理学。 1973年北海道旭川市生まれ。97年獨協大学卒業後、ドコモサービスで働く。2001年アヴィラ大学心理学科に留学。同大学卒業後、04年ネバダ州立大学リノ校・実験心理科博士課程に移籍。2005年に帰国。 著書に、ベストセラーとなったハックシリーズ『スピードハックス』『チームハックス』(日本実業出版社)のほかに『ブレインハックス』(毎日コミュニケーションズ) 『一瞬で「やる気」がでる脳のつくり方』(ソーテック)などある。

ブログ「ライフハックス心理学」を主催

堀 E. 正岳(ほり まさたけ)
ブロガー・気候学者

1973 年アメリカ・イリノイ州エヴァンストン生まれ。筑波大学地球科学研究科(単位取得退学)。理学博士。地球温暖化の影響評価と気候モデル解析を中心として研究活動を続けている。その一方でアメリカでライフハックが誕生したころからその流行を追い続け、最新のハックやツール、仕事術や自己啓発に至る幅広いテーマをブログ Lifehacking.jp で紹介している。 著書に、「情報ダイエット仕事術」(大和書房)、「英語ハックス」(日本実業出版社、佐々木正悟氏との共著)、Lifehacks PRESS vol2(技術評論社、共著)がある。「ブログ Lifehacking.jp 」を主催