以前のコラムで、佐々木は「RSSで情報があふれかえって大変なので、もうRSSなしで済ませよう」というテーマを追ってきました。しかし、すさまじい量の情報があふれかえった中に、役に立ち、かつ面白い情報が潜んでいるのも事実。

今回から始まる対談連載では、私、佐々木が聞き手となって、「気候学者」でもある堀E正岳さんに、あふれかえる情報のインプットとアウトプットを、多忙な合間にどう実践されているか、その深奥に迫ります。

大事な記事は直感で選び抜け!

佐々木 まずお伺いしたいのは、どうして堀さんはRSSで情報収集しているのか、その基本の所から。

 情報整理は飛んでくるものをクリップしているだけではもう不十分だと思っています。アクティブに、自分の持っていない情報を探しに行くという話に絞っても、いままで普通に本を読むスピードで1日に 100 件くらいの情報を消化していたとしても、追いつきません。せめて1日500件の情報をアクティブに求めてゆくくらいでないと、情報戦では優位にたてないと感じています。

佐々木 探しに行く。なぜ探しに行かなければいけないのでしょうか?

 現実問題として、生産性の高いブロガーなどは、一次ソースの情報へのアクセス量が尋常じゃなく多い。「ネタ狩り場」をほうぼうに持っていて、新聞4紙というどころの話じゃなくなっている。今は、20年前には新聞4紙から情報収集していたのと同じくらいの手間で、ニュースサイトとブログ100個を毎日追えます。

佐々木 ただ、まじめに追っていると、時間がいくらあっても足りないのでは?

 そこで結局、「読むための時間をどうするか」という話になってきますね。たとえば、500くらい記事を読むのにかかる時間ですが、「表題 + 見た瞬間の印象」だけに絞ったとしても、ふつうにやってしまうと1件あたり「5秒くらい」かかるものだと思っています。

佐々木 慣れてくればもっと短くて済むかもしれませんが、普通に読むなら、そのくらいはかかるでしょう。

 しかし、これは、10分の1におさえられる。

佐々木 0.5秒?

 そうです。最近は0.5 秒でも面白いか、面白くないかというのは直感でわかってくる。

佐々木 本当に?

 大丈夫です。0.5秒でも直感的に判断できて、面白い記事を落とすことはありません。次々に視線を落としていって、時々、「まてまて!」といった感じで、面白そうだと気づいた記事に戻って読み直す。こうやっても、1記事に5秒かけていたときと、そう変わらない記事を選べていることに気がつきました。

直感的に読み下す

佐々木 そうすると・・・たとえばRSSリーダーでよく話題になる1000+もの未読記事ですが、仮に1000だとして、1000÷120とすると、8.3分? 10分弱で読めてしまうことになる! これはすごい!

 実際には、そんなことをしていると目が疲れますから、一度に300も読めればいいところでしょうか。

佐々木 しかしそれにしても、300読むのにかかる時間は、5分もいらないわけでしょう。それなら、1000+が少しも怖くないですね。

 1000+は確かに問題ではないですね。問題なのは、読むべきかどうかの判断に、時間をかけてしまうことです。「世界にとって大事、他の人が大事と言っている」ということを判断基準に差し挟むと、とても時間がかかってしまいます。大事なのは、「自分が面白い」と思える記事だけを選び抜くこと。そうすれば、思った以上に、直感で探し当てられるのです。

ライフハック 高速で「目」を動かして処理は「脳」に任せる

今回の堀さんとの対談から得られたライフハックは、一記事を「眺める」時間を10分の1にしても、「脳」の情報処理能力は、それに十分ついてくることができる、ということです。

私たちはものをじっくり眺めた方がよりよい判断ができると考えがちですが、「好き・嫌い」といった判断であればかえって時間は短い方がよいということが言われています。こうした一瞬の判断力は最近ではシン・スライシング(Thin Slicing)と呼ばれていて、芸術品の真贋を見分けることから、人生の伴侶を選ぶときまで、さまざまな時に援用できることがしられています。

この考え方を身につけることで、「1000+を10分で読める目」を自分のものにできます。こう考えて割り切ってしまうことで、実際に10倍速で脳に情報を処理してもらう。そうすれば、大脳の情報処理能力を、フル活用できる、というわけです。

そのために忘れてはならないことが、記事選別の際、「自分が面白いと思う」という基準以外を、一切無視すること。そうしないと、脳は1つ余計に仕事をしなければならないため、最高速度で情報勝利ができなくなってしまうからです。

高速に目を動かし、処理は脳に任せる

佐々木正悟の心理学ノート

対談中に、堀さんが言った0.5秒という数字は、でたらめに出てきたものではありません。堀さん自身が言及されましたが、これは、マルコム・グラッドウェルの『第1感「最初の2秒」の「なんとなく」が正しい』(光文社)という書籍から得た発想で、人間は、無意識でもかなりの情報処理が行えるのです。サブリミナルに関するいくつかの実験が、この事実を強く示唆しています。

対談後記

佐々木です。第1回対談は、いかがでしたでしょうか? 本連載はこのように、情報収集、情報整理などを中心としたライフハックスを、堀さんと、私・佐々木とが論じあっていく、という内容になる予定です。毎週、月曜日に掲載されますので、さらに先のことを知りたいというかたはぜひ、これからもチェックしてください。

佐々木 正悟(ささき しょうご)
心理学ジャーナリスト

「ハック」ブームの仕掛け人の一人。専門は認知心理学。 1973年北海道旭川市生まれ。97年獨協大学卒業後、ドコモサービスで働く。2001年アヴィラ大学心理学科に留学。同大学卒業後、04年ネバダ州立大学リノ校・実験心理科博士課程に移籍。2005年に帰国。 著書に、ベストセラーとなったハックシリーズ『スピードハックス』『チームハックス』(日本実業出版社)のほかに『ブレインハックス』(毎日コミュニケーションズ) 『一瞬で「やる気」がでる脳のつくり方』(ソーテック)などある。

ブログ「ライフハックス心理学」を主催

堀 E. 正岳(ほり まさたけ)
ブロガー・気候学者

1973 年アメリカ・イリノイ州エヴァンストン生まれ。筑波大学 地球科学研究科(単位取得退学)。理学博士。地球温暖化の影響 評価と気候モデル解析を中心として研究活動を続けている。 その一方でアメリカでライフハックが誕生したころからその流行 を追い続け、最新のハックやツール、仕事術や自己啓発に至る 幅広いテーマをブログ Lifehacking.jp で紹介している。 著書に、「情報ダイエット仕事術」(大和書房)、「英語ハックス」 (日本実業出版社、佐々木正悟氏との共著)、Lifehacks PRESS vol2 (技術評論社、共著)がある。