佐々木正悟です。先週「人生を変える小さな習慣」という話が出ましたが、このことでよく思い出すのがGoogle社がやっているといわれる「20%の自由プロジェクト」の話です。今週は、この点について堀さんと対談してみました。

20%の自由プロジェクト

「Googleの20%自由プロジェクト」というのは、勤務時間の20%は自由なプロジェクトに従事してもよいというもので、GmailやGoogle Newsもこの企業風土から生まれたと言われています。この話をするとよく、「なぜ限られた時間なのか? 20%に限らず、もっと自由に開発をさせたらもっとすごいものができるのではないか」という意見を聞くのですが、これは逆ですよね。

佐々木 逆ですか?

たとえば、ルーチンワークのための時間とは別に、細く、研ぎすました創造的な時間の方が、いろんなアイディアが浮かんできて、効率がいいということがある気がします。そのためにも、自分の時間をたとえ5%であれ、「人生の目標」とか「家族」とか「休息」に割り当ててあることを「見える化」しておくことは大事ですよね。

佐々木 私はシゴタノ!の大橋悦夫さんがテストケースとして公表されている、エクセルベースの「タスクシュート」を使ってその「見える化」を実践しているのですが、堀さんはどのようなツールをお使いですか?

ものすごく単純で、Google Calendarを使って仕事・遊び・休息・目標実現といったカレンダーを作って重ね合わせることをしています。Google Syncを使えばGoogle CalendarとiPhoneを同期する場合、25種類ものカレンダーを利用できますので、休息なら「休息」というカレンダーをわざわざつくるんです。

Googleに用意したたくさんのカレンダー

佐々木 私もそういうふうにやっているのですが、「休息」も入れるとなると、カレンダーは隙間なくびっしり埋まるわけですよね?

はい。だから時間がどれだけあるか・ないかが「見える化」できるのです。ふだんの仕事や予定とは別にカレンダーを用意して、この中に「人生の次のアクション」も入れておく。すると毎日見る場所に、「人生の次のアクション」が入ってくることになるんです。Google Calendarに人生目標のカレンダーを作成し、重ねて表示することで、ふだんの予定と混ざらないようにしながら、常に目標と向き合ってる状態を作れます。

佐々木 「何もやっていない時間」というものはない、ということですね。何かをやるには時間が絶対かかるわけだから、どの時間帯も必ず「休息」かもしれないけれど、何らかの「行為」が入っている、というわけですね。そこで気になるのが、「20%の自由プロジェクト」たる「人生目標のカレンダー」です。これはつまり、「仕事」でもなく「休息」でもない、エネルギーを使う「自分のやりたいこと」ですよね。それをどの時間帯になさっているのですか?

それは非常に難しい問題です。私の場合は、常にこうした「目標」のカレンダーを見えるようにしておくことで、いつも「人生と出会う時間」を再調整し続けて、なんとか向き合える時間が何もしないよりは多くなるようにしています。むしろ佐々木さんに伺いたいのですが、どうして「人生で一番やりたいと思っていること」が後回しになるのでしょう?

「人生で一番やりたいと思っていること」が後回しになる

佐々木 確かに難しいお話ですね。これを一番うまく説明できそうなのは、「行動経済学」の考え方にあると、最近思うようになってきました。行動経済学では、「価値の相対性」というものをじつにうまく説明しますが、「人生で一番やりたいこと」というのも相対的なものなので、やりたくない仕事をやっているときにはくっきりと見えていても、やりたくない仕事をやり終えてしまったときには、見えづらくなってしまうのが一番の原因だと思います。

やりたくもないことをやっているときでなければ、「一番やりたいこと」が分からない、ということですか?

佐々木 そう思います。たとえは悪いですが、逮捕されて刑務所などに閉じ込められれば、「世間に出られて、コンビニや書店に行けるようになったら、とても自由で素晴らしいだろうな」ときっと思うでしょう。でもそれは、私たちがいつでもやれることですよね。同じように、ごちゃごちゃしたデスクに座って雑然としたファイルやフォルダでいっぱいの環境下で仕事をしているなら、「整理された状態を実現する」ことが最高の目的と思えるでしょう。しかし仕事が終われば、居酒屋へ直行することが「一番やりたいこと」に変わりそうです。

なるほど。他にこういうこともありますね。「今すぐやれ」と要求してくる、細々とした目の前のタスクに手をつけず、「自分のための大きなプロジェクト」に取り組もうとすると、何かサボっているような気になってしまいます。

佐々木 私たちは物心がついた頃から、そういう細々とした「今すぐやれ」と要求してくるタスクに追い回されてきていますから、それらを一気に片付けて「一番やりたいこと」だけに手をつけられる時間を迎えられれば、それは素晴らしいだろうと想像する。でも、実際に「一番やりたいこと」をやってみると、それはもう大してやりたくなくなっている。これでは堂々巡りになってしまいますね。ここで一歩踏みとどまって、とにかく「一番やりたいこと」に手をつけるべきだとすれば、忙しいのにその時間が取れている堀さんにお伺いしたいのですが、いつがいいでしょう?

やはり、朝起きた最初の1時間か、夜寝る前の1時間を「一番やりたいこと」のために空けておくというのが定番で、一番習慣にしやすいですね。感覚的には「歯を磨くのと一緒に」という感じです。大事なのは、その時間を迎えられたとき、すぐにやりたいことに着手できるよう、準備を練っておくことだと思います。「隙間時間」とは、その準備のために使うべき時間なのです。

対談後記(佐々木正悟)

今回はやや大局的なお話になりました。しかしこうしたお話を色々な方に、特に忙しくても生産性を上げている方に伺ってみると、参考になること、考えさせられることがいくつもわき上がってきます。「やりたいこと」に「いつも向き合っている」というのも面白いと思います。私たちは「自分がやりたいこと」でも、いつも向き合っていないと、それに向かえなくなってしまうものなのです。

佐々木 正悟(ささき しょうご)
心理学ジャーナリスト

「ハック」ブームの仕掛け人の一人。専門は認知心理学。 1973年北海道旭川市生まれ。97年獨協大学卒業後、ドコモサービスで働く。2001年アヴィラ大学心理学科に留学。同大学卒業後、04年ネバダ州立大学リノ校・実験心理科博士課程に移籍。2005年に帰国。 著書に、ベストセラーとなったハックシリーズ『スピードハックス』『チームハックス』(日本実業出版社)のほかに『ブレインハックス』(毎日コミュニケーションズ) 『一瞬で「やる気」がでる脳のつくり方』(ソーテック)などある。

ブログ「ライフハックス心理学」を主催

堀 E. 正岳(ほり まさたけ)
ブロガー・気候学者

1973 年アメリカ・イリノイ州エヴァンストン生まれ。筑波大学地球科学研究科(単位取得退学)。理学博士。地球温暖化の影響評価と気候モデル解析を中心として研究活動を続けている。その一方でアメリカでライフハックが誕生したころからその流行を追い続け、最新のハックやツール、仕事術や自己啓発に至る幅広いテーマをブログ Lifehacking.jp で紹介している。 著書に、「情報ダイエット仕事術」(大和書房)、「英語ハックス」(日本実業出版社、佐々木正悟氏との共著)、Lifehacks PRESS vol2(技術評論社、共著)がある。「ブログ Lifehacking.jp を主催」。